一方その頃、勇者たちは
王女に言われた通り、【鑑定】を発動させる。
すると、どういう原理なのか俺の名前『
その下に並ぶゲームで馴染みのある各種数値を見ていると、隣で同じことをしていた吉井誠司が。
「俺つええか?」
そんな問いを投げかけながら俺のパネルを覗き込んできた彼に、お返しとばかりにこちらからも覗き込む。
数字は誤差程度に違うだけで大差は無く、こいつと同じなのは少し癪だ。
と、誠司のパネルの最下部にスキルの欄があることに気付いて、自分のパネルへ視線を戻す。
すると【無敵化】の文字があり、誠司の【自動照準】よりかは強そうな響きで笑みが漏れる。
と、大澤に話しかけていた王女が落胆したような素振りを見せ、今度はこちらへ歩いて来た。
これは喜ばれるに違いない、そう思いながら彼女へ近付き、パネルを見せる。
すると沈んでいた彼女の表情がパアッと輝き、俺の手を取る。
「素晴らしいスキルです! 弱点らしい弱点が一切なく、二百年前の魔王大戦でも大活躍した代物です!」
「やっば」
よく分からんが、この世界じゃ俺は最強になれるってことか。
……もしもそうなら、夏月を落とすチャンスじゃねえか?
ついでに王女も自分のものにしちまうかと考えていると、彼女は今度は誠司のスキルを見た。
俺の時よりも控えめな反応をした彼女を見て、やはりこっちの方が圧倒的に強いのだと確信する。
他にも幸英や健二など、近くいるヤツらを見て回った姫だが、男の中で一番良い反応をされたのは俺だけで、女子の方はといえば夏月がべた褒めされていた。
これは優秀な男女でペアを組むとかになって、夏月と二人で行動するようになるのではないかと期待しながら、ダチと駄弁って暇を潰す。
残りの全員を見て回った王女は元の場所に戻り、デカイ胸の前で手を組む。
「皆様、とても素晴らしいスキルをお持ちですね……一人を除いて」
大澤だな。
ノリが悪くていつも澄ましたような顔をしてやがって、本当に気に食わない野郎だ。
一発ぶん殴って身の程を教えてやって欲しいものだ。
「さて、勇者様をお部屋へご案内したいところですが、その前にやらなければならないことが御座います。オオサワハヤト様、こちらへ」
案の定呼び出されたアイツは相変わらず何を考えているのか分からない無表情のまま王女に近付く。
騎士たちが両斜め後ろへ移動して剣の柄に手を添えたのを見て、首を切り落とすつもりなのかと勘繰りながら様子を見る。
何を話しているのか聞き取れないが怒られているのは確からしく、俺に笑いかけてくれたあの優しい王女の目が怒りで釣り上がっている。
これは面白いことになるのではと見守っていると、シューベルという男が呼び出された。
絵に描いたような魔法使いの格好をした男が駆け寄り、王女とこそこそ会話する。
アイツが魔法の実験台になるような雰囲気があり、魔法でも見られるのかと期待を募らせる。
すると、夏月が大澤と王女の元へ近寄って行った。
嫌な予感がした時には既に遅く、王女に対して抗議を始めた。
「……大澤君をどうするつもりなんですか?」
静かな、でもしっかりと聞き取れる声量の問い。
王女のみならずシューベルと大澤もビビったような反応を見せて、その滑稽なザマを見て誠司と笑う。
「ナカムラカヅキ様でしたね? あなたには関係の無いことです。皆様の元にお戻りください」
「大澤君は同じクラスメイトです。知る権利は当然ありますよね」
こええ。
てか、そんなしょうもないヤツをそこまでして庇う必要なんて無いだろうに、何をそんなに必死で止めるんだ。
呆れて笑っているとみるみるうちに王女の顔が赤くなり、二人を指差して。
「シューベル、この女も一緒に送りなさい。こんな無礼な人間、魔物に食い殺されて当然よ!」
想定外の言葉が出て来て俺は硬直した。
今、アイツなんて言った?
脳が理解すると同時、シューベルの手にある杖が光を放ち――二人の姿は綺麗さっぱり消え去ってしまった。
言葉を失っていると王女は深々とため息を吐き、残りを召使いたちに任せて奥へ引っ込んだ。
俺は慌ててシューベルの元へ駆け寄る。
「おい、夏月はどこに行った?」
「天獄の森と呼ばれてる場所です。魔王軍の部隊が展開されていますし、強力な魔物が普通に生息しているような場所ですから、生存は絶望的かと……」
「連れ戻す事できねえのか?」
「一方通行ですから、私が一緒に行っていないと無理です。仮に出来たとしても、王女様がそれを許可しないでしょうね」
まるで自分は関係無いとでも言いたげなその態度は大澤とそっくりで、今すぐ殴り倒したくなる。
しかし、そんなことをしたらあいつらと同じ末路を辿ることになりそうで、握った拳をどうすることも出来なかった。
そうこうしている間にクラスメイトたちは移動を始め、強くなったらこいつの頭を殴り潰してやると心に決めて歩き出す。
玉座の間から出た俺はダチと合流して、学校とは比にならない広さの廊下を進む。
あの魔法使いはもう死んでると遠回しに言っていたが、王女は夏月の事を俺の時と同等にべた褒めしていた。
大澤は死ぬだろうが、夏月はきっと生き残るはずだ。
その時には、俺の告白を拒否したことを謝罪させて、立場の違いを理解させてやらなきゃならないな。
☆
勇者一人一人に用意された豪華な私室。
手前側に生活用品が収納された棚などが並び、中央右側には天蓋付きのキングサイズベッド、左側にはウォークインクローゼット、最奥には城下町を一望できる大きな窓がある。
風呂は部屋一つ一つには無く、城の一階にある大浴場へ行かなければならず、しかも毎日は入れない。
「だりぃなあ……」
圏外表示になって何の使い物にもならないスマホを片手に、ソファへ腰かけて干し肉を齧る。
早いところ夏月の救出に向かいたいものだが、国の方針でレベルが三十から四十程度まで到達するまではそもそも城から出してもらえないらしい。
自由行動が許されるのは更に先の八十レベルほどで、そんなに時間が経ってしまったら夏月が死んでもおかしくない。
「なあ、どうにかなんねえの?」
「外は大変危険ですから……」
ソファの斜め後ろに立つ俺の専属執事、セバスに問いかけてみるが、濁したような答えばかりが帰って来る。
それならとっとと戦闘訓練を受けさせて欲しいものだが、今日一日はオリエンテーションと食事会しかやらないことを説明されている。
例え勇者であっても、駄々をこねるだけ時間の無駄というものである。
そんなことを考えていると扉がノックされ、セバスが代わりに応答する。
「樋口徹様、これからオリエンテーションを行うそうです。参加しますか?」
「暇だから参加してやるよ」
そう答えた俺はソファから立ち上がり、干し肉をもう一つ口に放り込みながら廊下に出る。
どうやら他のクラスメイト達も丁度声を掛けられたところだったらしく、一斉に部屋から見知った顔が出て来る。
その中にはいつメンの七人の姿もあり、そいつらと合流しながら先頭を歩くメイドの後に続く。
「俺の専属メイド、めっちゃ美人だったわ。なんかセックスも出来そうな感じあるぜ?」
「やるなあ、おい」
相変わらずヤる事しか考えていない二人に俺もつられて笑っていると、後ろで女子が励ましている声が聞こえて来る。
「大丈夫だよ、そんなに責任感じないで」
「うん……ありがと」
振り返るとクラスの委員長だった
しかし、俺の眼は香織と梓の大きく実った巨乳に釘付けとなり、歩く度に揺れるそれを見ていると揉みしだきたくなる。
いつメンの中でも随一のデカ乳好きな
「今日も良い乳してんなあ……」
「ここ異世界だしよ、襲ってもそんな問題なんねえよな?」
冗談めかして言ってみると、「それもアリだな」とガチっぽい返答が来た。
こいつに先を越される前に俺がヤっちまおうかと考えていると、先頭集団が立ち止まった。
「こちらが講堂です。定期的に様々な学問の講義が行われますので、ご興味のある方はいらして下さい」
そう言いながら両開きの扉を開いた彼女は、「どうぞお入りください」と声を掛ける。
それに従って中へ入ると、オープンキャンパスで行った大学の教室と似た、階段状に机と椅子の並ぶ空間が広がっていた。
しかし、こっちの大学のそれとは違って宝石のちりばめられた豪華なシャンデリアがいくつか吊るされ、そして広さも比にならないほどの差がある。
「すっげえな」
思わず感嘆の声を漏らしながら一番後ろの席に腰掛けていると、オタク共が俺たちを避けるようにして四つ前の席に座り、謎の会話を始める。
何かの略語や専門用語らしい言葉が混ざり過ぎて何を話しているのか分からず、気色の悪さを感じてダチの方を向く。
いつも通りの内輪ネタで盛り上がる彼らを見て安心感を覚えていると、クラスメイト全員がそれぞれ席に着き、そのタイミングで最下段の中央に設置された教壇に身なりの良い男が立った。
「勇者の皆様、お会いできて大変光栄です。私はランセル・バハレット、バッフェン王国最高位の賢者です」
自分でそれを言うのかと思いながら、ついさっきメイドが机に置いて行ったティーカップを傾ける。
普段紅茶なんて飲まないが、流石は王城とだけあって美味い。これならコーラが無くてもしばらくは大丈夫かもしれない。
そんなことを考えながらぼーっとランセルの話を聞いていると、もう飽きてしまったらしい
「……でよー、俺のスキルってしばらく置物なんだわ」
「マジかよ。災難だな」
「置物ってどういうことよ?」
二人の会話に混ざってみると、雷音が【鑑定】を使ってステータスを俺に見せて来る。
「これ、【魔獣召喚】ってスキルなんだけどよ。レベルが二十まで上がらねえと発動出来ねえんだよ。割とハズレなんだわ」
「勇者より魔王軍の方が向いてんな、それ」
笑いを取ろうといつも通り揶揄ってみると、何が癇に障ったのか大きなため息を吐きながら立ち上がり、俺から一番離れた席に座っていた
何だアイツ、ノリ悪いな。空気読んでわらっときゃ良いじゃねえか。
「――ということで、ご紹介いたします。これから皆さんの剣術の指南を行う騎士団団長クレイグ・ナックラーです」
さっきからべらべら喋っている男に目を向ければ、いつの間にやらゴツイ男が立っていた。
高校の体育教師よりずっと体格が良い上に、怒らせると面倒そうな顔を見て、アレに教わるのかと思わずため息を吐く。
一礼したクレイグは鎧に覆われた手を教壇に置きながら。
「これから諸君を鍛え上げるクレイグだ。勇者だからと甘やかすことはしない、訓練には覚悟を持って取り組んでもらう」
怠いな。最悪、抜け出しちまえば良いか。
そんなことを考えながら、ふと巨乳に視線が吸い寄せられて香織が視界に映る。
こちらの視線に気付く様子無く真美と梓の二人の方を向いた彼女は。
「私、訓練頑張ってみる」
「ホントに? 運動苦手なんじゃないの?」
「苦手だけど……追い出されちゃった二人を助けないとだし」
そう言えば、香織は夏月と接しているところを度々見かけた。
そこまで仲が良いわけでは無さそうだが、友達である彼女を助け出したいのだろう。
……夏月を助けに行く口実で香織を口説けば、ハーレムが築けるか?
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