美しくない私は家族に下女扱いされています。

第1話：プロローグ

帝国歴２１７年３月１日：カタ―ニョ公爵家王都屋敷

　私の名前はミア・フラヴィオ・リッチ・カタ―ニョと申します。

　これでもグレコ王国に臣従するカタ―ニョ公爵家の令嬢です

　何故こんなみすぼらしい姿をしているかと言えば、両親に加えて妹まで浪費家だからです。

　両親と妹の浪費が原因で公爵家が没落寸前なのに、浪費を改めることなく挽回しようとして、更に浪費を重ねて妹を着飾り玉の輿に乗せようとしているからです。

　確かに妹のエレオノーラはとても美しいです。

　王家の血筋を感じさせる豪奢な巻き毛の金髪受け継いだだけでなく、海のような深い青の瞳をしているのです。

　高く通った鼻すじに魅惑的な赤い唇。

　男性を魅了してしまう妖艶な笑みを意識的に浮かべる事ができるのです。

「エレオノーラならば第１王子を魅了するくらい簡単だろう。

　儂は兄上を押しのけて王位につく事ができなかったが、エレオノーラが王妃になれば、王国を支配する事ができるだろう」

「そうですわね、そうなれば莫大な王国財産を自由に使えますわ。

　王家秘蔵の宝石を身に付けて舞踏会に出る事ができます」

　両親は美しい妹を使って自分達の欲望を満たそうとしています。

　そのためなら、もう借りる所もなくなったカタ―ニョ公爵家の信用を、地の底にまで落としても構わないと思っているのです。

　私が王立魔術学園に通う年になったのに、入学金はもちろん毎月の授業料も払えないほど困窮していました。

「エレオノーラと第１王子と結婚させるには、どうしても王立魔術学園に通わさせなければいけないのだ。

　だが兄の嫉妬で我が家の財政は火の車だ。

　そこで醜いお前には他家に仕えてもらう事にした」

　お父様は自分の事を全く分かっておられないばかりか、兄である国王陛下の温情まで理不尽に逆恨みしています。

　本来なら王位簒奪を目論んだ弟など処刑されて当然なのです。

　それを、父王の教育が悪かったから未熟なのはしかたがないと許し、国内屈指の名門公爵家に婿入りさせもらっているのです。

　豊かだった公爵家の財産を一代で食い潰したのは、父上の愚かさです。

　それなのに国王陛下を逆恨みするなんて、恩知らずにも程があります。

「そうよ、そんな醜い黒髪と黒目では、どれほど勉強しても貴族家に輿入れするのは無理だから、商家に奉公して物好きな男を探すしかないわ。

　出来るだけ豊かな商家を選んであげたから感謝しなさい」

　お母様は私の事など全く愛しておられません。　

　確かに私は王家の血を受け継いでいるとは思えない醜い容姿です。

　ですがそれは、お母様が不義密通したからではありませんか？！

　それに、貧しくて学園に入れる事ができないのなら、他に方法があります。

　我家は没落寸前とはいえ公爵家なのですよ。

　行儀見習いを理由に、王城で侍女として働く事が許されるはずです。

　それを商家に働きに出すと言うのは、借金を相殺させるのが条件ですか？

　それとも新たな借金をするためですか？！

「お父様、お母様、せめて王城に見習い奉公させてください。

　我が家なら王妃殿下の侍女として奉公させていただけます」

「馬鹿を言うな！

　お前ごときの為に、王に頭を下げられるか！」

「そうよ、お父様に頭を下げさせようとするなんて、それでも実の娘ですか？！

　それに、王城に奉公するなら、それなりの衣装と宝飾品を用意しなければいけないのよ？

　貴女にそんな物が用意できるの？」

　妹のエレオノーラの為なら借金に借金を重ねても望む物全てを買い与えているのに、私には侍女奉公に必要なの服すら買ってくれないのですね。

「醜いお姉様にお金を使うなんて、貧民街にお金をばら撒くのも同然よ。

　そんな無駄な事に使うのなら、私のハンカチを買った方がましだわ。

　そうすれば王子を魅了するのに少しは役に立つでしょう？」

　エレオノーラは傲然と胸を反らせ、私を見下すように言い放った。

「その通りだ、エレオノーラ」

「エレオノーラは美貌だけでなく知恵もあるのね」

　お父様もお母様も私を一瞥もせずにエレオノーラを褒め称える。

「ミア、商家に行く前に屋敷を隅から隅まで掃除しておけ。

　いや、商家に行っても定期的に戻って来て屋敷を掃除しろ」

「そうよ、エレオノーラが学園に通うようになれば、何時王子や屋敷に来られるか分からないのよ。

　塵１つ残さずきれいに掃除しなさい」

「お姉様、私が王子妃に成ったら、その権力で男爵家の公子を結婚相手に探して差し上げますから、頑張って掃除してください」