第13話 拠点
作業台でポンプアクションのショットガンとピストル、そして鉄製の鎧などのクラフトを設定した俺は、布団でふかふかな生物に囲まれてお茶を口にする夏月を振り返る。
俺が畳みかけたせいで精神的に負荷があったようで、元々あった疲れも相まって体調を崩させてしまったようだ。
申し訳ないことをしてしまった反面、言いたいことを全て言えた達成感の板挟みに合いながら、彼女に声を掛ける。
「じゃあ、家建てて来るからゆっくり休んでて」
「うん……ごめんね」
「疲れてたんだから仕方ないよ。それに俺だって迷惑かける事だってあるんだからお互い様だろ?」
「大好き」
「お、おう。俺も大好き」
にっこりと笑いながら唐突にそんなことを言われ、その破壊力にたじろいでしまう。
恥ずかしさから顔を逸らした俺は駆け足で階段を上がり、頭上で爛々と輝く日の光が降り注ぐ地上へと出た。
軽く周囲を見回してみても特に生物が近くにいる雰囲気は無く、ちゃちゃっと作ってしまおうと、地下室の扉を囲むようにして木材ブロックの設置を始める。
広さは縦と横十メートル、構造はごく一般的な四角形の建物――いわゆる豆腐建築である――にする予定だ。
ゲームの知識を生かしてオシャレな建築物の建設も考えたが、機能性が犠牲になりかねないため、拡張性の高い豆腐型に決めた。
とはいえ、余裕が出来たら夏月に俺の建築力を見せつけて、メロメロにさせてやるつもりだが。
「ん?」
視線を感じてブロックを置く手を止めた俺は、周囲をキョロキョロと見回す。
すると、茂みの奥にいる何かと目が合い、俺はドキッとしながら剣を手に持ち、威嚇程度にブンブンと振り回して見せる。
「ギャギャッ!」
カエルを潰したら出そうな気色の悪い鳴き声と共に現れたのは二体のホブゴブリンで、その手には棍棒が握られている。
あれでも体格の大きなオークと同程度のステータスを持つ生物、言い換えれば豚野郎の上位互換だ。
そんな敵と数的不利を背負った状態で相手をせねばならないとなると、少し厳しいかもしれない。
逃げ腰になると同時、夏月の顔が脳裏に浮かび上がった。
この程度の敵も倒せない男があんな美女と釣り合うのか?
応えは否。緑色の猿如きに逃げ腰になっているのでは、あの子と一生を誓う資格なんてない。
「なめんじゃねえぞ! ぶち殺してやる!」
「ぎゃっ?!」
積み上げた木材ブロックから飛び降りた俺は、鉄剣を構え直しながらゴブリン共へ向かって駆け出す。
ギャーギャーと威嚇を始めた二匹に構うことなく間合いを詰め、左側の個体を剣で殴り付けた。
「ギィヤァッ?!」
棍棒でガードされて肉体にダメージを与える事は叶わなかったが、武器を打ち砕く事には成功した。
脳天をかち割ろうと剣を持ち上げるが、横からもう一匹が殴りかかって来ている事に気付き、腕でその一撃を受け止める。
「いってえんだよ!」
「ぐぎゅっ」
腕に走った激痛を堪えながら腹に蹴りを入れ、あっさりと吹っ飛んだそいつから目を離し、武器を失って逃げ腰になったゴブリンの脳天を粉砕した。
鉄の剣は棍棒の上位互換。敵を切り裂くというような使い方ではなく、敵をぶん殴るのが正しい使い方だ。
頭がVの字に変形して倒れ込んだゴブリンを横目に、俺の腕を殴ってくれた猿も殺そうと、さっきまで寝転んでいた場所に目を向ければ、全力で逃走を開始している後ろ姿が目に留まった。
追いかければ殺すことは出来そうであるが、奴の仲間が居る場所に連れ込まれてしまったらタコ殴りにされて殺されるに違いない。
「いってえ……」
ゴブリンによる一撃を喰らってしまった腕が遅れてズキズキと痛む。
中学生程度の体格をしていたから一撃くらい受けても大丈夫だろうと思っていたが、想像以上の手痛い一撃を受けてしまった。
骨折ほど痛くは無いが、痣となってしまうに違いない。夏月に余計な心配は掛けたくないが、やられてしまったものは仕方ないか。
深々とため息を吐いた俺は死体を解体して回収し、建築作業に戻った。
約一時間かけて木製の建築物が完成した。
一応、建物の角などは石ブロックで補強するなどしているが、魔王軍の基地を襲撃したような魔物が来てしまったら容易に破壊されてしまうだろう。
明日、鉄などの金属を収集して、拠点の外壁を装甲板で補強しよう。
と、地下室へのハッチが内側から開けられた。
「もう出来たの?」
「すごいやろ?」
「癪だから認めない」
「生意気め」
体調は回復したようで顔色がさっきよりも良くなり、いつも通りの落ち着きがある笑みを浮かべている。
と、何かに気付いた様子で俺の腕を指差して。
「転んだ?」
「え?」
その言葉で腕を見ればゴブリンに殴られた箇所が汚れてしまっていて、確かに転んだようにも見えるだろう。
「ブロック並べてる時に脚滑らせたな。まあ、そういうこともある」
真実を伝えて余計な心配をさせるよりは揶揄われるだけの方が良いやと、俺はそう言っておどけて見せた。
「ドジっ子なんだから。怪我は?」
「ヘーキヘーキ」
作業している間に痛みは無くなっていたし、本当に転んだのと変わらないかもしれない。
と、夏月は手のひらサイズのブロックを手に取り、部屋の中央にそれを設置した。
「なんそれ?」
「魔物が近付くと知らせてくれるセンサー。でも、魔石が無い生き物には反応しないって書かれてたから、人間と動物は知らせてくれないみたい」
「そういや、あの魔石って何なんだ? さっきホブゴブリン解体した時も出て来たけど、何で生き物の体の中に石があんの?」
「えーとね、このまえ【鑑定】で調べたんだよね」
そう言いながら魔石をインベントリから取り出した彼女は、それに向けて【鑑定】を発動させた。
見慣れたパネルが彼女の顔の前に現れ、横からそれを覗き込む。
「簡単に言えば第二の心臓みたいな役割をしてるみたい。魔素っていう酸素と似たような感じの物をちょっとずつ吸収して溜め込むんだって。それをエネルギーとして生命活動に使うって感じ」
パネルに書かれていることを要約して教えてくれた彼女に礼を言いながら、ゴブリンに殴り付けられた時の激痛を思い出す。
あの体格からは考えられないような一撃を喰らったのは魔石がの働きによるものだったのだろうと察する。
ふと疑問が湧き上がった俺は彼女に尋ねる。
「じゃあさ、俺ら人間にも魔石ってあるんじゃねえの? よく分からんけど、魔力って項目あったし、魔素とかいうの吸い込んでんだろ?」
「人間はまた別みたい。空気と一緒に魔素を吸い込んだら、酸素みたく血中を流れるようになってるっぽい。人に魔石が無いから魔素をエネルギーに変換することは出来ないけど、魔法として大きなエネルギーを使えるようになる……って感じかな?」
「はへー」
夏月も詳しいところは分かっていないらしい。俺はその更に先を行くほど分かっていない。
こうなったら魔族をひっ捕らえて魔石と魔素に関してみっちり解説させるのも一つの手かもしれない。
と、話し込んでいる間に当たりは大分暗くなってしまったことに気付き、俺は玄関扉を閉めて夏月と共に地下へ戻った。
毛むくじゃら二匹のじゃれ合っている姿が見えて癒されていると、いつの間にやら台所が作られていた。
某サンドボックスゲームを彷彿とさせるその見た目から、やはり彼女もゲーマーなのだなと実感させられる。
「体調悪いのに作ってくれたのか?」
「隼人にばかり仕事させるわけにいかないもん。それにゲーマーとしてのプライドもあるしねー」
そう言ってニッコリ笑った彼女はシンクに溜まった洗い物に手を付け始める。
手伝おうかとも思ったが手慣れた手つきで次々に汚れを落としているのを見て、俺は俺に出来る事をすることに決め、武器を作らせていた作業台に近付く。
すると、既に二つのショットガンとピストル二つがそれぞれ完成していた。
ショットガンを手に取った俺は弾を作り忘れたことに気付きながら構えてみると、アイアンサイトすら装備されていないことに気付き、あまりの狙いにくさで苦笑する。
と、洗い物を終えた夏月が興味津々な眼差しを向けて近寄って来た。
「それ、レミントンかな」
「よくレミントンなんて知ってるな?」
「ゲームでよく使ってたもん」
「流石だな」
一撃一撃が重たくてちょっと照準がズレると一撃で敵を倒せない事もあるような武器を使ってたということは、もしかしたらこの子はかなりの猛者だったのかもしれない。
日本で生活しているうちに仲良くなりたかったという後悔の念が湧き上がる中、弾薬の製造も始めようと弾のクラフトに必要な素材を見る。
「げっ」
弾薬の大量製造に必要な素材のいくつかは、また別のクラフティングテーブルを作成しなければならない事に今更気付き、思わず変な声が出た。
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