未来予知(2)

 初めてくる感覚なのにまるですっかり足に馴染んでいる靴のように一体となっていた。

 

 これが俺の持つ能力?

 ……そんなところか。

 超能力の中では定番かもな。ため息も吐きたくなる。俺みたいな貧弱な男だとこういうのがお似合いか。何が当たるのか、期待をしたもののいつも身の丈にあった物しか引き当てることができなかったここまでの人生と重なる。

 それはいいとして——戸惑うことなくすんなりこの力を受け入れることができたのは大いに疑問だ。

 誰もが混乱して、疑う、それを繰り返していくうちにようやく認めざるを得ないと行き着く。

 俺はその過程を飛ばした。

 いくら超能力はこの世に存在すると知識だけはあっても、練習もしていない技をいきなり使いこなせてしまえるだろうか。

 一つ心当たりがあるとすれば……工藤君が、あの蝶が俺の願いを叶えてくれた。

 俺にもしもいますぐにでも花開いてほしいと。それであんな言葉をかけたのであれば工藤君も侮れない。

 どうして俺の欲求を読めた。それを示唆する話も仕草も見せなかったのに。

 歯を食いしばり、足を止めて右の手のひらが握りこぶしになる。

 工藤君と俺の違いはなんだろう。どうして工藤君にはあんな上級魔法みたいな力が舞い降りた。もっと俺も、世界を変えてしまえる力が欲しかった……。

「安原お兄ちゃん!」

 えっ、誰だ、この子。高校生くらいかな? もう現役JKの知り合いなんていないはずだぞ。

 あれ、消えた。首を下げる。

「おかえりなさい」

 近所に住むちびっ子、瞳ちゃん。今は小学三年生……そうか。この子は成長すればあんな魅力的な女性になるのか。

 ちょっとまて。他人の成長した姿が単に出現するって未来予知とはやや異なる質の能力なんじゃないのか。

 軽い挨拶みたいな交流を済ませて手を振り別れる。可愛かったな。あの成長した姿に女性として見てしまったのが妙に後ろめたい。

 うっ、また未来の姿に……あんな眩しい笑顔を俺に向けてくれる女性なんていたか? と棘がチクっと刺さったような痛みが走る。

 外見は大人でも中身はまだ小学生だ。お世辞の笑顔となんら変わらない脈なしだと解釈してしまうがゆえの痛みか。

 外見は大人でも中身は小学生……不意に出た設定にニヤリ。何を考えてんだ俺は。

 しかしこれは興味をそそられる。きっと任意のタイミングで他人の未来の姿を登場させてくれるみたいだ。スイッチのオン、オフの要領で切り替えができるぞ。

 俺は真っ直ぐ自宅に帰らず近所を散策することにした。

 建物は無理か。動物は?

 鳥でもいないか、忙しなく首を振る。こういう時に限ってなかなか見つからない。

 えっ。ショッキングなものを目にしてしまった。

 一軒家の正面出入り口前で雑談しているお年寄りの女性二人。その一人が車椅子に乗っていた。

 オフにする。今は元気に二本の足で立っている。オン。車椅子に。

 何年、何十年後の未来だろう。そこらへんが曖昧だとこの能力もまだ痒い所に手が届くような便利さはないな。

 すごいのが未来の姿になった時に、椅子生活になるくらい体が弱っているのを反映させた調子になっていること。

 オフの時はこれが日課とばかりに意気が良いが、オンになるともう自分には会話する力も残っていないと言わんばかりの口調になる。

 この変化を認識できているのは俺だけだとするなら、触った時にどうなるんだ? 透けるように通り抜けてしまうのか、もしも立体映像でなければ……。

 ……迷い込んだ山奥の地に突如、現れた立ち入り禁止の看板に遭遇してしまったかのように震える。

 それはな気がする。

 使えるとはいえまだ暗中模索状態だ。電車の中では脳裏に映像が再生された。これこそ未来予知という名に相応しい力だが、あっちを発揮するにはどうすればいいんだ。

 斉藤を前にしても歳と取った姿ではなく、穏やかじゃない映像が。この使い分けも意思次第か? 

 頭痛がしてきた。あれこれ考え過ぎたか。

 それにしても一つの能力にも地味にバリエーションがあるのは全能力共通な気がする。

 俺の場合は単純に一人の人間の未来の姿を映し出したり、具体的な事象が映像として示される。その使い分け、何年後なのかはコントロールできるのかはまだ不透明。

 これだけできれば占い師にでも転身して稼いでいけそうだな。やってみるか。

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