第20話 ゾルダン男爵を詮索したら

 夕飯の準備を始めたらマリンカ、ナツフカ、ユリシアさん母ズが来た。

 「手伝います」

 「良いですか、じゃあこちらでこれを棒で砕いてもらえます」

 「エビ?の殻?」

 「この鉢は何です」

 すり鉢。

 「こう中に入れて棒でゴリゴリすれば、ね」

 「はいわかりました」


 エビフライを作るたびいつもの居酒屋を思い出す。

 久しぶりに行ったとき妙に客が少ないので聞いてみたら始まりはエビフライらしい。

 そういえばいつも居る女性調理番がいないと思ったら彼女ともめた元がエビフライなんだと。

 エビの殻でだしを取って衣を作るフレンチ風と殻を天日干しで乾燥させて(今ならレンジか)砕いてパン粉に混ぜる洋食風があり店では洋食の方を出しているんだとか。

 ただ味の好みはたまに変わるそうで時折フレンチ風を出して反応を見るそうだ私で。


 「はっは、旦那は表情が分かりやすいからすいません」


 当時私が七五位で親父は少し上ぐらいだった、時折サービスしてくれたのはそれでか、確かに偶に味がぴんとしてる時が有った。

 和食の事で色々教わったりしていたことも有って気さくにしてくれる。いつもの方がいいのにと思ったことも有ったな確かに。


 その彼女がフレンチ風が好きで何度言っても隠れてそちらを出すんだそうだ最後に強めに行ったら例のセリフを言って飛び出してそれっきりらしい。


 その後、本人じゃなさそうだけど、ネットで呟かれて今のあり様。だけどほんとに辛かったのは彼女縁故採用で親類縁者から吊るされたそうだ。


 「旦那の生徒さんが同じ着流しで来てくれるんで店は丁度いいくらいですよ」

 「あれ知らないんですかこの町で着流しは戦闘服ですよ」


 私の数少ない自慢話でもある、次の日新調しに行ったのは余計か。


 リサが中華鍋でナンを焼きだして、リリカがパンをちぎってくれるのをちらりと見ると長い髪を一つ三つ編みにしたゾルダンの第一夫人マリンカさんが声をかけてきた。


 「あのオムル様?」

 「はい?。まだ是認の儀は受けていないので形だけですので」

 「はいそれでは、先ほどデバス様とお話をしていたのが聞こえたのですが私達が知っていることが何か役に立てないでしょうか?」


 さすがに気まずくて聞けなかったんだが彼女達の目が怖い、ほんと何やったんだゾルダン。


 「えーと、十年ほど前の事で何か覚えてることって有ります?」

 「十年前はまだ先代が生きてましたね確か八年前に即位されたはずですよ」

 ユリシアさんが目を伏せ気味に思い出してくれた。


 「一番古い私が八年ほど前ですわ、半ば攫われるように嫁がされましたの」

 「ええそうですこの間辞めたメイド長に聞きました、とっても荒れている時期で捕まらないか心配だったって。」

 ふんわりヘアーの元商人のお嬢様ナツフカさんが被せてきた。

 「それでは機嫌が悪かった時の言動で直前にあまり理由がないような事ってあります?」


 三人がゴリゴリすりこ木を回しながら黙り込むふとマリンカさんがシーソーを見る。


 「そう言えばあのワンピース、仕立て屋さんが”お金がもらえなかったのに”とか言ってました。」

 「コウシアちゃんの今着てるやつですか?」


 団子みたいに髪を結いあげて快活に笑う女の子確か七歳、腰元に大き目のリボンが付いたややクリーム色に近い白のワンピース。


 「ええ三着もあって、何でこんな大きな服がって聞いたら激昂して二着は取り上げられて一着だけ隠せたんですの」


 この世界でも同じ服は同志集団か着せられる場合しかない。

 「私の状況を見てあまり良い環境とは思えませんでしたから屋敷の物は一寸ずつチョロマカしてましてよ」


 「う~ん女物かー」

 「あら?外しましたか」

 マリンカさんが奇麗なリップをちょっとへの字にする。

 ごめん。今のコウシアちゃんがピッタリか、いろいろ考えすぎかなあ。


 それからは堰を切ったように悪口が飛び出した。お茶会で少し遅くなっただけで打たれただの帰った時に庭にいただけで怒鳴られただの、最後は親が居なくなった、友達が居なくなったと行方不明の話が出始めて手が完全に止まってしまった。


 その時セリアーヌさんが休憩とばかりに背伸びをしてテーブルにきたのでお茶を入れる。私はほんとに馬鹿なので慰めるなんて出来ない、いつも場を最悪にしてしまう、逃げるようにテーブルに行く。

 「どうぞ」

 「やあ、ありがとう」

 ちらと此方を見て直ぐ前を見る。え、嫌われたか、美人に嫌われるのは一寸傷つく。

 「君はまだおっぱいが好きなのかい?」

 前を見ながら言う。

 「テミスさんに何か言われました?」

 「言ってたぞこんな、胸張って」

 「あれは反則だから」

 「否定はしない」

 「一緒に風呂に入るか丁度いいってのもあるぞ」

 「やめてくださいもう少し、ね」

 「ぬう」


 この人にとっての私の立ち位置が分かった。お気に入りの甥っ子だ、私が好意を示したので自分の立ち位置が分からなくなってポンコツになってる。

 嫌われたくないのでつい中途半端な返事をしてしまった私のポンコツに比べれば皆まともだな。



 リサに肉を焼いてもらい私は野菜を蒸し温めて其の間にカレーを作る、今日はできる事を全部しよう。

 エビフライはエロメイドのユリシアさんに任した、揚げ物の経験はあるそうで、エビを五分ぐらい重曹水に漬けて衣とかの説明をしている間、胸元を開けたり匂いを押し付けてくる。移動するたびにスカート上げたり要らないから、見るけど。


 水を研ぐという作業がある、例の居酒屋でテレビのラーメン屋の話をしたときに教えてくれた。

 親が三十年かけて作ったスープを何とか受け継ぎ息子が二号店を出したがうまくいかない、親が見本を作りに現地に来ると実にあさりと出来上がるが原因が分からないという内容。

 それはたぶん年期と効率の差が出たんだという、料理というものは味付けで決まるんだがその足を押したり引いたり転がしたり、しに来るのが水なんだとか。


 一から苦労してスープを作り上げた親父は自然に調整できたが知ることでスープを作り上げた息子には荷が重かったんだろうと言って奥からピッチャーを二つ持ってきたどちらも水のようだ。


 それぞれをコップに注ぎまず右、次に左、最後に右を飲んで下さいというので試した、飲もうとしたらどちらも今汲んだ水道の水だと言われた。

 何だと思いながら口を付ける、右を飲む、普通、左を飲む、普通、何だ意味がないような、右を飲む、うえっなんじゃこりゃ。


 明らかに違う何でか最初に飲んだ時と味が全く違う、やっぱり旦那は分かる人ですねと言う。

 「実は左の水は鰹節をすこーしだけ潜らせたんでさ」

 「最初右を飲んだ時こんなにまずくはなかったぞ」

 「良い方には鈍く悪い方には鋭敏に働くのが舌らしいですよ」


 その後家に帰ってから白湯で試した、道場では白湯が常備されているがこれがのどがひっ詰める感じがして苦手だったんだ。

 茶葉をほんの少し入れてやった。

 翌日妻に怒られた何時もの倍沸かさないといけないと。


 面白くなって、いろんな料理で試した研いだ水を使うとほぼすべての味が変わった、怖かったのはネギを一度水道水で洗うと三十分位元に戻らなかったことがあったことだな。


 研ぐのは料理に合った物、みそ汁なら鰹とかだが、カレーの場合はコーヒーが一番だった根っこを焦がしたものがあったな。


 さてカレーも出来た野菜と肉を放り込んで鍋を小分けにしてテーブルに並べる。

 「このパンに乗せてカレーをかけて最後にエビフライを載せていただいてください」


 私はパンテさんの近くでパーテイションを組んで中にテーブルを置き五人分のカレーとジュースを置きウインドウを開いた。

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