未来予知(3)
渋谷駅。相変わらずわずかなスペースしかないほどの人、人。
こんな突飛な行動に出る日が来るとは。
俺は礼服を身にまといリュックからは紳士が被るような黒い帽子を取り出した。さらには胸ポケットに忍ばせた安物のサングラスをかけて歩き回り始める。
両手には『あなたの未来を百パーセント言い当てます! 只今、無料体験受け付け中!』と黒と赤の太いマジックで書かれた一枚の画用紙。
怪しさ満点だが、奇抜な格好で出歩いている人も少ないくないここ渋谷駅周辺であれば受け入れてくれる土壌があると見込んだ。占いならタロットカードや水晶玉に椅子と机を用意するべきなのであろうが善は急げを優先した。
それなりに注目を集めているようでドキドキしているが、こっちもそそくさ移動しているから声をかけづらいかもしれないと俺は適当な所で立ち止まることにする。
「なに、あれ。ウケるんだけど」
制服を着た二人組の女子学生、その一人が指さしをしてくる。
「未来を百パーセント当てるだって。占いってこと?」
「無料らしいよ」
そこそこ盛り上がっている。おっ、近寄ってきた。
「お兄さんここで何しているんですか?」
ここで何しているって絶妙に答えづらいな。
「僕は今日、占い師としてデビューしたんです。なので本日に限りタダで占ってあげますよ」慣れない声色に精一杯のスマイル。サングラスをしていても表情筋をニカっと上げた。テンションとしてはまるで遊園地のマスコットだな。
「全然占い師に見えないんですけど」おっしゃる通り。
「僕は新しいスタイルの占い師なんだ。見た目や雰囲気で騙すのではなく、結果で示す……」
よし。ああだこうだ言っている内に力を使えばいいんだ……。
「うわぁぁ!」
仰け反り尻もちを付く。
太陽が眩しい。その光に照らされて黒く染まる二人。
「た、助けて」そこから四つん這いになり無様に慌てふためいた。
「どうしたんですか!」一人が心配そうな声をかけて近づいてくる。その子こそ一番、遠ざかりたい人物だった。
オフだ、オフ。
戻った。
……溶けていた。
こ、この子は近い将来、顔面に少なくとも大きな怪我をする。本来であれば包帯でも巻かれているであろう部分が晒されたまま俺の目に突きつけられた。
「君は大怪我をする、顔に! 気をつけるんだ」いきなりこんなことを言われて動揺がうかがえる。
「それ、ほんとですか?」
嘘ではないはず。
「いつ、いつですか!?」
意外にもまんざらでもない反応。しかしこんなことを言っておいて助言などはできそうにもない。
これではあまりにも無責任か。せめていつ頃なのか、どこなのか、一つくらいは教えてあげたい。
はっ。車の中……四、五人くらいが乗って騒いでいる様子。渦を巻くように歪んでいく。
次に映ったのは炎上、大破した車。
これが原因か!
「見えた。事故だ。君はいつか交通事故に遭い大怪我をする。同い年くらいの男女が車の中にいるからきっと同じ学校の友達じゃないかな」
「そんな……同じ学校って、車を運転できる友達なんていませんよ」
「だったらもう少し後の話だろう。見たところ君はまだ高校生だから、卒業して大学に進学してからなら十分に考えられる」
とにかく大勢で車に乗る時には注意しろ、これがここで出せる結論。もっと詳しくと懇願されてもどうやら無理のようだ。そこは俺の力もまだ新米で未熟だからと言い訳してこの場は引き下がってもらった。
「もしも何か新しい事実が判明したら教えてくださいね」連絡先を教えてもらった。「そんな信じられることなの?」ともう一人の子は咎めるが、「この人の驚きようは嘘とは思えない」と見過ごせない何かを俺から感じ取ったようだ。
涙目になりながらその子はお辞儀をして去って行く。
占い師って相談に乗って不安を和らげるのが仕事なんじゃないのか。憧れの渋谷に遊びに来て青春を謳歌している高校生を泣かせてどうする。
安易に占い師ごっこを始めてしまったことに後悔の念が。
だが収穫もある。未来の姿が映し出されたのち、それに関連する映像も同時に流れた。これが意味することは前者に深く関係する映像を垣間見ることが出来るということだ。
この流れならかなり具体性のある未来予知が可能だ。
そうか、俺に触れたからか。映像がくるタイミングと彼女が俺の肩あたりにベタっと判を押すように触ったタイミングがほぼ一致していたような。
もう一つ言えるならオンにしたまま、あのむごたらしい顔のままの彼女が触れたらまた違った光景が映し出される線というのは?
それはなぜだが試す気にはなれない。
とにかくやれ。悩んでいる暇があったら行動に移した方が遥かに早く解決する。
中学生時代、走り幅跳びのフォームの確認はするも一向に飛ばない俺を見て放った体育の先生の一言。
背中も叩かれて無理やり彫られたように刻まれた。その効果は他の教科にも及んだ。おかげで微妙だと思われた第一志望の高校に合格する。
この経験は今にも生かされている。こんな行動に出たからこそ得られたものは既に思いの外、多い。
着実にこの能力の正しい使い方を掴んでいるはずだ。
「お兄さんすごいね。JKとお友達になれたの?」見知らぬ
オン。吹き出す俺。その男は素っ裸になっていた。
見た目通りの人間性だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます