第3話 俺は美少女4人と共同生活をすることとなった

「立花さん。『エンジェルスター』のメンバーに加わらないか?」


 突然、社長からアイドルにならないかとスカウトされる。


「立花さんは歌唱力もあり、身体も鍛えているのが分かる。そして美少女。これほどアイドルに適した人はいないと思う」


「いやいや!俺なんかがアイドルをしても……」


 俺は男なので、この話に飛びつくわけにはいかない。そのため、社長のスカウトを断ろうとするが…


「ウチは大賛成です!」


 水野さんが社長の言葉に同意する。


「ウチ、この4人でも有名になれると思ってます。でも、立花センパイがいたら、もっと有名になれると思うんです!」


「そうだな。アタシも立花さんが加わってくれるなら心強い」


「ふふっ、私も賛成ですね」


 そして、水野さんの言葉に佐倉さんと氷室さんまで同意する。


(あれ?断れない空気になってね?)


 俺は最後の望みである彩音を見る。


(頼む!なんとか断る方向にしてくれ!)


 すると、俺の視線に気づいた彩音が…


「そ、そんな熱い視線で見られると恥ずかしいといいますか……」


 なぜか照れ始める。


(なんでそうなるんだよ!)


 俺の意図が全く伝わらない幼馴染。


「今はまだ実績もなく固定ファンも全然いないが、本格的に始動し始めたばかりだ。すぐに人気に火がつくと思う。どうだろうか?」


 社長が改めてお願いしてくる。


(ここは正直に男って伝えた方がいいような気がする)


 俺はそう決意して…


「あの!実は俺…」


「ちょっと待って!」


 俺の言葉を彩音が遮る。


「私も、今の私たちだけじゃ絶対に有名になれないと思うの。でも、葵くんがメンバーに入ってくれたら、絶対に有名になれる。そんな気がするの。私ができる限りサポートするから、お願い!葵くんの力を貸して!」


 彩音が真剣な表情でお願いしてくる。


 彩音は俺が男という事実を知りつつも、そんなお願いをしてきた。


 つまり、どれだけ危険なことをお願いしているか、全て理解した上でお願いしているということ。


(彩音にここまで言われたら断れないよな。彩音が自分の夢を叶えるために俺が必要と言ってくれたから)


 彩音の夢は国民的アイドルになること。


 俺はそれを小さい頃から聞いており、その夢を応援すると決めていた。


 それと同時に、彩音の力になりたいと常々思っていた。


(彩音が俺を必要としてくれる。それだけで女装してアイドルをする理由になるよな。できることなら別の形で力になりたかったが…)


 そう思いつつ…


「わかった。俺が加わることで有名になれるかはわからないが、みんなの期待に応えれるよう頑張ってみるよ」


 俺の発言に社長を含め、メンバーみんなが喜ぶ。


(まさか女装してアイドルをすることになるとは……まぁ、俺が男とバレる様子はなさそうだし大丈夫か)


 全く嬉しくないが。


 そんなことを思ってる俺を他所に…


「すぐにやらなくちゃいけないことがたくさんありますね!」


「だな!まずは新メンバーの発表と…」


 等々、水野さんと佐倉さんが盛り上がる。


(女装することに抵抗はあるが……彩音の活躍を特等席で見れると思って我慢するか。とりあえず、男ってバレないことに全力を尽くそう)


 そんなことを思った。




 その後は俺が教えるはずだった時間を全て、俺が『エンジェルスター』に加わるための準備時間となった。


「両親の了承がいるのでは?」と社長から聞かれたが、俺の両親がダメと言う未来はあり得ないため、問題ないことを伝える。


 それを聞いた社長は俺が『エンジェルスター』に加わるための手続きを、他のメンバーは俺がメンバーに加わったことをSNSでどのように報告するか、話し合っている。


「へぇー『エンジェルスター』のSNSがあるんだ」


「そうだよ。まぁ、結成当初は練習に当ててたから、ライブも1回しかしてなくてフォロワーは少ないけどね」


 現在のフォロワー数は10人。


「前回、初ライブの時は、いろんなアーティストが出演してたから埋もれてしまって、あまりフォロワーに繋がらなかったんだ」


 彩音が肩を落とす。


(つまりフォロワー10人からスタートってことか)


 俺は『エンジェルスター』の現在の知名度を知る。


 しかし、これくらいで落ち込む必要はないので…


「落ち込む必要はないぞ、彩音」


 俺の言葉に彩音が顔を上げる。


「ここから国民的アイドルになるのは至難の業だが、どんな国民的アイドルもこの道を通ってきた。だから、気を落とす必要はない」


 俺は彩音を鼓舞するように言う。


「う、うんっ!そうだよね!」


 彩音に元気が戻ってくる。


 元気の戻った彩音は、俺のメンバー加入をどのように報告するか、四苦八苦している3人の元へ向かう。


 俺は改めて女装してアイドル活動をする事実を再認識して、どのように行動するか、方針を考える。


(女装した俺が注目されるわけにはいかないが、彩音が国民的アイドルになる過程で、俺も必然的に目立ってしまう可能性はある。つまり、俺は目立つことなく、彩音を国民的アイドルにする必要があるってことだが……むずくね?)


 なかなかの難易度の高さで驚く。


(まぁ、俺は女じゃないから、女の魅力とかは一欠片もない。だから頑張っても注目されることもないだろう)


 よって、俺はできるだけ目立たず、一所懸命アイドル業を頑張ることにする。


 俺が方針を固めていると…


「あっ!そうでした!」


 氷室さんが声を上げる。


「私、お父様にお願いして、別荘を譲り受けたので、皆さんで一緒に住みませんか!?そこにはダンスや歌の練習ができる部屋もあります!立花さんと親睦を深める必要もありますし!」


 まるで名案かのように笑顔で氷室さんが提案する。


 その提案に…


「おー!さすが氷室さん!名案ですね!」


「アタシも賛成だ!アタシたちはグループだから一緒に住んで仲を深めるべきだと思うぞ!」


 水野さんと佐倉さんが盛り上がる。


 一方、俺と彩音は…


「おい、どうすんだよ。俺、共同生活とか無理だぞ?」


「うん。これはマズイね」


 男の俺が女の子4人と共同生活とか無理なので断りたいが、別荘の中に練習できる部屋があるという好条件。


 そのため…


「これ、断ると俺の評価はどうなると思う?」


「そうだね。新人のくせに輪を乱しやがってと思われるね」


「ですよね…」


 結局、俺たちも賛同することとなり、彩音の協力のもと、俺は美少女4人と共同生活をすることとなった。

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