第23話:Gold Digger




 学年が上がりジスランは3年生へ、マリーズやミレイユは2年生になった。

 マリーズは見た目は変えていないが、話し方を少しだけ普通に戻した。

 自分の事を「マリー」と呼んだり「私」と言ったりを織り交ぜ、2年生になる頃には「私」を定着させた。


 語尾を伸ばすのは未だに健在だが、前ほど大袈裟な特徴は無い。

 しかし、ジスランからの執着に近い愛情は変わらなかった。

「そろそろ社交界に出る準備でぇ、口調も直すように言われましたぁ」

 1年生の中頃、そうマリーズが言えば、「マリーはどんな口調でも可愛いよ」と全てを肯定した。


 始まりが違うだけで、これほど変わるのか。

 周りからの評価も、なぜか前回よりも高かった。

 同性からは、前回も高評価だった。

 しかしあくまでも、遠くから「素晴らしいですね」「さすがです」と褒める感じで、親しい友人は出来なかった。

 今はミレイユを筆頭に、友人と呼べる間柄の女性が五人居る。



 そして変わった事がもう一つ。

「おめでとうございます!マリー様」

「未来の公爵夫人ですわね」

「高位貴族で政略では無い結婚など、奇跡ですわよ」

 2年生に上がる前の長期休みに、ジスランとマリーズは婚約した。

 学年が上がった初日は、ミレイユを含む友人達からの祝福の嵐だった。


「アルドワン公爵家へ、ご挨拶へ行かれたのでしょう?」

「マリー様ってば、頑なに婚約成立するまでは行かないと言ってらしたものね」

「確かに相手が公爵家ですと、気後れしますわよね」

 友人達は、当のマリーズを置き去りに盛り上がっている。


 この時点ではまだ公爵邸へは行っておらず、次の休みに使用人達への挨拶をする予定だった。




 マリーズは、ジスランへは「コレットに会ったら困る」と言う建前を振りかざし、婚約が成立するまでアルドワン公爵邸へは行かなかった。

 公爵家の使用人達に会って、笑顔を保てる自信が無かったからだ。


 そして婚約後の挨拶でアルドワン公爵邸に行ったマリーズは、驚きで言葉を失った。

 なぜなら、マリーズの知っている使用人が一人も居なかったのだ。



 アルドワン公爵に屋敷に遊びに来いと言われても「婚約するまでは」と、あの手この手を考え断り続けた。

 両家の顔合わせは、貴族街の高級料理店だった。

 婚約の契約は、今どき珍しく正式な手順を踏み、大教会でおこなった。


 それなのに、それほど頑張って使用人に会わないようにしていたのに、知った顔が一人も、それこそ執事もメイド頭も別人だった。

 いつからかは判らないが……おそらく現アルドワン公爵が亡くなった後に、使用人を一新したのだろう。


 今思えば、本当に公爵家の事を思ってくれる使用人ならば、前回のあの非道な計画に協力するわけが無いのだ。

 常識と忠誠心の有る使用人を辞めさせ、金で何でもする使用人ばかりを雇い入れたのだろう。




「使用人の方達まで笑顔で祝福してくれましたぁ」

 ウフフ、と笑いながら、マリーズはジスランへ探りを入れる。

「あぁ、何代もアルドワン公爵家に仕えてくれている使用人も多いからな」

 どこか誇らしげにジスランが言う。

 その使用人達を前回は簡単に解雇したのだ。


「……コレットは、元気ですかぁ?」

 マリーズは声を潜めて、部屋の中に居るメイドに聞こえないようにジスランへ質問する。

「僕が婚約すると知って怒鳴り散らす程度には元気だよ」

 ははは、と力無く笑ったジスランからは、もうコレットへの愛情は感じられなかった。


 心配していたアルドワン公爵夫人が儚くなる、という事も無く、今も元気に屋敷を切り盛りしている。



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