第2話:人助け
帝国歴222年4月10日:王都商人街
この国で正式な貴族の子女と認めてもらうためには、王立魔術学園を卒業しなければいけません。
庶子の中には学園に通わせてもらえず、貴族の正式な子供と認められる事もなく、家臣の士族家や商家に養子に入ったり嫁入りしたりする者もいます。
経済的に厳しい下級貴族だと、正妻から生まれた子女以外は学園に入学させられない家もありますが、上級貴族、それも公爵家正室の子供である私が入学させてもらえないのは前代未聞でした。
しかも5年間も無休で働かせられました。
貴族どころか少し豊かな平民でも着ないような、下級侍女、早い話が下女が着る粗末なお仕着せで3K仕事をさせられています。
私が働かされた商家はとても厳しい所でした。
流石に暴力までは振るわれませんでしたが、言葉による精神的な虐待はとても激しかったです。
最初は公爵家の令嬢である私を降嫁させる事で、貴族と血縁になろうとしているのかと警戒していましたが、そんな欲望はなかったようです。
貸した金の利息だけでも回収しようとしているようです。
ただ、高貴な者を嬲る事に快感を得ているのは確かで、下女仕事の中でも特に汚く辛い仕事を与えられました。
唯一救いだったのは、他の使用人達も厳しい条件だったので、少しでも自分達が楽になりたくて、私に色々な事を教えてくれた事です。
屋敷にあった高価な書物は全て借金にかたに取られてしまい、勉強したくても参考になる本がなかったのです。
下女仕事を早く終わらせる事ができたら、商家の書記に文字を教えてもらえましたし、会計係に計算を教えてもらう事もできました。
上級侍女には、貴族に通じる行儀作法を教えてもらえました。
公爵家の長女である私が商家で働かされている事は、商人達の間では結構有名になっていたようです。
お父様やお母様は、貴族の社交界では隠しているようですが、カタ―ニョ公爵家が抱える借財が余りに膨大なので、少しでも踏み倒しの危険を減らしたい商家の間では有名だったのです。
嗜虐心の強い商人や、高貴な人間が没落しているのを見たい商人は、私にお茶を運ばせたがったのです。
私が奉公させられている商家の当主は、少しでも商売に有利になるのなら何でもやる人で、普段下女仕事をさせている私を急いで着替えさせ、上級侍女の仕事をやらせる事もあったのです。
私が未だに公爵家から商家に通っているのも、完全に商家の奉公人にするよりも、公爵家の長女が働いている方が商家の利益になるからです。
そうでなければとっくの昔に、私はお父様とお母様に売り払われていたでしょう。
バシャバシャバシャ!
公爵屋敷から商家に通う夜明け間近のまだ暗い時間、水路で溺れる子供に遭遇してしまいました!
5年間も夜道を往復した事で、夜目が利くようになっていました。
水路に通じる道には人相の悪い男達がいます。
どう考えても、溺れる子供に何らかの悪意を持っているとしか思えません。
バッシャーン!
子供を助ける事で私も危険な目に遭う事は分かっていました。
それでも、助けるために水路に飛び込まずにはいられませんでした!
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