第2話
そして迎えたバレンタイン前日の土曜日。本命手作り勢の勝負の日だ。
SNSを見ると、手作り勢たちはぞくぞくと行動を開始しているようだった。ラインにも、『今から作るぞ!』と決意のメッセージがいくつも届いている。
私は友チョコを作るだけで月曜日に間に合えばいいから、明日取り掛かる予定だ。
ベッドでゴロゴロしながら、ツイッターでおまじないレシピを検索してみた。ルールを無視したり知らなかったりする人が、作った報告してないかな? と、興味本位だ。
《彼の心を奪う❤️おまじないレシピでつくったよ!》
《おまじないレシピは本物! やばい! 明日は予定あるから今日チョコあげたんだけど、ちゃんとあの通りにやったら、絶対無理だと思ってたイケメン、ゲットできたよ! しかも今カノと別れて! 効果やばすぎる》
《これからあのレシピでチョコ作ります》
こんな文章とともに、美味しそうなチョコレート菓子の写真が、いくつも検索にひっかかった。なんだ、注意事項を無視する人結構多いんだ、なんて思いながら、するすると画面に指をすべらせて投稿を眺める。
──けれど、日曜日。バレンタイン当日になると、投稿の様相が少し変わった。
《おまじないレシピ絶対作っちゃダメ》
《味見しちゃった、どうしよう》
《え……これ、チョコのせい?》
《友達がおまじないレシピでチョコ作ったらしいんだけど、ちょっと信じられないことが起こった》
何? 何かあったの?
正直、野次馬根性だ。何かあったなら面白い、何か起こってたら明日の話題には事欠かない。そんな好奇心で不穏な投稿を中心に、読んでいった。
《あのレシピで作ったってチョコ、もらったんだが、その後彼女と連絡がつかない》
《告白までは無理だったけど、片想いの人にあのレシピのチョコあげた。恋が叶うなんて絶対嘘だよ。彼がお腹痛くなって救急車で運ばれた。私のチョコのせいみたいんじゃん。絶対嫌われた》
《このアカウント主の姉です。代理で書きこんでいます。弟は突然の心不全で緊急入院しています。原因不明で意識が戻るかもわかりません。心当たりもありません。バレンタインにいただいたチョコを食べていた時に急に倒れました。こういう状態なので、弟が主催するイベントは中止させていただきます》
《彼女に毒盛られた疑惑。チョコ食べたら顔がただれた。今皮膚科》
うそだぁ。ネタでしょ? ネタだよね?
怖くなってテレビをつけてみた。本当にこんなこと──チョコを作ったり食べたりした人に何かが起こっているなら、ニュースになっていてもおかしくない。けれど日曜日の昼間なんて再放送のドラマとかバラエティしかやってない。ニュース速報みたいなものも特に出てこなかった。
ピロンと、ラインの通知音が鳴った。
『ねえ。あれ、作ってる人いる?』
なんで聞いちゃうかな。誰かがうっかり答えちゃったら注意事項破っちゃうことになるじゃん!
『つか、既読少なくない? みんな見てないの?』
『今いない子たちは、ちょうどチョコ持ってって告ってるんじゃなぁい?』
『私はあのレシピじゃないよ、結局』
『ウチ、今から渡してくるよ! あ、これって作ったこと教えることにカウントされる?』
『何も言わないのが正解だったかもねー。ツイッターとかインスタとかやばくない?』
『なに、なんかヤバいの?』
『この話題、しないほうがいいレベル』
『えー! 超気になるんですけどww』
『見たけど、あんなん何とも言えなくない? レシピのせいって決まってないし。信じてないし。あたし、作ったけどなんともないよ』
『ちょ。言ってんじゃん』
『これ、お
クラスのグループラインはこのあとぷつりと沈黙した。
作ったことを言えば自分か相手に呪いが降りかかるかもしれないからなのか。それとも、連絡ができないような状況になってしまったのか……。
気味が悪くて、この不気味を共有したくて、誰かに電話してみようかとも思ったけれど、それが注意事項を破ることにつながったらと思うと、できなかった。
何か情報を得ていないと不安になってきてツイッターを見ると、さっき見たような投稿がどんどん増えている。それに憶測が加わったり、おまじないレシピに関連すると思われる投稿をまとめる人も出始めた。
もはや怖いもの見たさ。都市伝説でも目の当たりにしている気がした。
《手作りチョコゲット! でも、これ、あのレシピじゃないよな? 食べて大丈夫?》
《やばいことが起こった。職場で義理チョコ配られたんだけど、食べたやつら、みんな胸おさえて苦しそうに倒れた。あのレシピ使ったらしい。俺はツイッターで見てたから、手作りって聞いて一応食べなかったから助かった》
《皮膚科にきたら、なんかすっごい顔がただれた人がいっぱいいて引くレベルだったんだけど、なにか近くで事故でもあったのかな》
《あのレシピ、出来上がったの味見してから胃がヤバい。死ぬかも》
他にもたくさん、まとめを見れば“あのレシピ”が関係してそうな投稿がいくらでも見れた。
自分は手を出さなくて良かったと胸を撫で下ろしつつ、テレビやSNSをずっとチェックしてしまったので、夕方外が暗くなり始めてから、慌てて友チョコ作りを始めた。夕飯を作りたいお母さんに、台所を占拠していることを怒られながら……。
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