第27話:それぞれの思惑・魂胆




「ジスラン様、コレットの味方で居てあげてくださいね!」

 少し困ったように、マリーズは笑う。

 ジスランには、嫉妬しながらも友人の為に無理して笑っているように見えた。

 それでも、マリーズにお願いされてしまったら、ジスランは頷くしかない。


「お腹も空いていたみたいでした」

 マリーズの視線がチラリとテーブルの上へと動く。

 そこには食べ散らかされたクッキーと、マリーズの為に用意されたであろう紅茶。


「今度、コレットの為にクッキーとか買ってくるので、こっそりとお部屋に置いておいて貰えますか?多分、私からだって知ったら、受け取って貰えないから!」

 マリーズが良い事思い付いた!とばかりに胸の前で手を合わせる。

「解った。僕も何か差し入れるようにしよう」

 ジスランは深く考えず、マリーズに良い格好をしたいが為に、軽く提案してしまった。




 マリーズはアルドワン公爵家を訪れる度に、片手に載る程度の大きさのお菓子を持参した。

 勿論、コレット用である。

 それをジスランへ「コレットにお願いします」と託すのだ。

 ジスランはお願いされたので、コレットの部屋にそれを置く。


 別にやましい事はないので、特に隠れもせずに置きに行った。

 そしてマリーズに約束した通り、コレットに差し入れをした。

 自身の午後のお茶の時間にコレットを呼び、出されたお菓子などをコレットにあげるのだ。


 それだけコレットを特別扱いすれば、おのずと皆が勘違いをする。

 ただし前回ほどの圧倒的な贔屓ではなく、メイドの中ではコレットを気に入っている程度だったので、コレットが特別扱いされる事は無かった。



 コレットは、今日も部屋に置かれていたお菓子を見て、ほくそ笑む。

「うふふ。あの女が来た時に必ず置いてあるのよね」

 箱を開けて、中のクッキーを1枚口に放り込む。

 甘過ぎす上品なクッキーは、コレットの好みを把握している人間からの物だと判る。


「これは、アタシに、あの女の事は政略だから気にするなって気遣いよね!」

 ウフフ、とコレットは幸せそうに笑う。

 マリーズを怒鳴りつけてから、ジスランは日々お菓子をくれるようになり、自分を気遣うようになった。

 しかも、マリーズが屋敷に遊びに来た時には、必ず高級菓子が部屋に置いてある。


 コレットにとって、このお菓子は、ジスランからの贈り物なのだ。

 当然だろう。

 マリーズとコレットは、

 しかもジスランを挟んでいがみ合う関係だ。

 まさかそのマリーズからの贈り物だとは、夢にも思わないだろう。




 ジスランは、コレットは自尊心が高いので、マリーズが自分より上の立場婚約者になってしまった為に、尚更友人だと言わないのだろうと思っていた。

 あの日も、向かいの席に座って楽しく話していたはずなのに、ジスランが部屋に入る直前にコレットは怒り出したようだ。


 マリーズが一人で居ると聞いていたのに、部屋からはコレットの怒鳴り声が聞こえたので、急いで扉を開けたのだ。

 コレットが一方的に怒っていたのなら、クッキーを食べたりお茶を飲んだりする事は無かっただろう。


 マリーズが望んだので、ジスランはコレットにお菓子を分け与えた。

 マリーズの為に、コレットの部屋にお菓子を届けた。

 ただ、それだけだった。



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