第9話:前回との違い




 ジスランに自席まで案内されたマリーズは、名前を確認して席に着いた。

 伯爵位までは、必ず座れるように席が指定されている。

 子爵位・男爵位は自由席だが、座れるだろう。

 準男爵や士爵などは微妙になってくる。

 豪商の方が実質的な権力が高かったりするからだ。


「余裕を持って席を用意すれば良いのに、絶対にわざとよね」

 チラリと後ろの方を見たマリーズは、誰にも聞こえないように呟く。

 前回も準貴族と平民、または平民同士でいさかいがあった。


 自由平等をうたいながら、入園式で既に差別をしているのだ。

 上位貴族には指定席。

 下位貴族には自由席。

 それ以下は力の強い者のみ座れる。



「失礼、そこは私の席ですわ」

 いきなり声を掛けられ、マリーズは眉間に皺を寄せた。

 前回でも自分の席はここだったし、今回も座る前に名前も確認している。

 前回は無かった出来事に、なぜだろうと思いながらも反応はしなかった。


「ちょっと聞いてますの?そこは伯爵位の席ですわよ!下位貴族か平民かは知りませんけど、さっさと後ろへ移動しなさい!」

 あぁ、なるほど、とマリーズは納得した。

 今まで高位貴族のお茶会などで見た覚えが無い令嬢が居たので、勝手に下位貴族が座っていると勘違いしたのだろう。




「ここはぁ、マリーの席ですぅ」

 ジスランにだけ態度を変える訳にはいかないので、小首を傾げて顎に人差し指を当てながら相手を見上げる。

「ゲッ」

 思わず呟いた声を慌てて飲み込んだ。


 声を掛けてきたのは、同じ伯爵位のミレイユ・マルタン伯爵令嬢だった。

 何かとマリーズに張り合ってきた令嬢で、主に成績の順位を争っていた。

 マリーズと似た形態の令嬢で、群れる事は無く孤高の存在だった。

 何となく勝手に親近感をもっていたが、高等科を卒業するまで好敵手だっただけで個人的な交流をする事無く卒業した。



「マリーはぁ、伯爵家ですよぉ」

 語尾を上げて話し、首を傾げる仕草をする。

 コレットでもここ迄では無かったとマリーズは気付いたが、今更やり直しは出来ない。

 今は、しっかりとした才女からは程遠い存在に成りきらなければならないのだから。


「まさか、クストー伯爵令嬢ですの?」

 口調もさることながら、髪型と化粧が違うのですぐには気付かなかったようだ。

 しかし初等科からいつも競っていた相手である。顔をジックリと見て、気付いたようだ。

「何ですの?その話し方は」

 初等科からのマリーズを知っていれば、当然の反応だった。


「え?私を覚え……」

 いつも通りに返答してしまいそうになり、マリーズは慌てて口に手を当てる。

 しかしマリーズとしては、自分をしっかりと覚えているほど関心を持っている人物が居るとは思っていなかったのだ。

 実際に前回は、ミレイユとしっかりと相手を認識して関わるようになったのは、中等科に入ってからだった。



「マリーはぁ、マリーですぅ。伯爵令嬢ですから席はここです!」

 とりあえずマリーズは、無理矢理会話を終わらせた。

 プイッとミレイユから顔を逸らし、前を向く。


「貴女がクストー伯爵令嬢ならば、問題はございませんわ」

 ミレイユは、前を向いたマリーズの後ろを通り自分の名前の有る席へと座った。


「もしかして、私の為に注意をしてくれた?」

 視線だけを動かしミレイユを見る。

 背筋を伸ばし前を向いて座っている姿は、前回と変わらず凛としていた。



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