第6話 機動執事 トラマル

 ボニファティウスは、祖母筋が直系だ。祖父は婿養子で、人間である。祖母方が、魔族の血をわずかに受け継いでいた。


「聞いたことがあるのう。ボニファティウスは、そういう場所じゃったと」 


「僕は祖母から、固有スキルの知恵を学んでいるんだ」


 その祖母も、最近亡くなってしまったが。


「素材が足らんようじゃのう。メタリックジェルの素材があるが、いらんか?」


「助かる! ほしい!」


「ほれ、ディータ」


 ちょっとした全身ヨロイくらい大きな素材を、リユが放り投げてきた。


「ありがとう。これで、このマシンが息を吹き返すぞ。


 キャッチして、メタリックジェルの素材を加工する。


「どうも」


 ジェルの金属部分を、オートマタの修理素材として扱う。


 最後にフタを止めて、ようやくオートマタの修理は完了した。


「はあ、はあ。できたよ」


 二時間くらいかな。日が出てくる前に、できあがってよかった。


「あとは魔力を流し込んで、動くかどうか」


 背中を向けさせ、オートマタに電撃魔法を送り込む。


 点灯していなかった丸い両目が、緑色に光った。


「人造執事の完成だ」


「これが、人と魔族が共に暮らしていたシンクレーグの、科学力かえ」


「人と魔族が共存できる世界を、祖母はずっと築こうとしていたんだ。けど――」


 話そうとしたときに、僕の意識は途絶えた。少し、ムチャをしすぎたかな。


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 僕は、祖母から昔話を聞いている。夢だとわかっているのは、祖母がもう亡くなっているからだ。僕の身体も小さい。おそらく、幼い頃の夢だろう。

 人と魔族が争っていると言っても、魔族側は一枚岩ではない。

 祖母の先祖がいたこのシンクレーグ国は、人と共存しようとしていた。が、国ごと滅ぼされて、ほぼ跡形もない。領地もほぼすべて、魔族に占領されてしまった。

 僕の手で、立て直す。

 悪党を追い払い、人と魔族の共存できる世界にする。この国だけでも。

 夢の中で、祖母と約束をした。


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 目を開けると、ぼんやりと祖母の顔が浮かぶ。


「おばあさま?」


「それほど、歳を取っとらん」


 気がつくと、僕はリユに腕枕されて眠っていた。


 リユの胸に、顔を挟まれているではないか。


「ごめん」


 僕はあわててベッドから半身を起こす。


 窓の外はもう朝……いや昼間になっていた。


「そうだ。執事は」


「おはようございます。主様」


 樽型のアイアンゴーレムが、僕にかしずく。


 どうやら執事ゴーレムは、完成したらしい。言葉も話せるとは、かなり高度な技術が使われていたようだ。今となっては、わからないけど。


「私は名もなきゴーレム。名前をいただいて、ようやくあなたの執事として本契約となります」


口調は礼儀正しく、イケているボイスだ。メタルジェルの素材を、声帯に活用してよかった。


「ああ。わかった」


 とはいえ、名前なんてどうしよう?


「ホンマは、アタシが名前をつけてやろうかのうって思うていたんじゃ。けんど、おめえじゃねえと命令を聞かんらしくてのう」


「そうか。なんて名前にしようとしたの?」


「トラッシュ型で丸いから、トラマルじゃ」


 安直だけど、見た目には合っているかも。


「僕はディータ。ディートヘルム・ボニファティウス第四王子だ。こっちはリユ・キヴァ。今は僕と結婚して、ボニファティウス姓を名乗っている」


「はじめまして、ディータ王子様、奥様のリユ様。私に名をくださいませんか?」


「うーん」


 何も思いつかない。


「じゃあリユの案を採用して、『トラマル』で」


「トラマル。素晴らしい名前です。これより私は、機動執事トラマルとお呼びください」


 名付けが終わると、執事トラマルはあいさつをした。


「では主様、私は何をすれば?」


「あいさつ回りだ。お前にこの一帯の管理を任せるからな」


 街の巡回をする目的は、街の人にトラマルの顔を覚えてもらうことだ。


「お食事は? 本来なら、内蔵記録装置によって、トータル二〇〇〇種類のメニューを作れます。が、この付近には素材がなく、三種類しかご用意できません」


「外で済ませる。街の管理もしたいからね」


「かしこまりました」


 トラマルとリユを連れて、あちこちを回る。


「このシンクレーグも、もともとは祖母の一族が所有していた土地だったんだ」


 今は荒れ果て、魔族の好きにされているが。


「どの場所も、ショボイのう」


 色々巡ってみたが、あまり流行っている様子はなかった。食料庫も、心もとない。


「一応それなりに冒険者はいるから、狩り場としては優秀みたいだね」


「しかし、冒険者では長居をせん。お金持ちなどはみんな、安全な南の方へ逃げてしもうとる」


「そうなんだよね」


 シンクレーグでも、こっち側は安全だってわかってもらえたら、お金の動きだって変わるかも……ん?


「なんだ、いい匂いがする」


 商業ギルドの隣から、スパイシーな香りが。


「カレーかな?」


「そのようです。シンクレーグは、香辛料の産地としても盛んですので」


 南の王国の食べ物だと思っていたが、ここでも食べられるとは。


「とはいえ、香辛料の活性作用を悪用し、魔族が麻薬の原料にしてしまっているという話もございますね」


「脱法危険ドラッグってやつだね」


 それはいけない。カレー文化を滅ぼそうって言うなら、こっちが魔族を滅ぼす。


「悪い魔族を滅ぼす前に、腹ごしらえだ」


 この判断が、後に冒険者たちをカレー中毒にまで追い込むことになるなんて。

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