第2話 俺っ娘!俺っ娘ですよ!

「よし、ちょうどメンバーも揃ったことだから、さっそくレッスンを始めようか」


 社長がトーテムポールのように積まれているメンバーと彩音に声をかけて、レッスンを行う場所に誘導する。


 俺は彩音の後ろをついて歩く。


「なぁ、あの3人が彩音と同じグループのメンバーだろ?」


「うん。レッスン場に着いたら紹介するよ」


 そんな話をしながらレッスン場にたどり着く。


 部屋に入ると、一面鏡で覆われており、歌の練習を行うことのできる機材もあった。


「さて、みんなには昨日伝えたが、今日は彩音の幼馴染である立花さんから歌の指導をしてもらう。まずは自己紹介からだ」


 社長が促すと…


「はいはーい!ウチは『水野咲みずのさき』。高校一年生です!元気だけが取り柄です!よろしくお願いします!」


 水野咲。水色の髪をショートカットにしており、笑顔の可愛らしい美少女。胸は乏しいようだが、この笑顔を見るだけで癒されてしまう。


「アタシは『佐倉さくらカレン』。高校2年生だ。よろしくな」


 佐倉カレン。茶髪の髪をツインテールにしている。目が若干つり目となっており、活発系な美少女。胸はそこそこあるようだ。


「最後は私ですね。私は『氷室冬華ひむろふゆか』です。高校3年生で、この中では1番年長になります。よろしくお願いしますね」


 氷室冬華。黒髪を腰まで伸ばしており、垂れ目でおっとり系の美少女。どこかのお嬢様のようで、年下だろうが全員に敬語を使うらしい。2つの巨大爆弾を持っており、もしかしたら彩音よりも大きいかもしれない。


(ふぅ、俺より背の高い女の子はいないようだ)


 氷室さんとは同じくらいの背丈だが、水野さんと佐倉さんは俺よりも背が小さい。


 そのことに安堵しつつ…


「俺は立花葵だ。彩音とは小さい頃からの付き合いになる。上手く教えることができるかはわからないが、今日一日よろしくな」


 俺も3人に向けて自己紹介をすると…


「俺?」


 水野さんが一人称に反応する。


(ヤベっ!今、女装してるんだった!今すぐ訂正を…)


 と、思い、すぐさま訂正しようとするが…


「俺っ!俺っですよ!女の子で自分のことを俺って言う人、初めて見ました!」


 水野さんがキラキラした目でテンションを上げる。


「そうですね。私も見たことありませんね」


「しかも、ものすごい美少女です!ウチらに引けを取りませんよ!」


「この容姿で歌が上手いって、実はもうすでにアイドルなんじゃないか?身体も所々引き締まってるし」


 等々、3人が話し始める。


(ふぅ、男と疑問に思われることはなかったようだが……疑問に思われないのは、男としてアウトな気がする。女装してる俺が完璧な女の子に見えるってことだろ)


 俺は複雑は気持ちとなる。


 とりあえずバレなかったことに安堵しつつ…


「あー、一人称は気にしないでくれ」


 ここで変えるのも変かと思い、一人称は俺のままでいく。


 こほんっ!と咳払いをして…


「じゃあ、まずは1度、歌ってるところを見せてくれ」


 俺のお願いを聞き、みんなが準備に取り掛かる。


 準備が完了し、『エンジェルスター』のデビュー曲が流れ出す。


 俺は彩音を含め、4人が踊りながら歌っているところを注意深く観察する。


(なるほど。1番上手いのは氷室さんか。次に彩音で佐倉さんと水野さんは良くもなく悪くもないって感じか)


 俺は4人の歌やダンスを注意深く観察し、そのような感想を抱く。


 4人のパフォーマンスが終わり…


「どうでしょうか?」


 氷室さんが聞いてくる。


「そうですね。ダンスのことに関しては一切分かりませんが、まずは氷室さん。歌声はとても良かったです」


「あ、ありがとうございます!」


「でも、体力がないですね。後半からは疲れが見え始めて、前半のような素晴らしい歌を届けられていません」


「うっ!」


「スタミナ不足も関係していると思いますが、腹筋等の声を出すための筋肉も弱いと思います。腹筋は何回できるんですか?」


「……ません」


「はい?」


「できません!」


「………なるほど。ありがとうございます」


(うん、これは触れない方が良さそうだな)


 俺はこれ以上の追求をやめる。


「次に、佐倉さんと水野さん」


「お、おう。なんでも言ってくれ」


「は、はい。ウチの悪いところ全て言ってください」


 何故か2人からビビられる。


「2人とも全身に力が入りすぎてるよ。踊りながらってところが関係してるかもしれないけど、歌う時はリラックスしなきゃ」


「た、たしかにガチガチになってるかも……」


「ウチ、マイクを力強く握りしめてますからね」


「あとは、喉を意識することかな。聴いた限りだと喉から声が出てるね。喉の奥を開けて、喉からではなくお腹から声を出さないと」


「な、なるほど」


「お腹から声を出すと言われても、難しいです……」


「確かに難しいね。でも、彩音は今言ったことに注意して歌うようになってから上達したよ」


「へぇー!最近、彩音の歌が上手になった理由はこれだったのか!アタシも頑張らないと!」


「ですね!ウチも負けていられませんから!」


 佐倉さんと水野さんが燃えている。


 俺は2人に腹式呼吸や効率のいい特訓法を教え、彩音の方を向く。


「最後に彩音」


「ど、どうだったかな?」


「うん。俺が言ったことを意識してはいるが、まだまだ完璧じゃないね。振り付けが入ると難しい感じだな」


「うぅ〜」


 どうやら図星のようだ。


「練習あるのみ」


「ですよね……」


 彩音が肩を落とす。


 俺が一通りアドバイスを行うと、三浦社長がパチパチと拍手をする。


「いや、想像以上だ。私は歌に詳しいわけじゃないから、アドバイスできなかったんだ。正直、助かったよ」


 社長の言葉に水野さんたちが頷く。


「あ、ありがとうございます」


(ストレートに褒められると照れるな…)


「立花さんの歌唱力は独学なのか?」


「いえ、歌の上手い両親から教えてもらいました」


「そうか……よし!合格だ」


 社長が突然声を上げて合格を出してくれる。


(何に合格したんだ?)


 俺が疑問に思っていると…


「立花さん。『エンジェルスター』のメンバーに加わらないか?」


 なぜか社長からスカウトされました。

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