第12話:多分、騙される方が馬鹿なのだ




「コレット・ディクシエって言うの!なのぉ」


 ジスランに友人の名前を問われたマリーズは、そう答えた。

 嘘を言っている様子は無かった。

 嘘をく理由もマリーズには無いだろうと、ジスランは思っていた。

 その為、マリーズを信じてしまっていた。


 ディクシエ家が準男爵なのは、ジスランも知っていた。

 しかしコレットは、マリーズには男爵家だと名乗っていたようなのだ。

 貴族の爵位詐称は罪である。

 同じ名前でも、爵位が違う家は多い。

 血縁だったり、偶然だったり色々だが、だからこそ爵位詐称は罪が重い。



「コレットは、伯爵令嬢の友人がいたりするか?」

 突然のジスランの質問に、コレットは小首を傾げる。

「貧乏貴族と友達になる伯爵令嬢なんてぇ、いないよ?」

 コレットは


 ジスランは、が本当なのだと確信した。


 学園からこの店の近くまで、ジスランとマリーズは一緒に話をしながら歩いて来た。

「コレットはぁ、お姉さんとお兄さんが居て、ちょっと仲が悪いのぉ。好きな色は赤と黄色!胸が小さいのが悩みなんだってぇ。あ!今のは男の子に言っちゃダメなんだった!」

 友人でなければ知らないだろう情報も、マリーズは知っていた。


 胸の話は直接聞いていないが、ワンピースを贈るのに一緒に買い行った事があり、既製服の胸元が余るのを酷く気にしていたのだ。

 好きな色も、家族仲も、親しくなければ知らないだろう。

 それなのに、伯爵令嬢の友人はいないと言う。



「多分、コレットはマリーの事をナイショにしたいんだと思うのぉ。いつもマリーを偉そうにしてるって怒るしぃ、本当はマリーの事が嫌いなのかも……伯爵令嬢だから、嫌々仲良いフリをしてくれてるんだと思う」

 マリーズは悲しそうにそう言った後、健気に笑った。


「でも、マリーはコレットを友達だと思ってるから良いんだ!だから、先輩もぉコレットにマリーの事で何か言っちゃ駄目だからねぇ」

 上目遣いでちょっと頬を膨らますマリーズは、目が少し潤んでいた。

 ジスランは抱きしめたい衝動に駆られる。


「もしコレットとぉ、先輩が原因で喧嘩になったら一生口きません!」

 プイッとそっぽを向くマリーズを、とても健気で素直で可愛いと、ジスランは思ってしまった。

 今まではコレットが1番だったが、たった数時間でその順位が入れ替わってしまった。



 ジスランは、マリーズが望むなら、このままマリーズの事を隠してコレットと付き合おうと決めた。

 下手にコレットと別れて、その原因がマリーズだと気付かれたら後が厄介だと思ったからだ。

 コレットは、マリーズを利用しているようだった。


 それならば、自分がコレットを利用しても良いのではないか?と結論付けたのだ。

 朝までは愛していたコレットなのに、今では全然愛おしいと思えなかった。



 ジスランは、まんまとマリーズの罠に嵌ったのである。



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