第47話 開戦準備
明日に向けて大急ぎで準備を進める。
どうやら、ここへ来る予定の魔王軍幹部は竜人と呼ばれる種族で、人型の姿と巨大な竜の姿でそれぞれ使い分けている事が分かった。
あまり前線には出て来ないため情報は少なく、それ以上の事は分かっていない。そのため、多種多様な罠や防衛設備が必要となるだろう。
「ねね、こんな狙撃塔なんて作って大丈夫かな。集中攻撃されそうじゃない?」
「自動砲台をここに置いて、俺たちは別から攻撃するんだよ。そうすりゃあ、あいつらはこっちばっか見て、俺たちは気付かれずに攻撃できるだろ?」
「なるほど」
今作っているのは拠点の三階部分で、なるべく敵の注意をここに集中させ、本命の俺たちは地上部分から攻撃する算段だ。
そこにおーちゃんの幻覚が混ざれば、幹部であろうとも混乱させることが出来るのではないだろうか。
「それと地雷も仕掛けよう。魔族が大量にいたらそれで足止め出来るだろうから」
「おっけー」
慎重にブロックを並べながら答える夏月に癒されながら、俺も落ちないように気を付けながらブロックを並べる。
どこぞのゲームのようにシフトキーでもあれば便利なのにと、そんな思考が脳裏を過ぎる。
と、俺に変わって自動砲台の設置を行なってくれている香織が額の汗を拭いながら。
「これ、どういう原理で敵を攻撃するの?」
「熱を探知する魔道具が中間素材になってたから、それを探知して攻撃する仕組みになってると思う。でもどうやって敵と味方を区別してるのかは分かんない」
「え……下手したら私撃たれてたかもしれないの?」
夏月の答えで香織はサッと血の気が引いた様子で硬直する。
実際、どのようにして判別しているのかは不明だ。俺が何か設定したわけでもなければ、そもそも設定することすら出来ない。
それでも、しっかりと敵味方を判別して銃撃してくれるのは、魔法の力というヤツなのかもしれない。
と、夏月が悪い顔をして。
「その手があったね」
「あ、暗殺する気?!」
夏月がサラッとサイコパスな事を言い放ち、香織はビクッと体を震わせて怯える。
そんな可愛らしい二人に笑わされながら三階部分は完成し、囮の自動砲台とマネキンをそれっぽく並べた空間を眺める。
「まあ、これであいつらも引っ掛かるだろ。地上の方もやっちまおう」
「「はーい」」
階段を下って一階に入ると、ぽちの背中で大の字になってスヤスヤ眠るおーちゃんの姿があった。
今朝はいつもより少し早く起きて朝ごはんの用意と畑仕事をしていたし、疲れてしまったのだろう。
起こさないように音を立てず外に出ようとすると、茶色い体毛に包まれた耳がピクリと反応した。
「むぅ? どこへ行くのじゃ?」
「改築するんだよ。おーちゃんは休んでな」
「応援するのじゃ……」
まだまだ眠たいようで、消え入りそうな声でそう言った彼女はコテンと頭を下ろす。
布団代わりにされているぽちの方は特に気にする様子無く大きな欠伸をしながら寝息を立て、たまもその隣で腹を見せて寝ている。
俺もおーちゃんくらいのちびっ子になって、二匹の腹の上で寝てみたいものだ。
同じことを考えていそうな香織と夏月を連れて外に出ると、外壁の一部に小さな穴を開ける作業をするマキナの姿があった。
彼女が何をしているのかと言えば、壁の内側から攻撃出来る覗き穴を作っているのである。
大きすぎると目立つし、かと言って小さすぎると外を見られないため、なかなか手間のかかる作業だ。
「マキナ、いくつ作れた?」
「五個くらい」
「分かった、それじゃあ夏月と香織はマキナを手伝ってあげて。俺は地雷埋めて来るから」
返事をしてくれた彼女たちに残りを任せ、インベントリから二種類の地雷を手に取る。
一つは対人地雷で脚が吹っ飛ぶ程度の中途半端な威力を持つ代物だ。わざと殺さないことによって救助に人手を割かせるのである。
もう一つは対戦車地雷だ。幹部の他にも巨大な生物が来る可能性もゼロではないため、対人よりも威力の高いこれを用意している。
穴を掘ってそれらを埋め、戦闘終了後に回収できるように、マップへ印を付ける。
拠点を中心に半径五十メートル程度の範囲に二百個の対人地雷と五十個の対戦車地雷を埋め終え、歩き始めたところで背後から足音が聞こえた。
昨夜新しく作ったリボルバーを取り出しながら振り返ると、こちらに駆け出すゴブリンの姿があり、俺はあえて撃たずに後退る。
「ギャギャッ!」
俺が怯えているとでも思ったのか元々醜い顔に醜悪な笑みを浮かべ、棍棒を振り回しながら突っ込んで来る。
距離にして十メートル。巻き込まれる可能性がありそうな何とも言えない距離なため、俺はひょいと木の枝をよじ登り――
「ギャァ?!」
破裂音とゴブリンの悲鳴が混ざって聞こえたのはすぐのことだった。
目を向ければ膝から下を失ったアホの姿があり、何が起こったのか分からない様子ながら、俺に何かされたのは分かったようで、棍棒を投げ付けて攻撃する。
「ありがとさん」
それをキャッチしてインベントリに入れ、代わりに鉛玉を返してやったところで、木から降りてゴブリンの体の状態を観察する。
対人地雷の説明文には『人間を目標とした地雷。死なない程度のダメージを与える』とだけ書かれていたが、本当に中途半端な火力をしている。
魔物が相手の場合は大した役に立たなさそうだが、相手が組織として動くなら、救助に人手を割かせて消耗させることが出来そうだ。
「……姑息だな」
勇者としてこの世界へやって来たのに、やっていることはどちらかと言えば魔王の方が近い気がしてしまう。
仲間も人間より魔物の方が多いし、何なら敵兵士をひっ捕らえて強制労働までさせている始末だ。
……考えてもしょうがねえか。
ビシッと頬を叩いて気分を入れ替えた俺は地雷を埋め直し、自分が踏み抜かないように気を付けながら拠点へ戻る。
背後で魔物が地雷を踏みぬいたらしい音が聞こえたのを無視して地下通路から中へ入ると、良い匂いと炒める音が胃袋を刺激してくれる。
「ただいま。炒飯か?」
「うむ、そうじゃ。水でも用意して待っておれ」
「ありがとな」
竈の横に設置している濾過装置から水の入った瓶を取り出し、それを各々のコップに注ぐ。
と、じゃれ合っていたぽちたまが構って構ってとやって来る。
「今日から明後日くらいまではお散歩無しだ」
「わぅ……」
「鬱憤は全部、明日か明後日に来る幹部にでもぶつけてくれ」
「わふっ!」
二匹して目をギラつかせ、散歩出来ない鬱憤が相当なものであると察せられる。
これから惨殺されることになる魔族たちに同情していると料理がテーブルに並び始め、匂いに釣られたらしい三人の美女が戻って来た。
「匂いしたか?」
「うん、ちょっとだけ。何作ってるのかなって気になっちゃった」
夏月が炒飯をチラチラ見ながらそう答え、その後ろでは香織とマキナが目をキラキラさせている。
三人にはもふもふたちのご飯の用意を任せ、炒飯の盛り付けられた大皿をおーちゃんと共に運ぶ。
「おーちゃんってスゴイね。そんなに小さな体でお料理とか畑仕事とか出来るんだもん」
「えっへん」
尻尾を嬉しそうに振り回しながら胸を張る神様。
そんな彼女をひょいと持ち上げ、彼女専用の椅子に乗せてやり、俺も腰掛けてスプーンを手に取る。
「じゃ、食べよう。いただきます」
「「「いただきます!」」」
みんなお腹が空いていたようで、元気な声が部屋の中に響き渡る。
それから皿とスプーンの擦れる音や、相棒たちがガブガブ食べる音しか聞こえない時間が続き、やがて最初に食べ終えた者が満足げな声を上げる。
「「わぅ!」」
たまとぽちが一斉に声を上げ、満足気に目が輝いている。
口元に肉のカスをくっ付けているのがまた可愛らしく、夏月がむふふと笑う。
そんなもふ公たちに次いで俺も食べ終わり、とっとと皿を下げる。
「ちょっと、上から拠点見て来るな。みんなはゆっくり食休みしてて」
「うん、分かった。落っこちないように気を付けてね」
もぐもぐしている夏月とマキナに代わり、香織がにっこり微笑んでそう答えた。
軽く頷いた俺は階段を登って三階へ入って、拠点全体を見回す。
二十五メートル四方で覆われた厚さ三メートルの城壁と、その更に外側を囲む三メートル幅の堀。
防壁には四つ角にそれぞれ設置された自動砲台と、跳躍やクライミングなどによって乗り越えられないように、高電圧の電流が流れる有刺鉄線で返しを作っている。
そして一番狙われそうな跳ね上げ橋付近の防壁には大きな穴を開け、戦車で攻撃出来る状態にしている。
「勝てっかな……」
対戦車ロケットランチャーなども用意出来たし、壁を突破された時のために、屋内戦用のリボルバーや拳銃なども用意している。
それでも、敵の正体が大雑把にしか分かっていない以上、想定外の攻撃で全てが一瞬にして無に帰す可能性だってある。
……いいや、大丈夫だ。俺とあの子たちが力を合わせれば、魔王だって殺せる。
「よしっ」
頬をべしっと叩いて気合を入れた俺は地下へと戻る。
丁度、全員食べ終えて食休みをしていたところだったようで、ゆったりと会話をするみんなの姿があった。
「どうしたのー?」
マキナが少し心配した顔をして問いかけて来る。
「何もない。絶対に生きて帰ろうな」
「うん!」
絶対に守らねば。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます