第18話 侵入者
ショットガンを構えて慎重に進む。
後ろからは夏月が俺を盾にする形で銃を構え、その更に後ろを狼二匹がビクビクしながら続く。
二匹の切り傷などから敵はナイフのような鋭利な武器を持っている、あるいはそんな形状の腕をした魔物であることは分かっている。
新しい武器を装備したホブゴブリンの群れが侵入して来たくらいなら良いが、もしも魔王軍や人間だったら……人殺しを体験することになる。
俺のカワイイ相棒たちに攻撃をした時点で生かしておく道はあり得ないが、ちゃんと殺すことが出来るかどうか不安で仕方ない。
「――なんだこれ、魔導具か?」
「隊長、こんなの見たこと無いっす!」
聞こえて来た会話から、すぐに魔王軍だと分かった。
家の中を物色されている不快感で気分を害され、ゆっくりと階段から顔を覗かせる。
地下からの侵入対策として設置した半開きの鉄扉の先、部屋を歩き回る軍服たちがチラチラと見えた。
どうやら魔族はトカゲや蛇、猛禽類などの動物と人間を混ぜ合わせたような姿をしているようで、あれなら一撃で殺せるなと確信する。
振り返ると夏月は覚悟を決めた様子で頷き、深呼吸した俺は一気に拠点へ駆け込む。
「な、なん――」
鷲の頭をした軍服の男をショットガンでぶち抜き、その斜め後ろで武器を手にしたトカゲ男にも散弾をばら撒く。
背後でもバスンッバスンッと夏月の射撃も加わり、拠点に侵入していた五人の魔族は一瞬にして挽肉になり果てた。
外れた鉛玉が木材を壊してしまったが、血しぶきで汚れてしまった以上、後で掃除はしないといけないか。
「下で悲鳴が聞こえたぞ!」
「敵襲だ!」
どうやら地上にもいたらしく、騒がしい声が聞こえる。
石ブロックを慌ててクラフトした俺はそれを地下への入り口近くに設置して、簡易的な防衛陣地を形成する。
すると、金属製の盾を構えた二人の魔族を先頭に、計六人の魔族がゆっくりと階段を下ってやって来た。
盾に取り付けられている覗き窓越しに魔族と目が合い、そこを狙うことに決めながら弾を込める。
「俺の家に何の用?」
「……お前、勇者だな?」
後ろ側の体長格らしき男の問いに俺は答えない。
「こいつは勇者だ! 首を持ちかえれば百万レインだぞ!」
「「「おおおーー!」」」
雄たけびを上げた魔族たちだが、慎重な事には変わりない様子でこちらへ近付いて来る。
装填が終わったところでショットガンを構え直した俺は、盾に取り付けられた覗き窓に狙いを付け――引き金を引いた。
十数発の鉛玉が飛んで行けば一発は当たるだろうという予測は正しかったようで、あっさりと盾持ちが倒れた。
コッキングしている間に夏月も盾持ちに射撃したが、運悪く外れてしまったようで、悲鳴こそ上がったが倒れはしなかった。
と、魔族たちが下がり始めたのを見て、俺は慌てて挑発する。
「逃げんの? 魔族って大した事ねえな?」
「勇者風情が……!」
あっさりと挑発に乗ったもう一人の盾持ちが、仲間の制止を振り切ってこちらに突っ込んで来た。
はみ出た足を撃ち抜けば簡単に転び、丸見えになった蛇頭に夏月が射撃する。
まるで破裂したかのように肉片と脳みそが飛び散り、片付けが面倒になりそうだなと、どこか冷静な自分が考える。
「て、撤退……!」
隊長格の男がそう言ったのが聞こえて、慌てて散弾をばら撒く。
最後尾の二人には逃げられてしまったが、中段の二人は足と背中を撃ち抜いたことで逃走の阻止に成功し、逃がすものかと防衛陣地から飛び出て、コッキングしながら階段を駆け上がる。
待ち伏せを警戒して慎重に外の様子を伺えば、逃げ去って行く物音が遠くから聞こえ、思わずため息を吐きながら拠点を見回す。
どうやら奴らは壁を破壊して中へ侵入したらしく、巨大なハンマーで叩き壊したような跡が残っていた。
「うぁっ……」
うめき声が聞こえて振り返れば下半身をズタボロにされて動けなくなっている魔族の男と目が合った。
仲間の死体を掻き分けて逃げようとした彼だが、下から現れた夏月に挟まれると、観念したように寝転がる。
「こ、ころすなら……ころせ……」
「トカゲ頭からその台詞聞きたくなかったな」
「どういう意味?」
「何でもありません」
冷ややかな夏月の言葉で思わず敬語が出た。
女騎士に言われたかったなどと言っていたら、こいつらのように俺もエメンタールチーズにされていたかもしれない。
後で謝罪の気持ちを込めてたくさん可愛がるに決めながら、「早く殺せ」しか言わなくなったトカゲ野郎の襟をつかむ。
「お前に色々聞きたいことあるから来てもらうぞ? あ、夏月は被害の確認頼む」
「分かった。片付けもしておくね」
「無理はしなくて良いからな。気分が悪くなる前に辞めるんだぞ」
「すーぐ機嫌取ろうとするんだから」
こいつ締め上げたら夏月とたくさんイチャイチャしよう。
「じゃ、ちょっと変な音聞こえるかもしれないけど無視してな」
「う、うん」
魔族の襟首を掴んで地上へ出て、夏月に音が聞こえてしまわないよう、ちょっと離れたところまで移動する。
俺が何をしようとしているのか分かっているようで、トカゲ野郎は暴れ始めた。
鬱陶しく思いながら木の根元に投げ付け、銃を突き付ける。
「お前、魔王軍の補充部隊だろ? 拠点どこにあんだ?」
「教えるわけねえだろ! 今に見てろ、仲間が女をお前の目の前でレイプしてやるからな!」
威勢よく騒ぐクズにイライラしながら片腕を吹き飛ばす。
「ぎゃあぁっ?!」
簡単にもげて吹っ飛んで行った腕を見て鼻で笑いながらもう一度彼に強要した。
「次はこっちだ。拠点と、魔族の人数を言え」
パニックに陥っている様子の魔族は、悲鳴を上げながら口を開く。
「ほ、北西……北西の方にある! 他の拠点は知らない!」
「人数は?」
「お、俺たちも合わせて四十人……他のところも含めたら二百人かそこらだ! 頼む、命だけは――」
「ありがとさん」
泣き叫ぶ魔族の頭を吹っ飛ばした。
糸の切れた操り人形のように動かなくなった死体を見て、面倒くさく思いながらナイフで解体を始める。
魔族の死体は放って置くとゾンビになるようだし、腐ったら病原菌の温床にだってなりかねない。
一分ほどナイフで切りつけたところで、気持ちの悪い音と共に死体は消え去り、入手出来たアイテムを見る。
軍服だったものと思われる布切れがいくつか、身に付けていた剣、レーション、酒、その他テイムに使うための物と思わしき道具。
それらを確認した俺は死体の片付けをしているであろう夏月の元へ向かう。
階段を下って行くと死体にナイフを突き立てる音が聞こえ始め、頑張っている彼女に労いの声でも掛けようと目を向ける。
すると、不愉快そうに眉を顰めながら死体を処理する夏月の姿があり、何があったのだと不安になりながら声を掛ける。
「どうした? 大丈夫か?」
「うん……この人たちさ、私の下着で遊んでたみたいなの」
「死体撃ちするか」
「落ち着いて?」
夏月の処理してる死体の近くに転がる縞々のパンツを見て、ピストルを取り出した俺を彼女は慌てた様子で止める。
それはこっちの世界へ来た時に彼女が穿いていた可愛らしい下着で、初めて水浴びしに川へ行った時の思い出が詰まっている代物だ。
……拷問するような真似をしてちょっと罪悪感はあったが、二度と攻撃しようと思わないように、あいつらの拠点は全部潰すか。
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