第16話 帰還方法

 ショットガンを構えて的を狙う夏月。

 俺がグアムへ行った時にプロから教えてもらったその持ち方を完璧に伝授させてあげる事に成功した達成感に包まれながら、中々様になっている彼女を眺める。

 体形と顔がモデルのように美しいと、本当に何をしていても似合うのだから、ずるいというものである。


 と、夏月は引き金を引いた。

 ゲームだったら弾がくっきりと見えるものだが、実際には何か飛んで行ったな、くらいにしか捉えることが出来ない。

 もっとレベルが上がればしっかりと弾の動きが分かるようになるのだろうか?


「……耳がキーンってする」


「だよなー。耳悪くなったらヤバいし、ヘッドセットとサプレッサー付けるか」


「そうだね」


 ショットガンを下ろして片耳を抑える彼女をナデナデする。

 サプレッサーと言えば音や閃光を消して隠密行動を取るのが主目的だと間違われやすいが、本当は銃の使用者の目や耳を守るために使用されている。

 記憶が確かなら布と数種類の金属で作れたはずだし、悪影響が出てしまう前に装着してしまおう。

 

 音に慣れたらしい狼たちと夏月を連れて地下へ戻り、作業台でピストル用とショットガン用のサプレッサーを二つずつ作ら

せ、余ったクラフトの枠に昨日作り忘れたマンティスの素材を使った装備を入れる。

 と、そんなことをしている横でマジックテーブルを操作していた夏月が何か見つけた顔をして、俺の方へやって来た。


「ねね、これ作ってみない?」


「なんこれ?」


「スキルのスクロール。魔石と布を組み合わせれば作れて、素材にした魔石に応じたスキルを習得出来るみたい」


「じゃあ、ゴブカスの魔石使ったら【絶倫】が手に入んのかね?」


「嫌なこと言わないでよ……」


 絶倫な夏月もそれはそれで良いと思ってしまう。

 と、彼女はジト目を向けながら一際大きな魔石を取り出した。


「これ、カマキリを解体してた時にゲットしたんだよね」


「あ、そういや魔石無かったな」


 全く気付いてなかったが、夏月に取られていたらしい。

 まあ、俺が使うことは無いからどうでも良いが。


「あのカマキリの持ってたスキル、覚えてる?」


「んーと、【岩食】と【採掘】と……後なんかあったっけ?」


「他に【硬質化】、【鎌術】、【嗅覚強化】、【聴覚強化】、【産卵】って感じで、強そうなスキルが何個かあったの」


「産卵したいのか?」


「引っ叩くよ?」


 余計なことを言うんじゃないとほっぺを抓って来る彼女に謝罪する。

 

「全く……スケベなんだから」


「ほら、好きな子にちょっかい掛けちゃうだろ? そういうことよ」


「……バカ」


 耳まで真っ赤にしてジト目を向けて来る夏月を見ていると、あの時に告白して良かったと思わずにはいられない。

 さて、後で存分にイチャイチャするとして、本題に戻してあげた方が良さそうだ。


「そんで、何のスキルが欲しいんだ? 名前的に強そうな【硬質化】か?」


「うん、それ。効果は体の一部を瞬間的にすごく固くするって感じだったから、上手く使えれば最強の盾になるんじゃないかなって思って」


「なるほどな」


 盾が無いのに盾があるような状態になれるなら確かに強い。

 極端にレベル差が無ければある程度は防げるようになるだろうし、前よりも前線を張りやすくなれるに違いない。

 

「じゃ、スクロール作っちゃおう。夏月の盾になってやっからな」


「カッコイイこと言った気にならないでよね」


 生意気なことを言いながらクラフトを始めた彼女は、やっぱり嬉しかったようで、むぎゅっと抱き着いて顔を埋めて来る。

 カマキリの一件があってから甘えん坊が加速したような気がする。俺としてはもっと好きなだけ甘えてもらえると嬉しいというものである。

 お上品な香りを楽しみながらナデナデしていると、すぐにそれが出来上がった。

 回収して手に取ってみるとインベントリでは『【岩食】のスクロール』と出て、思わず笑ってしまいながら。


「石食えってよ」


「えっ」


 俺が渡したそれを見て顔を引き攣らせた彼女は、まるでやけになったかのように、巻物をがばっと広げた。

 光を放ったそれは次の瞬間に消え去り、もしやと夏月に【鑑定】を使ってみれば、新たに【岩食】のスキルが追加されてしまっていた。


「何やってんねん」


「もーいいもーんだ。こんなの二度と作んない」


「可愛いけど落ち着け」


 幼女のような拗ね方をする彼女を落ち着かせようと抱き締めて背中と頭をぽんぽん撫でる。

 すると顔を埋めながらにぇへへと笑ったのが分かり、ただただこうしただけだったと察した。


 それにしても、昨日のカマキリ襲撃事件が起きてから何かと理由を付けて甘えて来るようになったな。

 理由なんて付けずに、甘えたい時に甘えて欲しいものだ。

 そんなことを考えながら、何か話題を振ろうと口を開く。


「夏月、日本に戻ったらどうする?」


「うーん……あ、そうだ。隼人来て」


 何か思い出した様子で俺の手を掴んだ彼女はマジックテーブルを操作して、検索窓に『ワープ』と入力した。

 森の外へワープしようという話かと思ったが違ったらしく、『惑星間転移装置・地球』の文字を夏月がタップする。


「ここと地球のどこかを繋ぐゲートみたいなのを作れるんだって! 必要な素材が入手方法の分からないものばっかりだけど、頑張れば帰ることも出来るんじゃないかな」


「なーるほど?」


 素材の欄を覗き込めば、確かに入手の難しそうなものばかりが並んでいた。

 オリハルコン、魔王の角、カサヘンカーポ転移装置、高性能発電装置……そこへ至るまでにどれだけ時間が掛かるのだろうかと思ってしまう。


「結局、魔王は殺さないといけないのか」


「うん、日本に帰りたいならそうするしかないみたいだね。隼人はどうしたい?」


「とっとと帰って婚姻届け出したいよな。子どもの事とか考えると、こんな危ない場所は無理だし」


「へふ……」


 耳まで真っ赤にした彼女は硬直して動かなくなった。

 死んだのかと焦るが密着している胸越しに鼓動を感じられ、告白したあの時のように頭の中がパンクしてるだけだと予想が出来て、正気に戻るまで撫で回すこと決める。

 作業台の方で完成を知らせる音がなると同時に夏月はハッとしたようにぴくっと動き、何も言わずに背伸びして、頬にキスをした。

 突然のその行動で今度は俺の脳みそがフリーズしそうになるが何とか耐え、お返しにもちもちなほっぺへキスをし返す。

 

「よし、今日も一日頑張るか。弾薬と銃の製造に金属が沢山必要だから、とりあえず採掘して集めて来るよ」


「私も行く」


「カマキリに襲われても大丈夫か?」


「うん、隼人の役に立ちたくて、昨日は夜更かししてまで色々作ったんだから」


 えっへんと前よりも大きくなったように見える胸を張り、セクハラしたくなる衝動をグッと堪え、作業台からサプレッサーを回収する。

 それをショットガンに装着した俺は夏月を連れて、修復工事と魔物対策を施した地下へ続く階段を降りる。

 ちなみに、ぽちとたまはお留守番だ。ちょっとかわいそうであるが、レベルが低くて硬い相手への攻撃手段が乏しい二匹を連れて歩くのは不安なためである。 

  

 レベル上げさせてやらないとなと、のんびり考えながら階段を下って行き、最下層まで到着した俺は夏月にショットガンを持たせて、一度塞いだ穴をもう一度壊す。

 恐いからと穴を塞いでしまったが、穴の先にある石炭の鉱脈を諦めるのは惜しいものがある。

 弾薬の素材に不可欠なのはもちろん、竈では長持ちする燃料になるし、魔法と組み合わせれば便利な道具を作る事だって可能だ。

  

 湧き上がる恐怖心を誤魔化すように考えながらつるはしを打ち付けると、ようやく開通した。

 鉄製の扉を設置した俺は、ショットガンを構えた夏月を振り返る。


「よし……行くか」


「うん、飛び出して来たら私がぶち抜いてあげる!」


「頼むから俺をぶち抜かないでくれよ?」


「怖いこと言わないで」


 そう、本当に怖いのはカマキリと遭遇することでは無く、味方の誤射である。

 

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