第27話 拠点探し

 橋を渡って外に出た夏月と三匹の相棒たちに周辺の警戒を行うよう言って橋を上げる。

 地面と垂直になったところでハンドルから手を離した俺は駆け足で地下へ向かい、昨日のキマイラ討伐後に新しく作った地下道を通り抜ける。

 やがて見えて来た梯子を上って地上へ出た俺は、ハッチを閉めてその辺の土や枯れ葉で隠す。

 

「うしっ」


 すぐ近くの木に目印がある事を確認した俺は、近寄って来たゴブリンを射殺して解体し、みんなの元へ向かう。

 少し離れたところで聞いたことの無い銃声が聞こえ、マキナが試射しているのだろうと察した。


 誤射されることが無いようにゆっくりと歩いて音の方へ向かって進んでいると、肩に担いだ散弾砲を派手にぶっ放すマキナの背中が見えて来た。

 そのすぐ傍にいた夏月がこちらに気付き、おいでおいでと手招きされ、みんなを驚かせないように近付く。


「試射?」


「うん。見て、あれ」


 彼女が指差した先に目をやれば、バラバラに吹き飛んだ肉塊と、巻き添えを喰らった哀れな木々の姿があった。

 辛うじて原形を留めている脚などから、それがオークの群れだったと分かり、思わず顔を引き攣らせる。


「これ……マジ?」


「三発撃っただけでコレ」


「えっぐ」


 散弾砲に装填されている弾は八ゲージ――直径二十一・二ミリというとんでもない代物だ。

 対して、俺と夏月が使っていたのは十八・五ミリの標準的な弾で、その威力の差は歴然と言える。

 

「……マキナ、誤射にだけは気を付けるんだぞ」


「キシッ」


「んじゃ、探索始めっか」


「死体は燃やしとくね」


「頼んだ」

 

 最近開発したという魔法で死体の処理を始めた夏月を横目にマップを開いて方角を確認する。

 俺もいつの日か魔法を使えるようになりたいなと考えている間に処理は終わり、それを見て北西へ向けて歩き出す。


 今日の目的は魔王軍の拠点の捜索と、周辺の地図埋めである。

 可能なら素早く見つけ出してしまいたいものだが、あの魔族が嘘を吐いていたっておかしくないし、最低でも三日は掛かってしまいそうだ。


「どこにあんだろうな。ちょくちょく来てたし、そんなに離れては無さそうだけど」


「魔法使ってるかもしれないから何とも言えないね。もしかしたら、徒歩だとすごく時間掛かる場所かもしれないし」


「転移魔法みたいなのあるのか?」


「うん、あった。簡単に作れるやつならもう作れるくらいだし、魔族が持っててもおかしくないと思う」


「マジ?」


 作れたのかよと驚愕していると、ぽちが何かに気付いた様子で射撃体勢を取った。

 念のため俺も銃をそちらへ向けると四体のオークの群れが見えて、ぽちとたまに撃つよう命じる。

 

 重厚な発射レートで次々に放たれて行く七・六二ミリ弾はそこそこの精度でオークたちの体をぶち抜き、命中した手足がちぎれ飛ぶ。

 あんな攻撃を受けてもHPが全く減らなかったキマイラの化け物っぷりに今更ながら感心する。

 と、そんな様子を横で見ていた夏月が不思議そうな顔をする。


「なんかさ、私たちがAKで撃つよりもダメージ大きいよね。やっぱり、機関銃だとそのぶん強いとかあるの?」


「使ってる弾違うからな。あっちのは薬莢がデカい分火薬入るからその分威力も上がるんだよ」


「じゃあ、もしも同じ弾だったら威力同じ?」


「威力は同じだな。精度とか反動とか、そういうところでは差が出るけど」


 銃の規格が違うため、どちらにせよ薬莢の大きなものしか使えず、同じ弾を使うことは出来ないのだが。

 マキナの散弾砲といい、俺たちのアサルトといい、もふ公たちの機関銃といい、どれも使用している弾丸が違うせいで、弾薬素材の消費が多くてカツカツだ。

 時間が出来たらまた地下で採掘しないと、資源が枯渇することになってしまいそうだ。


「……ん?」


 隣を歩いていた夏月が何かに反応し、敵かと身構えながら尋ねる。


「どうした?」


「あれ、何だと思う?」


 彼女が指差した先を目で追えば、崩壊してしまった石造りの防壁と、その奥にボロボロな建物が見え、ノスタルジーな雰囲気でドキドキしてしまう。

 何かの遺跡だろうかと期待を寄せながら近寄ってみると徐々に魔王軍の紋章が見えて、ケッと唾を吐いてやりたくなる。


「んだよ、クソが。魔王軍かよ」


「そんな怒らなくても……」


 古代の遺物かと期待していただけにイラッとしながら、何かいる可能性も考えてゆっくりと近付く。

 すると、壁の外なのにも拘らず紫がかった骨が散乱していて、基地を放棄して逃げようとしたのだろうかと考察が進む。

 これはこれで探偵ごっこをしているようで面白いなと思い直していると、夏月は壁の崩壊した部分を指差して。


「これ、壊されてから大分時間経ってるよね」


「だな。苔生えてるし」


 何か巨大な魔物が体当たりでも食らわせたかのように壁は穴が開けられ、その先には軍服を身に纏った白骨死体が転がっていた。

 雰囲気から察するに、何らかの魔物から突然の奇襲を仕掛けられて、まともに抵抗も出来ぬまま殺されたと言ったところだろうか。

 その証拠に武器や盾などはほとんど落ちておらず、崩れた建物の中に武器が並べられたままなのが見える。


「もしかしてさ、この前に殺したゾンビもここに務めてた人なんじゃないかな」


「ありそうだな。なんかの魔物に襲撃されたみたいなこと話してたし」


「キマイラかなぁ?」


「だったら良いけどな」


 あの時に運良く殺せたキマイラなら襲撃を恐れる必要は無いが、もしも別の魔物による攻撃だったら油断は出来なくなるな。

 とはいえ、今のところそれらしき魔物は現れていないし、魔族が討伐してしまった可能性が高そうだが。


「まあ、ちょっくら探索してみるか。夏月は資材になりそうなものあったら回収して。ぽちたまとマキナは周辺の警戒を頼んだぞ」


 俺の言葉にそれぞれ返事をした皆から離れ、一先ずすぐ近くの武器保管庫らしき建物の中へ入る。

 引っ掻かれたような痕跡の残る廃屋に入ると埃臭さと植物の臭いが混ざり合った空気が鼻を通り抜け、思わず口元を抑えながら中の様子を伺う。

 聞こえて来る音は外をうろつくわんこたちの足音くらいで、これは大丈夫だろうと思いながらも、念のためショットガンを片手に廊下を進む。


「がうっ」


「うおっ?!」


 横から顔が飛び出してきて思わずショットガンを向けると、ビビって後退ったぽちの姿があり、笑いが込み上げて来る。

 壁に開けられた穴から中に入ろうとして、バッチリタイミングが噛み合ってしまったらしい。


「撃たれたくなかったら変なことすんじゃねえぞ?」


「わふ」


 ごめんなさいとばかりにしょんぼりと下を向き、少しだけ罪悪感に苛まれながら、次は気を付けるよう言って手近な扉に手を掛ける。

 窓ガラスを外側から割られた跡と、血痕が残っているのを見て、外に引っ張り出されたのだろうかと予測を立てる。


「お?」


 セクシーポーズを取る魔族のリアルな絵と共に『魔王軍に栄光あれ!』の文字が壁に描かれているのを見つけ、何となくどんな軍隊なのか雰囲気は掴めた。

 ゲームと映画の知識が初めて役に立ったなと苦笑していると、壁に掛けられた盾が目に入る。

 それはよく魔族たちが使っているそれと同じ見た目で、一つ気になった俺はそれを壁に建て掛け、少し離れてから散弾を一発撃ちこんだ。


「やっぱ貫通出来ねえのか……」


 表面を大きく凹ませるだけに留めたそれを見て、もっと威力のあるものを作る必要がありそうだと実感する。

 弾を込めながら部屋を見回した俺は、もういいやと部屋を出て、次へ向かった。


 約三十分掛けて建物を探索したが、用途の分からない魔道具をいくつか見つけるだけに留め、とっととそこを出た。

 しばらくして夏月がホクホク顔で現れ、首ニコニコと笑みを浮かべる。


「あっちは食糧庫だったみたいなんだけど、口に出来るのはワインとかのお酒と保存食くらいだった」


「酒飲みたかったのか?」


「飲んでみたいけど、そうじゃなくて……」


 インベントリを開いた彼女は巻物のようなものを手にした。

 丁寧にそれを開いた彼女は、じゃじゃーんと言いながら表面をこちらに向けた。


「これ、あいつらの拠点の位置か?」


「うん、そうみたいなの。全部で八カ所載ってるけど、何個かバッテン付けられてるから、そこは襲撃受けて壊されたんだと思う」


「なるほどな。ちょっと開いたままにしてもらって良いか?」


 俺のマップを開いて地図と照らし合わせてみると、俺たちの拠点は魔王軍の拠点に囲まれていたことが分かる。

 しかし、その大半の基地は破壊された後だったらしく、来るタイミングが悪ければすぐに殺されていたかもしれず、鳥肌が止まらない。


「今日って何日なんだろうな?」


「分かんないねー」


 破壊された拠点には日付らしき数字が書かれているのだが、今日が何日か分からないせいで、壊されてからどの程度経っているのかハッキリしない。

 

「まあ、ええか。こいつら殺したのキマイラだろうし」


「他は漁る?」


「いや、魔族の拠点探しが目的だし、ここに書かれてる魔族の拠点を一通り見て行こう。まだ壊されてない所もあるだろうからさ」


「分かった」


 コクリと頷いた彼女と共に廃屋群から出た俺たちは、その地図と俺のマップを頼りに、再び探索を始めた。

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