第7話:中等科の入園式




 馬車の中で、何度も自分の姿を確認しているマリーズを、レリアは微笑ましく思って見つめていた。

 いつもはキッチリとした装いを好むマリーズが、学園中等科の入園式の今日、いつもと違う雰囲気にして欲しいと言ってきた。

 最初は戸惑ったレリアだったが、出来上がってみれば、その年相応の可愛さに思わず笑顔が零れた。


「リボンの色は明るい黄色の方が良かったかしら?」

 横の髪を1束だけ緩い三つ編みにしているのだが、それを留めているリボンの色を、マリーズは最後まで悩んでいたのだ。

 明るい黄色と、今着けている淡い水色だ。


 制服が紺色なので水色にしたのだが、やはり黄色も捨てがたかったらしい。

 今まであまりお洒落に関心を示さなかったマリーズの変化に、やはり年頃の女の子なのだとレリアは少し安心していた。




「行ってらっしゃいませ、マリーズお嬢様」

 馬車を降りたマリーズを、レリアが頭を下げて見送った。

 後続の馬車が居るので、馬車の中からの見送りである。

 それに小さく手を振って、マリーズは歩き出した。


 歩く時、踵を着けずに少し跳ねるように歩く。

 淑女としては失格だが、ふわふわと髪が揺れて可愛いを演出するには正解だ。

 その証拠に、前回には見向きもされなかったのに、皆の視線を感じる。

 男からは異性に対する好意を。

 女からは同性に対する嫉妬を。


 それらの視線をサラリとかわし、マリーズは式会場へと向かった。

 1つ上の学年のジスランは、案内係になっていなければ本日は休みだ。

 しかし目立つ事、チヤホヤされる事の大好きなジスランは、絶対に新入生の案内係を引き受けているはずだと、マリーズは確信していた。



「まだ出会っていないのにジスラン好みの色を身に纏うのはやりすぎだから、今日は水色で正解よね」

 マリーズが最後まで悩んだリボンの色だが、制服との兼ね合いや自分の好みでは水色なのだが、ジスランの好みは黄色なのだ。


「俺の色である黄色を着こなすコレットは最高だな」

 いつもそう言っていた。

 ジスランの瞳の色は琥珀色だった。

 黄色より茶色や橙色に近いとマリーズは常々思っていたのだが、ジスランは認めなかった。


 恋人関係だった時に琥珀のネックレスを見ていたら、シトリンの売り場に連れて行かれたのだ。

 お店の人が気を利かせてイエロートパーズを持って来たが、それは早々に下げさせていた。

 今思えば、トパーズの方が高価だったからだろう。



 マリーズは胸の辺りまである巻き髪がフワリとなるように、下から持ち上げくしゃりと軽く握り整える。

 これは、前回コレットがよくやっていた仕草だ。

 勿論ジスランの前ではやらない。


 入り口から会場内を覗き込み、マリーズは目的の人物を見付けた。

 記憶の中よりも若いが、間違い無くジスランだ。

 他の係員の生徒と話しながら、チラチラと会場へ入って来る新入生をチェックしている。


「前回は範疇外だから無視されていたのね。あんなに露骨な視線で女漁りしてたなんて、本当にクズだわ」

 ジスランの顔がマリーズの方へ向いた。

 そのタイミングに合わせて、顔を左右へと動かす。

 私は迷っているんです、誰か助けてください!

 ジスランが声を掛け易いように、マリーズは隙を作って待っていた。



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