戦場の乙女襲来
結果として戦場の乙女の来客は防ぐことができなかった。
ドラゴンに乗った戦場の乙女は、はるか上空から蒸気薫るともすればアンティークにもみえる神軍楽園守護部隊の証である機械仕掛けの翼を広げ滑空してきたため、自宅兼人形屋が木っ端微塵になることだけは回避できた。
しかし、戦場の乙女の怪力によって店の入り口である質素な飾り扉は見るも無残に破壊されてしまった。
人形師はどうやってこの二人を追い出すか頭がいっぱいである。
「人形師殿失礼する。……おや、君はプリエルウィッチじゃないか!先の戦いでは大変手強かったのを覚えているよ!なぜここにいるんだい?」
「その名前で呼ばないでくださるかしら。アタシはこの子の師匠なの、なにがいけなくって?戦場の乙女サマ」
魔女は杖を一振りして、戦場の乙女が破壊した扉を直した。
魔法の師匠であることは間違いないが、宝石人形にはてんで興味がないのに師匠ヅラされるのは人形師として少々腹がムカつく。
扉を直してしてくれたのは有り難いが、厄介な仕事を持ってきたのはそもそも魔女である。
やはり追い出してやると人形師はひとり息巻く。
「ハハッ、すまない。魔女殿に弟子がいるとは知らなかったんだ。魔女殿も勿論居てくれて構わない!そういえば、手土産を用意していたのだった。扉を壊してしまった詫びとしても受け取ってくれ」
戦場の乙女は大きな包みを異空間から取り出し、机の上に置いた。
一言断りをいれ、人形師が包みの結び目を解くと、そこにはドラゴン素材が山のようにあった。
「ふーん。この前調伏したらしい赤龍の鱗とドラコーンの牙ね。ニーズヘッグの爪は世界樹で爪切りさせてもらえば取れるけど、この国では生息していない白龍の髭はどうやって確保したんだか……あとはワイバーンだけど量が多いわね。そういえば内臓は?心臓はないのかい?」
「内臓は魔法使いたちが欲しがるため手元にない。それと心臓は残さず国に納める決まりだ。エネルギー生産の研究開発と言っていたか、神軍に属する自分には詳しい話はなかなか降りてこない。が、そもそも自分は魔法生物や素材にあまり興味がなくてな」
戦場の乙女はドラゴン素材に本当に興味がないのか、はたまたなにか裏があってのものなのか、人形師は計りかねている。
しかし、このラインナップは魔を齧るものからすれば喉から手が出るほど欲しい。
「いやいや十分過ぎるほど有難い。ですが、こんな量いただけませんよ」
「では、いち神学徒から神物守護者である宝石人形師への寄付とでも思ってくれ。毎度ドラゴン討伐や調伏の配分で貰うのだが、本当に使い道がない……自分の得物は己が拳であるからして、防具素材にするにしても少しあれば事足りる。しかし、狩って素材にできるような雑魚でも、他の害魔に比べドラゴン素材は神性を帯びているからそのまま市場に流せない部位も多いのだ、遠慮せず受け取ってもらえるとこちらとしても助かる」
戦場の乙女は握り拳を笑顔で見せつけてくる。
人形師は言葉の節々から、戦場の乙女は神託を受けた巫女などではなく戦闘狂であると、うすうす察してしまった。
その拳で幾重の国の敵を狩ってきたのか、考えただけでも人形師は身震いする。
故に人形師の返事は1つである。
「では、ありがたく頂戴します」
先程までの思考はドラゴン素材の誘惑と戦場の乙女の背後をちらつく宗教的武力によってたちまち消えてしまった。
「それでは、本日のご依頼は宝石人形の初回メンテナンスと宝石人形の扱い方についての軽いご説明でよろしかったですか」
「うむ。よろしく頼む」
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