(六)都市伝説
智子は、「夏木鞠子、
ゲノム編集研究所、西帝遺伝子工学研究所の所長だった。
しかし、六年前に行方が分からなくなっていた。
ゲノム編集研究所のメンバーだった三人の研究者達も、行方不明になっていた。
警察に捜索願いを出したが、行方は分からぬまま事件は迷宮入りした。同じく研究員だった三人は、家族ごと姿を消している。
現在の大学学長は、鞠子の弟にあたる人物、
ホームページへと戻ると、もう一つ智子の目に留まる記事があった。こちらも都市伝説のサイトである。
見出しのところに、「違法の研究を密かに行っている研究所」と書かれていた。更に下の記事には、「デザイナー・ベビー」の文字が…。
「デザイナー・ベビー?」
智子は、思はず記事を声に出して読んだ。聞いた事のない言葉だ…。だが、智子は、意味がわからなくても、何処か人を不安にさせる響きのある言葉だと思った。
(遺伝子改変させ、優秀な子供だけを生み出すデザイナー・ベビー計画の研究を行い、密かに人体実験を行っていたという噂が立った。昔、研究員だったというとある男性が、匿名で研究所を告発した。デザイナー・ベビー研究施設は、某大学の研究所とは別の、秘密の研究所があり、秘密裏に人体実験を行ってると..。
その男性は、告発後に行方を晦ました。とある研究所所長、N氏の関与が疑われている。)
また、こうも書かれていた。
(行方不明になった研究所のメンバーの中には、昔発生工学研究員で、クローン犬を誕生させている研究を、行っていたとされる。謎は深まるばかりだ…。)
「優秀な子供だけを産み出す研究…。」
智子は、頭を悩ませた。そんな事が可能だろうか?
ただ、智子の勘に過ぎないが、この夏木鞠子という人物には引っ掛かる。
何かがある、と智子は思った。
「エス・エフ小説みたいだな…。」
不意に電話が鳴り出したので、智子はびくりと肩を震わせた。智子はパソコンから目を上げて、受話器を手に取った。相手は柚子希だった。
「もしもし、智子?」
柚子希の声が電話から流れてきた。
「うん、何かあったの?」
数日前の会話を思い出しながら、智子は柚子希に尋ねた。何か新しい事でも分かったのだろうか?
「ちょっと、気になることがあるの。笑われるかもしれないような事なんだけど…。」
「ううん、話してほしい。何時ごろ来れる?」
「今、車で大学の近くまで来てるの。」
智子は目を丸くして、「えっ、」と小さく叫んだ。柚子希の母校は東京にある。柚子希が大学まで行くなんて、何か重大な情報でも掴んだのだろうか?
「智子にも聞いてもらいたい事なの。こっちまで、バスか新幹線で来れない?夜は私のアパートで泊まればいいから」
「分かった。お父さんに伝えて、そっちに行くよ。どうすればいい?」
「それじゃ、新宿駅のタクシー乗り場まで来てほしい。」
柚子希は、それだけいうと電話を切ってしまった。
電話を置いた後、智子は父にこの事を伝えた。すでに前から、父は柚子希から連絡があったらしく、すぐに話をつけてくれた。
そのまま智子は荷造りを済ませ、近くのバス停で静岡駅行きのバスを捕まえると、智子は駅へと向かった。
駅に着いたのは、十二時十五分ごろだった。売店でお弁当とお茶、そしてお菓子を買うと、三十五分発の新幹線ひかり号の特急に飛び乗った。
平日だったからだろうか、思ったより人が居らず、智子は楽々と、自由席の窓側の席に座った。
突如、空腹感が智子を襲った。お弁当は天神屋の幕内弁当と、オレンジのラベルが貼られたほうじ茶。それらをビニール袋から取り出して、智子は貪る様に食べた。
緊張の糸が切れたのだろう。空腹感に満たされると、智子はスマホを取り出して、チャット・アプリを開いた。
友達のホームページの欄に、柚子希のプロフィールを見つけて開くと、ネットの記事と、スクリーンショットされた都市伝説サイトのトーク画面が載せられていた。
都市伝説サイトは、何か自分の身に起こった不可思議な体験談などを投稿できるようになっていて、トーク画面ではネット上の人物と情報のやり取りができるのだ。
智子は、スクリーンショットされた投稿を読む。柚子希は、ペンネームの「柚子の木」の名前を使って投稿していた。
名前と地名を伏せて、智子と和葉に起こった出来事を、簡単に書かれていた。彼女も、何かを期待して書いたものでは無かったのだろう。
ただ、柚子希の投稿の回答欄には、気になる回答がいくつか寄せられていた。
『あっ、それってもしかして最近ネットで騒がれてるヤツじゃない?』
『入れ替わりドッペルゲンガー。もう一人の自分を見た人が、その後人が変わったようになって、突然趣味が変わったとか、行動パターンが変わったとか。
自分が目撃したドッペルゲンガーに、その後自分の人生を奪われる。』
『十代後半や二十代に、最近ドッペルゲンガーを見たという証言が急増している。目撃した人間には、失踪者も出たそうだ。』
『ドッペルゲンガーを見た人間は人格が変わる!』
さらに、柚子希が特に、記事にマークを付けていた投稿が最後のページに載っており、智子はその記事の内容に驚愕した。
『二十二歳の大学生です。僕は東京出身ですが、一度静岡のキャンプ場に出向いた時、もう一人の自分を見ました。中学生の林間学校時代です。
友達にそのことを話すと、それはドッペルゲンガーではないかと云われて、もり上がっていたのですが、キャンプ二日目に、体調を悪化させて意識を失いました。
学校行事のキャンプだったので、担任の先生が救急車を呼んでくれて、気が付いたら近くの総合病院に運ばれてました。
その後、僕は気が付いてなかったのですが、両親が僕の性格が変わったと言っていて。
僕が別人になったと言っているのです。そちらの『柚子の木』さんも、同じようなことが起こったのでしょうか?』
智子は食い入るように投稿画面を見つめた。
(彼にも同じことが起きたんだ。一体誰なのだろう?)
この投稿者はペンネームは、『ヒジリヤマ』と名乗っていた。本名だろうか?智子は、今度はネット記事を読んで見た。普通の新聞社が運営する、地元ニュースのネット記事だ。
そこに、また奇妙な出来事が書かれていた。
『カルト教団新世界救世団が、本部局を静岡の牧之原市に移転した。その後、静岡全体で、十代から二十代の男女の失踪率が加速した。特に大半は、牧之原市で急増している。
今年だけで百二十名の児童や成人者を含めて失踪し、まだ半数の六十名程しか保護されていない。保護されたうちの十六名は原因不明の自殺したり、失踪時の記憶を飛ばしていたり、記憶自体を喪失している者もいた。新世界救世団の指導者が、十一月二十日に警察から事情聴取を受けたものの、誘拐に関与している証拠は上がらず、本人も否認している。
そのまま、事件は迷宮入りした。記者団は、政治家と宗教の関与を疑っている。』
智子は興奮を鎮めるようにふぅ、と深呼吸をして車窓から流れる景色を見た。山の方は冷たい雨が降っていて、雨が窓を叩きつけた。
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