第6話 ワークベンチ
集め終わった鉱石類の精錬をしながら、今の段階で作れる鉄製ツールや武器などを揃えた。
棍棒、剣、金槌、レンチ、ナイフ、斧、スコップ、鋸など、大方必要なものは揃ったと言えるだろう。
「ねね、これ使えると思う?」
魔法を使った道具を作るための作業台『マジックテーブル』で何か作業をしていた夏月が、手招きしながらそんなことを尋ねて来る。
彼女の元へ近付き、オシャレな見た目をしたそれの上部に浮き上がっているパネルを見れば、鉱石探知機なる文字があった。
アイコンの方には六角形のよく分からない見た目をしたものが描かれていて、使い方が分からないながらも、これは便利かもしれないと期待を膨らませながら頷いて見せる。
「これからも地下資源はたくさん必要だからめちゃめちゃ使えると思う。必要素材足りてる?」
「んーと、金ってどのくらいある?」
「二十個くらい」
「あ、じゃあ足りてる」
表情をぱあっと明るくした彼女に、さっき精錬が完了したばかりのそれを渡す。
二度目の採掘によって金や鉛、錫などの鉱石も見つけていた。
金で作れるアイテムはほとんど無く、利用価値は人間の街へ行けるようになるまで無いかと思っていたが、この様子だと魔法関連のアイテムの制作にたくさん必要となるのかもしれない。
これから夏月が作ってくれるアイテムにワクワクしつつ、負けてられない気持ちが湧き上がって、何か作れるものが無いか調べてみる事にした。
すると、制作コストが高すぎると思っていた作業台がもう作れてしまうことが分かり、早速作ってみることにした。
鉄が二十五個、レンチ、金槌、鋸が一つずつ、そして木材が百個ほどと、何も知らない状態で見ればそこそこ多いように感じたが、採掘さえしてしまえば容易に作れてしまうレベルだったらしい。
十分ほどで完成したそれを夏月の使っている作業台から一メートルほど離した場所に設置すると、彼女は早速興味を持った様子で尋ねて来る。
「それ、さっき言ってた作業台? 必要な素材が多すぎて作るの難しいって言って無かったっけ?」
「そう思ってたんだけどさ、鉄が取れれば案外余裕で作れたわ」
「しっかりしてよ」
笑いながら言った俺に夏月もどこか楽しげに言う。
可愛い女の子と談笑しているだけで幸せな気持ちになり、追い出されることになって良かったとすら思ってしまいながら、作業台で作れるアイテムの確認を始める。
すると、剣と魔法のファンタジーな世界には似つかわしくない科学的なアイテムの数々が並び、その大半が銃火器などの兵器で埋まっている。
「殺伐としてんなあ」
思わず呟いてしまいながら画面をスクロールしていると、鉛蓄電池の文字が目に留まった。
必要なアイテムを見てみれば、鉛、硫酸、銅線だけで作れるらしく、俺は今すぐ作れるのではないかと思い立ち、チェストへ駆け寄って鉱物を取り出す。
確か、硫酸は硫黄と硝石で作れて、銅線は銅だけで作れたはずだ。
「おっし」
チェストの中から取り出した硫黄、硝石、鉛、銅を持って作業台に戻り、初めに硫酸と銅線を作成し、それらを素材にして鉛蓄電池のクラフトを開始する。
十五分掛かるようであったため、のんびりと完成を待っていると、横で何かの作業をしていた夏月が上機嫌な様子で、六角形の鏡のようなものを手に持ち、足元を凝視し始めた。
「それ、鉱石のやつ?」
「ほらほら、来て」
手招きされるがままに近付き、彼女の隣から金で出来た枠の中にある鏡のようなそれを覗き込む。
「へえ、すげえ」
そこには赤い点がいくつか表示されていて、その隣には何メートルの地点に鉱石があるのかが分かる状態になっている。
流石に何の鉱石が埋まっているのかまでは分からないようだが、それでもここまで分かるのなら十分だろう。
「流石に今日は疲れたから採掘はしないけど、明日に使わせてもらうな」
「うん、使って使って。それとさ、これ作りたいなって思ってるんだよね」
思っていたよりも積極的な素振りを見ていると、彼女ももっと貢献したいと思っているのかもしれない。
目をキラキラと輝かせている夏月の愛らしさで自然と笑みを浮かべながら会話をしていると、作業台の方で音がした。
目を向ければどうやら鉛蓄電池が出来上がったらしく、楽しい時間というのはあっという間に過ぎ去ってしまうのだと実感させられる。
「何作ってたの?」
「鉛蓄電池。使い方とかはまだよく分かって無いけど、取り合えず色々作れるようになるんじゃないかと思ってさ」
「もしかして、スマホの充電も出来るの?」
「持って来れたの?」
「……あっ」
思っていたよりもおバカだったらしい。
「ま、まあ、そのうちスマホも作れるかもしれないしな、うん」
「おねがいします……」
ちょっぴり恥ずかしそうに言った彼女は、俺から顔を隠すようにそっぽを向き、インベントリからお湯を取り出して傾ける、
ただ水分補給をしているだけなのに色気があり、いけないことを考えてしまいそうになる自分をとにかく落ち着かせようと、鉛蓄電池を拠点の中に設置した。
車用バッテリーと似た見た目をしたそれはまだ使い方が分からないため使うことは出来ないが、ゆくゆくはこれでもっと便利な生活を送れるようになるはずだ。
「よおし、ずっと地下籠ってるのもアレだし、ちょっと外歩こうか」
「気が滅入っちゃうもんね」
さっきのは無かったことにでもしたかのようにいつも通り振舞う彼女は、体を伸ばしながら拠点の出入り口に近付く。
昨日も今日も沢山汗を掻いたし、出来る事なら川で水浴びでもしたいものだが、何が潜んでいるか分からないあんな場所ではそんな悠長なことは出来なさそうだ。
電気はあるのだし、ポンプなんかを作って水道設備を整えるのもアリかもしれない。それが出来れば、夏月も喜んでくれるはずだ。
「まぶしっ」
俺には夏月の方が眩しい。
もしもそんなことを言ったらどんな反応をされるのだろうかと少し興味を持ちながら、彼女に続いて階段を上がって拠点を出る。
昨日に木々をいくつか伐採した事もあって日の光が直接差し込んでいて、反射的に手で目元を覆いながら周囲を警戒する。
魔物が待ち伏せしているのではないかと不安だったが、案外そんなことはして来ないらしい。
ホッとしながら先を歩いて行く夏月の後を追いかけていると、急にこちらを振り返って。
「ちょっと川に行かない?」
「水浴び?」
「うん、ちょっと汗流したいなって。そろそろ臭っちゃいそうだし……」
全然構わないと、本音が飛び出そうになるがギリギリのところで堪えた。
マップを出して川の方角を確認し、彼女の要望に応えるためそちらへ向かうことにした。
もしもまた襲われそうになってもきっと大丈夫だ。採掘をし続けていたおかげなのか、攻撃力がぐんと上がっていたし、レベルだって十まで上がっている。
レベル二でオークに勝てたのなら、川の中から近寄って来たあの化け物だってどうにも出来るはずだ。
上機嫌なお姫様の喜ぶ姿を見るため、半ば自分に言い聞かせて進んでいると、薄っすらとオークらしき影が見えた。
そういえば、上位の武器や家具、装備に革がそこそこ必要だったはずだ。
「オークを狩って行こう」
「分かった。これの実験、してもいい?」
「なんそれ?」
イタズラな笑みを浮かべながら手にしたのは、銃のような見た目をしている。
ふんだんに金が使われているそれはゲームで偶に見かける趣味の悪いスキンを装備した銃のような見た目をしていて、あまり彼女に持っていて欲しくないと思ってしまう。
「なんか、魔道銃って言って、魔力を弾にして撃つことが出来るんだって。私、力が無いからこれで援護出来るんじゃないかなって思って」
「実戦で使う前にアレを的にしてやってみようか」
俺が指差した先には良いくらいに大きい木が立っていて、頷いて見せた夏月は銃をそれへ向ける。
銃のことはやはりあまり知らないようで、構え方がどこか可愛らしく、後で色々教えてあげようと思っていると、目の前でエネルギーが動いているのを感じ取った。
「てりゃ!」
間の抜けた掛け声と共に、半透明な何かが勢いよく射出され、的になった木――ではなく、その後ろに生えていた低木に命中した。
一瞬にしてバラバラになったそれを見て威力はそれなりにあることが分かり、武器自体に関しては信頼出来る。
しかし、十メートルほどの距離で外されるのでは、誤射されて俺の腹に穴が開きかねない。銃の持ち方から教えてあげねばなるまい。
「夏月さん、銃の持ち方教えてあげるから、練習しようか」
「……うん」
この距離で外したのは悔しかったらしく、しょんぼりとした様子で頷いた。
ゲームとネットに転がっていた動画で学んだ知識を生かすべく、夏月から銃を受け取って持ち方を教える。
「拳銃は右手の手のひらをここに当てる感じで持って、ピンと伸ばす。左手はポケットにでも入れといて」
「両手で持たないの?」
「そっちのやり方もあるけど、今はこっちで」
魔道銃を渡してみると彼女は俺の真似をするように、全く同じポーズを取った。
スタイルの良さによって中々様になり、雑誌に載っていても何ら違和感が無いほどの美しさがある。
「片目で見るんじゃなくて両目で見るようにね」
「ぼやけちゃうよ?」
「ちょっとずつ顔を斜めに向けて行ってみて。ぴったり合うところがあるから」
不思議そうな顔をしながらも少しずつ顔を斜めに向けて言った彼女は、驚いた声を上げる。
「ホントだ!」
「じゃ、それでもう一回撃ってみようか」
夏月は緊張した面持ちで魔力を充填し、木の幹目掛けて引き金を引く。
飛び出して行った半透明の弾丸は見事に幹を撃ち砕き、貫通こそしなかったものの大きな凹みが出来上がった。
その中途半端な威力で仕留めきれるのかと疑問を覚えていると、オークがこちらに駆け出していることに気付いた。
音でバレたと察しながら俺は棍棒を取り出し、夏月を振り返って。
「俺が前を貼るから、夏月は後ろから撃ちまくって。俺には当てないでな?」
「うん、頑張る!」
動作の一つ一つが可愛らしい彼女にカッコイイところを見せようと、オークの顔を睨み付けながら駆け出した。
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