Phase 03 狂宴
午後7時。僕は長友雅人から指定された高級クラブへと向かった。その高級クラブは北野坂に構えていることもあって、外国人との交流の場所としても使われていた。要するに、僕が入るような場所ではない。
「僕は古谷善太郎だ。職業は明かせない。四隅行雄という男性はいないか」
「四隅さんですね。VIPルームの方にいらっしゃいますので案内します」
「分かった」
高級そうな白い着物に身を
やがて、目の前に現れた銀色のドアの前で女性は止まった。
「ここがVIPルームです。恐らく、四隅さんはここにいらっしゃると思います」
「ありがとう。中に入らせてもらうよ」
僕は、覚悟を決めてドアを開ける。中では、四隅行雄が女性を
「お、お前はさっきの債務者か。もしかして、もう金利を返済しに来たのか。随分と
「違う。改めて君の顔を見に来ただけだ」
「まあ、水臭い事を言うな。中に入れ」
「分かった」
四隅行雄に案内されるように、僕はソファーに座らせられた。
「お前、只者じゃないな。一体何なんだ」
「僕は兵庫県警を追放された元刑事だ。それが何か関係あるのか」
「名前を教えてくれ」
「古谷善太郎だ」
「半グレを拳銃で射殺した刑事がいたと聞いたが、お前のことだったのか」
「どうしてそれを知っているんだ」
「基本的に神戸の裏社会と言うのは我々山谷組を頂点としてピラミッドで成り立っている。半グレ集団はピラミッドの下層の方だが、上を辿っていけばやがて山谷組に辿り着く。それだけの話だ」
「それで、君は僕を抹消するつもりなのか」
「そんなことはない。むしろ、山谷組と
「断る。僕はそういうのに興味がない」
「残念だな。お前となら山谷組を復興できると思っていたのに」
拳銃が、僕の額に当てられる。周りの女性は
「僕を殺す気か。勝手にしろ」
しかし、四隅行雄の反応は意外なものだった。
「冗談だよ。冗談」
四隅行雄は笑いながらそう言った。額に当てられていた拳銃が、引き下げられる。僕は思わず
それから、僕は四隅行雄から日本酒を
「僕がヤクザから酒を注がれるなんて、組織犯罪対策課に在籍していたときでさえ無かった。まあ、今更過去の事を振り返っても仕方がないのだが」
「まあ、そう言わずに飲め。これは俺の
「ありがとうございます」
「それにしても、お前は面白い人間だな。気に入った。盃を交わすのが厭なら、俺のカンパニーで働かないか?」
「カンパニー?」
「サラ金だよ。サラ金」
「ああ、スクエアファイナンスのことか」
「表向きではサラ金だが、金利は10日で1割。つまりトイチだ」
「知っている。僕も君からお金を借りたからな」
「元刑事が生活に困るのはなんとなく分かる気がする。俺のところで働きながら返していけば良いさ」
「そうだな。その手に乗るよ」
こうして、僕は思いもよらない方向で四隅行雄が営むヤミ金融へ潜入することに成功した。恐らく、僕に課せられていた金利はこれでチャラになるだろう。そう思っていた。そして、僕はクラブを後にした。
「今日はいい話が聞けて良かったよ。明日から俺のところで働いてもらうからな。カンパニーの場所は分かるだろ?」
「当然だ」
「じゃあ、そこで待っているからな」
クラブの前では、長友雅人の車が停まっていた。僕を迎えに来てくれたのだろう。
「古谷さん、その様子だと成果が得られたようですね」
「色々あったが、僕はスクエアファイナンスで働くことになった」
「やったじゃないですか! いよいよ潜入ですね!」
「そうだ。金の出処をそこで洗いざらい調べる」
「そうですね。この100万円も調べていけば何か分かるんじゃないでしょうか」
「恐らく、この金はマネーロンダリングだ」
「なるほど。ヤクザと繋がりがあったらそうでしょうね。今日は疲れたでしょう。家まで送りますね」
「ありがとう。僕の家の住所はここだ」
「……! 山谷組の本部の近くじゃないですか! そんな危険なところに住んでいるんですか!?」
「そう思った事は無かったけどな」
カーナビで住所を登録して、車が発進する。それにしても、僕の命は四隅行雄という男に握られたことになる。つまり、一つミスを犯せばその時点で僕の命はなくなるに等しい。僕は、少し不安だった。
車の中で、僕は長友雅人と会話することにした。僕がどうして兵庫県警を追放されたのか。愚連隊時代の大泉警部との付き合いはどうだったのか。そんなくだらない話をしているうちに、車は目的地へと辿り着いた。
「ここが古谷さんの家ですね」
「そうだ。わざわざ送ってくれてすまなかったな」
「そんなことないですよ。とにかく、明日からいよいよ潜入捜査ですね! 幸運を祈りますよ」
「ありがとう。君はどうやら信頼しても良さそうだな」
「?」
「いや、何でもない」
長友雅人の車を見送って、僕は家に入った。そして、シャワーも浴びずにそのままベッドへと倒れ込んだ。相当疲れていたのだろう。夢を見たような気がするが、内容は覚えていない。まあ、覚えていたとしてもどうでもいい内容だったのだろう。
そして、朝が来た。
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