第13話:変化するもの




 入園式からと街へ行ってから帰って来たマリーズを、メイドのレリアはとても喜んでいた。

「お友達と寄り道など、初等科では一切なさらなかったので、心配しておりました」

 前回も含め、初めて告げられた事にマリーズは驚く。


 マリーズは、良い成績を取り、真面目に生活をして、良い結婚相手を見つければ、貴族令嬢としての役割を完璧に果たせると思っていた。

 だから、ジスランに告白された時も、婚約した時も、そして結婚した時も、やはり自分が正しかったと思っていたのだ。


 その全てをジスランとの初夜にくつがえされたのだが。


「お友達ではなく、知人よ。お友達は……そうね。一人、気が合いそうな人は居たわ」

 今の自分と仲良くしてくれるとは思えないけど、と言う言葉は口に出さずに飲み込んだ。




 翌日、登園したマリーズは、予想外の状況に何度も瞬きを繰り返した。

 成績順でクラス分けされている為、昨日初めて会話したミレイユ・マルタンも同じクラスである。

 そのミレイユが、マリーズと同じようなフワフワと巻かれた髪型をしていた。


 マリーズの金髪より少し濃いめのミレイユは、今までは前のマリーズと同じようにハーフアップにして、後れ毛もピンで留める位キッチリとした髪型をしていた。

 今は緩く巻かれた髪を自然に下ろしている。

 マリーズより少し巻きが大きいのは、ミレイユの方が顔が大人っぽいからだろう。

 その辺は、メイドがしっかりと調節するようで、とても似合っている。


 マリーズが教室へ入ると、ザワリと騒がしくなった。

 昨日は余り周りを見る余裕が無かったクラスメート達が、教室に入って来る生徒を確認しているのだろう。

「誰?」「初等科に居た?」「可愛い」

 様々な声が交錯する中、ミレイユがマリーズへと近付いて来た。



「ごきげんよう、クストー伯爵令嬢」

 マリーズの記憶の中よりも数段柔らかな笑顔で、ミレイユは挨拶をしてきた。

「おはようございますぅ、マルタン伯爵令嬢?」

 だよね?そんな雰囲気でマリーズは挨拶を返す。

「その髪型!似合ってますよぅ!」

 両手を胸の前で合わせたマリーズは、指先だけをパタパタと動かして小さく拍手をする。


 似合っているのは本当の事なので、言葉に嫌味な響きは無い。

 それを解っているのだろう。

 ミレイユも素直に「ありがとう」とお礼を口にする。

 その顔が本当に可愛くて、マリーズは少しだけ嫉妬する。

 自分は復讐の為に作った可愛さだが、今のミレイユは素直に可愛くなろうと努力した姿だ。


 根本が違うのだ。


「あのぉ、マルタン伯爵令嬢はぁ、どうしてマリーに声を掛けるんですかぁ?」

 いかにも何も解っていませんって顔をしながら、マリーズは首を傾げた。

「貴女こそ、なぜ急に変わりましたの?」

 髪型が変わってもミレイユの中身は変わっていないようである。

 解らない事は、とことん調べるのだ。


「えぇ!?それはぁ、お友達を作るためなのです!」

 嘘では無い。

 マリーズは、ジスランというを作る為に、自分を変えたのだ。

「それならば、私も同じ理由ですわ。貴女とお友達になりたいのです」

 今回は絶対に相容あいいれないと思っていた人物が、マリーズの初めての同性の友人になった。



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