第5話 やっぱり葵くんの歌声はとても良いね!
母さんが社長との手続きを終え、俺は本格的に女装してアイドル活動を始めることとなる。
俺は氷室さんの別荘に泊まるための荷物を準備し、母さんの車に乗り込む。
「春奈さん、運転ありがとうございます」
「いいのよ。葵を送るついでだから」
俺の隣には大荷物を持った彩音がいる。
俺たちは彩音のナビに従い、母さんの運転で氷室さんの別荘に向かう。
そして車の中では…
「頼む、母さん!男とバレずに共同生活を送るための案を捻り出してくれ!」
俺が他力本願していた。
「そうね……個室を確保すればなんとかなると思うわ。だって、バレる危険性があるのは着替えとお風呂、それと寝てる時くらいでしょ」
「確かに!個室さえあれば、ほとんどが解決するぞ!」
「そうね。あとはお風呂次第ね」
「脱衣所で着替える時にバレる可能性はあるからな」
「えぇ。あとは女の子同士のスキンシップと言って、一緒にお風呂に入ることがなければね」
「いや、そんなこと……ないとは言い切れないぞ」
一般的な家庭の風呂は入れて大人2人。
スキンシップと言って乱入される可能性はある。
「まぁ、別荘といっても所有してるだけで使ってない一軒家だと思うから湯船は小さいと思うの。だから、狭いことを理由にすれば、乱入されることはないと思うわ」
「だよな。氷室さんがどれだけ金持ちかは知らないが、大人が何人も入れる湯船なんて早々持ってないよな」
ということで、話し合いの結果、個室を確保すればなんとかなるということになった。
(あれ?じゃあ、個室さえ確保すればなんとかなるんじゃないか?)
俺は男とバレずに生活できる自信が湧いた。
そして、氷室さんの別荘に到着する。
別荘を見た俺たちは…
「おい。誰だよ、所有してるだけで使ってない一軒家って言ったの」
「私ね」
母さんがあっさりと認める。
「これのどこが一軒家なんだよ!」
「あはは……」
俺の叫び声に彩音が苦笑いする。
現在、俺たちの目の前には大豪邸がある。
庭師を雇っていると思われる、手入れの行き届いた広い庭と、大きな噴水。
そして、何部屋もあるであろう大きな家。
俺たちが驚きのあまり言葉を失っていると…
「長旅ご苦労様です!水野さんと佐倉さんも到着してますよ!」
氷室さんが出迎えてくれる。
「じゃあ、私は家に帰るわ。お茶でも飲みながら健闘を祈っとくから」
そう言って母さんは車に乗り込む。
(もっと真剣に健闘を祈ってほしいんだが…)
そんなことを思いつつ、氷室さんの後ろを歩き、別荘の中へ入る。
入ってすぐ目についたのは、どデカいシャンデリアと高価そうな壺や絵画。
そして…
「おかえりなさいませ、立花様、草野様」
1人のメイドがいた。
「私、この家の管理を任されました『東雲宏美』と申します。本日より、皆様のサポートを務めさせていただきます」
東雲さんは綺麗なお辞儀をする。
赤みがかった茶髪をショートカットにしており、メイド服の上からでもわかるくらい胸が大きい。
年齢も俺たちと同い年くらいのようだ。
俺と彩音も東雲さんに倣ってお辞儀をする。
「では、私は皆さまの泊まる部屋を準備しております。何かあればすぐお呼びください」
そう言って東雲さんは移動する。
「宏美と私は同い年で、小さい頃から一緒に生活してます。今回、みんなでここに住むことが決まった時、宏美がお手伝いするって言ってくれました。予定では、練習しながらみんなで家事をする予定でしたので、宏美が志願してくれて助かってます」
氷室さんが説明しつつ、俺たちをリビングへ誘導する。
リビングに到着すると、水野さんと佐倉さんがいた。
「おっ!引っ越しの準備は整ったんだな!」
「あぁ。あとは荷物を整理するだけだ」
「よし!ならさっそく、SNSで立花さんのことを紹介しようと思う!」
そう言って、佐倉さんはスマホを取り出す。
「立花さんの写真と文章での紹介だけだと味気ないから、動画と一緒に紹介しようと思う。何か得意なことはあるか?」
「そうだな……やっぱり歌だな」
俺が自慢できることは歌しかない。
「よし!じゃあ、何か歌ってるところを動画に撮ってアップしよう!」
ということになり、俺が『エンジェルスター』のデビュー曲を歌い、その動画と一緒に俺がメンバーに加わったことを知らせる。
(母さんから、歌に関しては本気で歌えって言われたからな)
水野さんが曲の準備をして、イントロを流す。
彩音のデビュー曲ということもあり、歌詞もバッチリ覚えている俺は、全力でデビュー曲を歌い切る。
すると…
「「「…………」」」
なぜか3人がポカンとしている。
「やっぱり葵くんの歌声はとても良いね!」
そして俺の歌を何度も聴いている彩音から褒められる。
その後も止まることのない彩音からの賞賛に耳を傾けてていたため…
「可愛くて歌が上手い……立花さんって何者なんだろ?」
「ですよね……ウチもそう思いました」
「もしかしてアタシら、とんでもない美少女をスカウトしたんじゃないのか?」
3人の発言は俺の耳に届かなかった。
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