第43話 殲滅
新しく作ったN16A2カービンライフルと、その弾薬である五・五六ミリ弾の数を確認する。
数発近くの木に向けて射撃してみればAKよりも圧倒的に反動と射撃音が小さく、その扱いやすさに惚れ惚れする。
後ろを見れば新調した犬用装備を身に付けたぽちたまが笑っているように見える顔で周囲をキョロキョロと見回している。
「なんか、見た目は怖いのに可愛いね」
「だろ?」
銃を構えて確認作業を行いながらそんなことを言ってくる香織に短く答える。
今回の殲滅戦には香織も連れて行くことになった。スキルの共有を行ってからの四日間、彼女が採掘を頑張った事でレベルは五十まで上がり、射撃訓練も行った事である程度は戦えるようになったのである。
しかし、流石に戦車の外を歩かせるのは危険という事で、俺の代わりに車長席へ座らせるつもりだ。
「おーちゃん、準備は良いか?」
「うむ、出来ておる」
ひょっこりと頭を出したおーちゃんが返事するのと共にエンジン音が鳴り響き、排気ガスがもくもくと上がる。
砲塔の後ろに立った俺はのんびりとインベントリの整理をしてみんなの準備が終わるのを待っていると、香織が最初によじ登って来た。
「緊張して来ちゃった」
「魔族とは戦ったんだろ?」
「うん、隼人君の捜索中に遭遇して戦ったよ。でもさ、基地に攻め込むのは初めてだし、たくさん殺すかもしれないって思うと恐いよ」
「それは慣れて。そのうち、人も殺すことになるだろうからさ」
「分かってる。夏月ちゃんと約束してるもん」
そう言ってにっこりと微笑んだ彼女はヘルメットを被り、緊張した面持ちで機関銃を握る。
何人か魔族を殺した経験はあるようだし、その時になったらしっかりと引き金を引いてくれるだろうが……今のこの子は見ていて不安だ。
「どうかした?」
装備で身を固めた夏月が砲塔に取り付けられている梯子から登って来ながら尋ねて来る。
不思議そうなその顔もまた可愛らしく、また求婚したくなる気持ちをグッと堪え、彼女に首を振って見せる。
「何でもない。準備は良いか?」
「うん、良いよ。ぽちたまも新しい装備で喜んでるし」
二匹の背中で日の光を反射する機関銃。
以前までのそれは命中精度や装弾数に難があったものの、新しく作ったMG34機関銃に換装したことでその辺は改善されただろう。
……ただ、使用弾薬がまた変わった上に、分間八百発というとんでもない発射速度のせいで、弾の消費が前より一層激しくなりそうだ。
「夏月、殺し過ぎないようにな。奴隷の数が減る」
「分かってる。白旗上げたら撃たないよ」
「その……二人とも冷酷だね?」
「割とそうでもねえよ。ちゃんと、インセンティブあるしな」
ほぼ、装飾品にしか使わない金や宝石は、採れたうちの一部を魔族たちにくれてやることにしている。
そのおかげか、あっさりと補充部隊や森の近辺に展開している魔族の拠点に関する情報を吐いたし、魔王軍幹部の情報もいくつか手に入れた。
案外、あいつらにとって俺の元で奴隷やってる方が気楽なのかもしれない。
考え事をしていると夏月に続いて登って来たマキナが俺の肩に手を置く。
「ご主人、行こう」
「おう、そうだな」
早く戦闘をしたい様子で目を輝かせる彼女に短く返事をした俺は、おーちゃんに魔導式のマイクで出発を伝える。
すぐに返事をした彼女は西側に位置する魔王軍の拠点へ向けてゆっくりと発進させる。
と、機銃に手を掛けたまま香織がこちらを振り返った。
「その……隼人君はさ、この世界に来る前までは私のことどう思ってた?」
「どうって言われてもなあ……」
夏月も香織も俺とは縁の無い人間だと思っていた。
二人からはイソスタグラムでフォローされていたし、適当な景色でも投稿すると必ずハートを付けてくれていて、「もしかしたら……」と考えていた部分があったくらいか。
「まあ、可愛いなとは思ってたよ。夏月と同じように、手の届かない所にいる、みたいな?」
「えー、そんなわけないじゃん。ちょっと手を出したらすぐに届いたよ? 夏月ちゃんみたいに」
「私はそんなに軽い女じゃないですぅ―」
しっかりと話を聞いていたようで、ハッチから頭を出した夏月が不服そうに頬を膨らませる。
「そう? ずーっとチラチラ隼人君のこと見てたじゃん」
「ち、違うし。横見てたのは掲示物とか見てただけだし」
すーっと顔を逸らしてそんなことを言って誤魔化そうとする夏月だが、香織には全てお見通しなようでニヤニヤと笑う。
「か、香織だってジーっと隼人のこと見てたじゃん!」
「もちろんですとも。好きな人なんだから見ちゃうじゃん」
「このっ……! デカイものぶら下げてっ!」
反論できなくなったらしく、夏月は香織の大きな果実を鷲掴みにして上下左右に揺さぶる。
流石にその攻撃は予想外だったようで、「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝罪の声が上がる。
今晩、二人とも襲ってやろうかなんて考えていると、微かに男の声が聞こえた。
「二人とも、後でおっぱい揉んであげるから戦闘態勢取って」
「揉まれたいわけじゃ……わかった」
「楽しみにしてるね」
夏月はそこが弱点な事もあってちょっと恥ずかしそうに、対して香織はちょっと嬉しそうに微笑んで機銃を握る。
俺も銃を構えて索敵を始めれば、木々の合間に人形の影が見えた。
三倍スコープを覗き込むと、鬼のような頭と頑丈そうな鎧がクッキリと映し出され、それを見て陸軍がやって来たと察する。
魔族たちと会話をしたことで分かったが、魔王軍は多数の民族で構成されているらしい。
トカゲ頭の奴らはリザードマンと呼ばれる少数民族だったらしく、厳密には魔族では無いのだと言う。
対して鬼のような顔をしている者たちが本物の魔族で、魔法が使える分リザードマンより数段強いらしい。
マイクでおーちゃんに停車するよう呼び掛け、夏月に方向を教える。
主砲の照準越しに奴らの姿が見えたようで、彼女は少し驚いた声を出す。
「あれ、陸軍じゃないの? なんで?」
「補充部隊が死にまくってるから討伐隊でも組んだんだろ。榴弾ぶち込んでやれ」
俺がそう言うとマキナの弾頭と薬室に火薬を詰め込む音が聞こえ、砲の調整が始まる。
やがて狙いが定まったのか動きが止まり、夏月から耳を塞ぐように声が掛かる。
――咆哮と共に砲弾が放たれた。
五人のうちの一人に直撃したそれは肉体を粉砕し、直線上にあった大木へ命中すると爆発を起こした。
悲鳴すら上がらずにミンチとなった五人の魔族を見た香織が、「うぅ……」と声を出して目を逸らす。
背中を撫でて気分を落ち着かせてやっていると、複数の方向から声が聞こえ始め、音を聞き付けた魔族たちがやって来ていると察する。
「香織。覚悟決めろ」
「……うん!」
後ろから小柄な体を抱きしめて声をかけると彼女はコクリと頷き、顔を上げて機銃を構える。
左右を随伴するぽちたまに警戒するよう声を掛け、俺も銃を構えて索敵を行う。
『撃つよ!』
夏月がマイク越しに叫び、妙に足が速い亀のような生物に乗って、近寄って来る魔族達へ砲撃が行われた。
一撃で全員が挽肉と化したのを横目に、回り込んで後ろから接近して来る騎兵隊へ三点バーストで射撃する。
奴らの鎧が硬いのか、それとも魔族の耐久力が高いのか、胴体だと五発程度は撃ち込まないと死なない。
それに対して頭は兜を被ってはいても、一発命中するだけで殺せるようで、積極的にヘッドショットを狙うことにした。
……ぽちたまの弾幕で関係無く細切れになるのだが。
「うりゃっ!」
後ろで香織の声と機銃の重厚な発射音が聞こえて振り返ると、寄ってくる魔族たちに次々弾丸をぶちこんでいた。
手足に当たればちぎれ飛び、腹に当たれば悲鳴を上げて吹っ飛んでいく。
そんな恐ろしい光景を自ら作り出しているだけあって体は震えているが、覚悟は決めているのか引き金から指を離すことはしない。
魔族たちの悲鳴があちこちから上がり、やがて彼らは撤退して行った。
ホッと安堵しながら銃を下ろすと機銃を握りしめたまま動かない香織に気付き、背中を摩ってやりながら。
「よく頑張った。帰って風呂入ろう」
「その……」
「どうした?」
「ううん、何でもない」
そう言って笑って見せた彼女はぎゅっと抱き着き、大きく深呼吸をする。
……柔らかいものが押し付けられているように感じるのは気のせいか?
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