第10話:ジスランという男




 中等科入園式の日。

 ジスランは、学園に入園出来なくて落ち込んでいるコレットを心配して、働いているの店に会いに行くのだ。

 今回は心配が理由では無いかもしれないが……。

 実際にはコレットは店で働いていないので、オーナーに買い物を頼まれたフリをして、店の近くでジスランに見つけてもらう作戦だった、とマリーズは記憶していた。


 そのお店は、ジスランがマリーズをよく連れて行ったカフェだった。

 コレットが「私は働いていたから行きにくいけど、デートの定番なんだよ」と、ジスランに進言したと、マリーズに偉そうに言っていた。

 ちなみにその「デートの定番」の前には本来「平民の」が付く。




 入園に際し行われる説明を聞き終えたマリーズは、急いで案内係の控え室へ向かった。

 マリーズも2年生になった時にその役を引き受けたので、大体の行動予測が出来ていた。

 丁度部屋の扉が開き、ジスランと友人らしき数人が出て来る。

 しっかりと視界に入るように、マリーズは歩みを進めた。


 周りを見回し、首を傾げる。

 迷子になっているような、何かを探しているような、ちょっと不安そうな表情をしているマリーズ。

 庇護欲を誘う見た目も相俟あいまって、その場に居た2年生達の視線を集めた。



「どうかしたの?」

 一人の男子生徒が声を掛けてくる。

「えぇと、マリーのお友達のコレットのぉ、知り合いを探してますぅ」

 語尾を伸ばすだけで、なぜこんなにも頭の悪そうな話し方になるのだろうか。

 マリーズは作られた姿だが、コレットはこれを素でやっていた。

 しかも男と女では、全然対応が違うのも無意識にしていたのだ。


 マリーズは自分で話しながら、首を掻きむしりたい衝動と戦う。

 それでも男受けは良いようで、男子生徒は親切に話を聞いてくれる。

「名前はわかる?一緒に探してあげるよ」

 賢く淑女の鑑と言われていた頃には無かった親切に、内心で盛大な溜め息をいた。



「あれ?君はコレットの友達だよね?」

 マリーズと男子生徒の話が聞こえていたはずなのに、ジスランは確認するように話に入って来た。

 これは他の男子生徒への優越感を満たす為だろう。


 他の人間が声を掛けた後で、したり顔で割り込むのは、ジスランの得意技だった。

 待ち合わせにわざと遅れて来て、マリーズが他の男に声を掛けられると出て来るのだ。

 平民のような服装をさせておきながら、待ち合わせに遅れて来る。

 最低の男だ。

 もし何かあったらどう責任を取るつもりだったのか。

 それでも当時は「嫉妬してくれたのかしら?」等と呑気に喜んでいた。


「あ!探してました!コレットのお店にマリーを連れてってください!」

 ジスランを見て、マリーズは喜色満面の笑みを浮かべてみせる。

 こういう特別扱いをされるのが、ジスランは大好きなのだ。

「あぁ、そうだね。も色々話したいだろうからね」

 愛称で呼ぶ許可など出していないのに、ジスランはマリーズをマリーと呼んだ。



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