第22話:Buster




 その後、コレットは無事に、アルドワン公爵家の住み込みメイドとして雇われた。

 そこにマリーズの介入が有った事など、無論コレットは知らない。

 ジスランは自分を愛しているから、助けてくれた。

 愛されているから、側に居たいと思って貰えたから、公爵家へ呼ばれた。

 本気でそう思っていた。


 それが勘違いだと気付けるほど、コレットは謙虚では無かった。

「アタシはジスランの妻になるのよ!」

 他の使用人の前で、平気でそんな言葉を口にしていた。



 それが公爵夫人の耳に入らない訳が無い。

 夫人はジスランを呼び、コレットを実家に帰してはどうかと提案する。

「しかしコレットは、マリーの友人なのですよ、母上。いえ、コレットはマリーの事を隠しているのですが、マリーはそれでも友人だと……ここで見捨てたら、俺がマリーに嫌われてしまいます」

 本気でジスランが言っているという事は、母親である公爵夫人にはよく判った。


 夫人は、ジスランの恋を応援していた。

 しかしなぜか、マリーズはジスランとは一定の距離を保ち、あくまでも先輩と後輩という立場から進まないのだ。

 ちょっと口調と態度が淑女らしくは無いが、成績は優秀で家は伯爵位である。

 普段はともかく、公の場では完璧なカーテシーを披露したらしい。

 公爵家に嫁に迎えても良いと、公爵夫人は勿論、アルドワン公爵も思っている。


「わかりました。それでは、なるべくお客様の目に触れない仕事をさせましょう」

 コレットは下働きに回され、客どころかジスランの目にも触れない仕事に回された。

 包丁は使えないので、野菜を洗うだけの仕事をし、その後は今度は洗濯だった。

 美しかった手は、すぐにガサガサになった。




 3年も経つと、コレットはすっかり使用人が板に付いていた。

 この3年、たまに思い出したように、ジスランから街へ誘われた。

 行くのは庶民街で、ジスランが買うのは安い既製品のワンピースが精々せいぜいだ。

 それでもコレットの給料から考えたら有難い贈り物なので、特に不平不満は言わなかった。


 思わなかった訳では無い。


 寄るのはいつも決まったカフェで、あのコレットが働いていたと嘘を吐いたカフェである。

 もしや何か探っているのかとコレットは戦々恐々としていたが、ただ単にジスランが平民街で知っているのがそのカフェと、向かいのカフェだっただけである。


 向かいのカフェはマリーズと初めて行った場所なので、コレットと行きたく無かっただけだ。

 必然的に選択肢はひとつしか無くなる。




 前回のマリーズとほぼ同じ待遇だ、などとコレットは知らない。

 マリーズが買って貰ったのはワンピースではなく、ネックレスや髪飾りだったが、値段はほぼ一緒だった。

 行ったカフェも同じ。


 前回のコレットは、マリーズへの対応を色々とジスランに進言していた。

 それが我が身に返って来ているなど、コレットは勿論知らない。

 単なる偶然なのか、魂に刻まれた記憶のせいなのか。


 後者ならば、それはあの魔女なりのマリーズへの助成なのだろう。



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