第8話 ゴブリン、キラービー、ミノタウロス退治

「ずいぶん、張り切っているじゃないか」


 冒険者たちが活躍してくれたことで、僕たちはかなりの領地を取り戻した。約三割くらいだろうか。


 あちこちに、やられたゴブリン共が転がっている。


 農家も、ほとんどが助け出されていた。魔物や魔族への食料供給を命じられていたらしく、農園も無事である。


「果樹園まであるのか。リンゴやミカンなどもあるぞ」


「山ン中にも、果樹園があるわい」


「動物に食べさせる用だね。全部農園で作ると、猛獣が山に降りてきてしまうから」


 僕たちも、戦闘に参加するか。


「サーベルやないか。武器を新調したんか?」


「僕が使う本来の武器は、これなんだ」


 サーベルなら、杖の役割も果たしてくれる。剣術と魔法の使い分けが、容易なのだ。


「アタシの武器も、改造してくれて」


 リユの剣を、魔法で改造したのである。ゴツゴツした質感こそそのままだが、東洋の刀のように反りを入れてみた。剣の腹で斬り、背で防ぐ。攻防一体の武器にしたのである。


「太刀の形になっとる。これはこれで、使いやすかろう」


「【魔改造】……ってほどではないけどね」


 下位互換の、【融合】を試してみた。


「さっそく、試し切りの相手が出てきたぞい!」


 領地を奪われて、怒り狂ったゴブリンが襲いかかってくる。


「オラオラ、おめえらの相手はアタシじゃ!」


 リユが、ゴブリンたちを切り裂く。剣の振りが、早くなっていた。そこまで威力を上げたつもりは、なかったんだが。


 僕も、サーベルから【ファイアアロー】を撃った。炎の矢で、ゴブリンの心臓や額を撃ち抜く。


「おお、これはええわい!」


 剣の切れ味に、リユもご満悦の様子だ。


「ご機嫌そうで、なによりだ。【ファイアランス】!」


 僕は剣から炎のヤりを伸ばした。背後に迫っていたゴブリンを、ノールックで撃ち落とす。


 僕がさっき倒したゴブリンは、肌が赤かった。どうやら、ゴブリンチーフを打ち倒したらしい。


 だが、ゴブリンチーフは絶命の間際にラッパを吹く。


 森が、ざわつき始める。


 人間サイズのハチが森を飛び出し、上空から迫ってきた。


「新手じゃ!」


「キラービーか!」


 膨大な数である。空を覆い尽くすほどだ。偵察と、農民の脱走防止用のモンスターか。


「これだけなら、物の数ではない。【レビテイト】!」


 僕は、浮遊魔法を唱える。身体を宙へ浮かせた。


「飛べるアドバンテージが、ソッチだけにあると思うなよ」


 竜巻を起こし、キラービーの大半を削る。


 この手の虫型モンスターは、羽根だけをちぎればいい。後は、リユが悠々と切り刻んでくれる。


 キラービーたちが、森へと戻っていく。


 森に入ると、キラービーの巣が見えてきた。


「でけえ。ハチミツまみれかのう?」


「キラービーの巣の材料は、家畜や人間の脂だ。蜜を取ろうなんて思うなよ」


「うえええ。わかったわい」


 巣の撃退に、容赦しない。キラービーを巣ごと殲滅する。


 合計七個の巣を撃滅した。


「これであらかた……ディータ、まだなんかが来よるぞ!」


 森の奥で、何かが光る。


「うわっと!」


 僕はとっさに攻撃を避けた。


「気をつけい! ミノタウロスの斧じゃ!」


 バカでかい斧が、岩山に突き刺さる。


 ノッシノッシと、巨体が斧を回収しに来た。硬い岩に刺さった斧を、軽々と引き抜く。


「ガアアアア!」


 よだれを垂らして絶叫したミノタウロスが、リユに切りかかった。


「リユ!」


「手を出さんでええ! 【焔の波】ィ!」


 リユの剣から、紅蓮の炎が巻き起こる。炎に包まれた剣で、リユがアッパー気味に剣をすくい上げた。


 ドロッ、と、ミノタウロスの巨体が真っ二つに。剣戟ではなく、熱で切り裂かれたかのようだ。


「すごい。これが本気になったリユの斬撃か」


「感心するねえて。おめえが作った武器がええんじゃ。アタシでもここまで斬れると思っておらなんだ。いつもは、武器を切れればええくらいよってに」


 リユの武器から、炎が消える。


「これだけで、済むとは思えない」


「おう。これだけの規模で、親玉がミノタウロスなんてことはなかろう」


 ゴブリンを倒して農民たちを解放しつつ、さらに奥へと向かう。


「おったぞ!」


 リユが、前方を指差した。


 冒険者たちが、一体のモンスター相手に苦戦している。


「お前たちは逃げろ! ここは、僕がやる!」


 重傷者を避難させ、僕はモンスターと対峙した。


「なんだ貴様らは? 魔王様の畑を荒らすのは貴様か?」


 カブトムシ型の全身ヨロイに身を包んだ騎士が、大剣をこちらに突き立てる。


「ここは僕の領地だ、人の領域を荒らしているのはお前たちのほうだろ?」


「貴様が、例のボニファティウスのガキか。貴様の首を持ち帰れば、俺は魔王の手によって更に強くしてもらえよう! キラービーッ!」


 騎士が、増援を呼ぶ。だが、ハチたちは現れない。


「もういないよ」


「なんと……斥候も偵察部隊も全滅とは」


「サシで勝負しよう」


「望むところ!」


 僕は、ファイアランスを放つ。


「ムダムダ! 大型の虫型モンスターと融合した俺の装甲、そんなマッチのごとき火では貫けぬ!」


 昆虫騎士の剣が、僕の剣を弾く。


「しまった!」


「ハハハ! 領主などこの程度か!」


 無防備になった僕に、騎士が剣の先で刺そうとした。


 だが、首を刺されたのは騎士の方である。


 僕の剣の先が伸びて、騎士を刺したのだ。

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