幕間エピソードIV「安原氏による超能力解説」

 小野さんと古谷さんは同じ能力を持っている。

 他人の放出された感情という名のエネルギーを吸収してその性質を分析、これで相手の心を読める力なわけだが小野さんはこの能力の使い方を当初、勘違いしていた。なんとなくあの人は今どんな気持ちなのかを敏感に感じ取ることができるとは思っていたみたいだが……。

 小学生時代、小野さんは一時期クラスのボス猿的な生徒からいじめのターゲットにされていた。

 ある日の昼休みにバレーボールを頭に目がけて投げつけられて、これまで溜まっていたストレスが満杯になって溢れ返ってしまう。

 そして、憎しみの眼差しをそいつにぶつけてわずかでも怯えさせた。

 そしたらそいつはその後どうなったと思う? サッカークラブの練習帰りに車の交通事故に遭い足を骨折してしまったのだ。その骨折が影響して、負傷前のキレのあるプレーはできなくなりサッカーを辞めてしまう。

 睨めつけた時、そいつの背中には黒い影が見えたと小野さんは語っていたな。

 中学生でも同じようにお次はテストの点数についてちょっかいを出してくる奴がいたので、そいつの高校受験を失敗させたそうだ。

 第一志望のその地区の難関公立高校には受からず、併願で受けた学費がばか高い私立高校にグレードを落とす。

 何かと無用なプライベートにまで踏み入る詮索好きで性格には難のある奴だったが、ちょっとした隙間時間でも英単語帳を開いたりして勉強に励んでおり成績は優秀だった生徒のまさかの挫折だ。

 おいおい、なんだこの力は?

 誰もが一度は唱えた事がある呪いであるしねしねこうせんが打てる能力なのか? と思われるだろうがそれとはまたややニュアンスが異なる。

 これらは全て負の感情、エネルギーをいわば自家発電して精神攻撃をしていたようなもので、能力者の負担があまりにも大きいのだ。これは身を、命を削っているに等しい。

 つまりはいつまでもそんな自分の中にあるエネルギーを無理やり生産して消費していたら、いずれ大きな反動があるということ。

 個人の恨みのみならず、社会全体を恨むようになってしまったらいよいよ死へのカウントダウンが刻まれることになるので注意が必要だ。

 小野さんも高校生になるとそんな人間社会、大人の醜さに直面してしまい遂にある人物を……。

 その代償で拒食症状を発症してしまい、体重を急激に落としたりして身体を壊すことになる。

 そのせいで高校卒業後は進学せず一年間を療養に費やしたのだが、回復後は能力のレベルが格段に上がったようだ。

 これまで漠然とだけ読めていた人の心を漫画の吹き出しのようにより詳細に分析することができるようになったそうで。

 これもたとえ誤った使い方でも一応は能力を使い続けたからこそレベルアップしたという見方もできるし、体調を崩したのも身体がこれは悪いことだと認識したからで心と身体が一致したがゆえのことなのかもしれない。

 さて、ではこの能力の正しい、本来の使い方とはなんなのか?

 それは冒頭で述べたように他人のエネルギーを吸収する、その吸収したエネルギーを攻撃に使いたいならそう使うべきだったんだと小野さんはここまでの数々の体験でようやく気がつく。

 他人の心を読めるだけでも素晴らしい能力なわけだが、それが怒りだったり悲しみの感情であれば武器にだって使えるのがこの能力の本質なんだ。

 古谷さんはそこまでまさかできるとは思わず、ただ私は他人の考えていることが読めるんだと思っていた。

 これが最初の見立てと実際とでは能力の実像が違うことがある一例だ。両者は密接な関係性だったんだ。

 己の身体を、命を大事だと思うならなるべく小野さんのような使い方をするのは好ましくないわけだが、そうなると他人のエネルギーに依存することになる。

 攻撃として使えるのはもちろん『ど』の性質が含まれるエネルギーに基本なるわけだが、それを調達するのもそう易々いくわけがない。

 なんとかお目にかかれて取り込むことができても、一般人の日常生活で手に入る他者のエネルギーなど高がしれている。それで多大なダメージを与えられることはほぼない。

 まともなエネルギーを得るためには紛争地にでも行かないと望めないだろうなと小野さんはぼやいていた。この日本ではなかなか難しい。

 この使いにくさから好き放題、他人を貶めることにはブレーキがかかっているわけだ。

 ここまで色々とこの能力についても明かされてきているわけだが、それでもこの能力の全貌はまだ道半ば、未解明な部分も多い、未知数であると考えている。

 それこそ俺がこの能力を聞いて真っ先に思い描いたように他人の感情、エネルギーなんていう抽象的なものではなくもっと形として具現化させて、最終的にはどこからか召喚獣のようなものを呼び出すような力にだって化けるんじゃないか?

 そこまで達するにはどれだけの経験値を得て、幾つまでレベルアップしないといけないんだって話なんだけど。そのパラメーターはゲームのように可視化はされていない。

 その経験値を稼ぐにしても争いとは無縁のこの日本ではやはり適していない。

 超能力は善人にしか宿らないはずなのでそんな心配はしていないけど、もしもこの力を使って本格的に世界を支配しようと企む人がいたとしても能力を限界まで極められるような環境ではないのでせいぜい単発的に世間を震撼させる事件くらいしか起こせないだろう。

 なぜこんな中途半端に超能力が存在しているのだろうか?

 まだまだ訓練、修行をすれば上達する兆しはありそうなのに適した方法がない。

 この先があると分かっているのに手が届かない、それはまるで宇宙のようだ。

 夜空という窓に目をやれば遥か彼方に星々が煌めいているが、その輝きへ手が届くことは叶わないように……。

 俺達。超能力者はこの力を持て余すことしか本当にできないのであろうか?

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る