幸せな復讐の章

第28話:愛と欲望と




 マリーズ16歳。

 学園の高等科に入学して間もなく、デビュタントの夜会が行われた。

 前回とデザインは同じだが、制作をゆっくり目にしたお陰で胸元も苦しくなく、女性の理想体型を際立たせたドレスは、マリーズの魅力を存分に引き出していた。


 エスコートが父親な事で色めき立った者達は、父親とのダンスの後ですぐにアルドワン公爵家のジスランとマリーズが踊った事で、その短い夢を終わらせた。

 ジスランが周りを牽制する様子を見て、マリーズの婚約者だと理解したのだ。


「コレットは、何で居ないのでしょうか?」

 ダンスをしながら、マリーズがこっそりとジスランに聞く。

 準男爵家のコレットは、デビュタントには出られない。

 しかしマリーズは、コレットが男爵家だと思っているていなのだ。

 男爵家のコレットを探すのは、当然の行動だった。


 純粋に友人を心配する様子のマリーズに、ジスランは準男爵だから居ないのだとは言えず「人数が多いから見つからないだけだよ」と答えた。

 それに対してマリーズは戸惑い、「また伯爵令嬢だからって、お高く止まってアタシを無視したのね!」って言われそうですね、と笑って見せた。



 デビュタントの翌日、ジスランはコレットにドレスを1枚贈った。

 既製の物だが、今のコレットにはとても手が出ない代物だ。

「デビュタントの気分だけでも味わえるだろう?」

 そう言って、メイドにコレットを着飾らせ、ダンスっぽいものも踊った。


 これで少しでもコレットの気が済めば、マリーズへの八つ当たりが減ると思っての行動だった。

 勿論そんな裏など知らないコレットは、ジスランの愛を感じていた。

 デビュタントに出られない可哀想な自分の為に、態々わざわざドレスを用意してくれた愛しい恋人。

 やはりあの女は、単なるお飾りなのだと。




 コレットの勘違いを加速させたまま、ジスランは学園の最終学年になっていた。

 前回、マリーズと出会った年齢である。

 日に日に、更に女性らしく豊満な体になっていくマリーズに、思春期の男性らしい欲が膨らんでいく。

 特にマリーズは、他の令嬢よりも男をそそる体型をしていた。


 制服は生地も厚く、あまり体のりは判らない。

 普段の服装は本人も気を使っているようだが、やはりワンピースなどでは制服よりも肉感的な体型があらわになってしまう。

 デビュタントのドレス姿は、今でもジスランが夢に見るほどだった。

 朝の惨状は言わずもがな……である。



 洗濯係のコレットは、たまに回ってくるジスランの欲望の残滓ざんしを見て、その対象が自分で有ると信じ込んでいた。

「好きな人が同じ屋根の下に居るんだもん、当然よね」

 ウフフ、と笑いながら、コレットが幸せそうにシーツを洗う。

「あまり我慢させるのも可哀想よねぇ」

 今度は、蠱惑的こわくてきだと自負する笑顔を浮かべ、コレットは洗ったシーツを広げた。


 前回は、この頃には既にジスランとコレットは関係を持っていたので、ジスランの関心はマリーズには一切向かず、その豊満な体に気付いたのは初夜のベッドの上だった。


 もっと早くにジスランが気付いていれば、何かが変わったかもしれないが、今ではもう判らない。

 ただマリーズの結婚生活が不幸だった事だけは、間違い無い。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る