女装した俺が国民的アイドルになった件〜なぜ俺は女装して美少女4人と共同生活をしてるんだ?〜

昼寝部

第1話 なぜ俺は彩音の服を着て、女性用のカツラをかぶってるんだ?

 現在、高校2年生の俺は、自分のことが好きかと聞かれれば、悩んでしまう。


 その理由は中性的な顔立ちと、変声期を迎え、若干声が低くなったものの、女性の声と思われても仕方ない地声。それに、日本人男性の平均身長よりも低い165cmという身長。


 この3点によって、俺は学校で男装した美少女扱いとなっている。


 学校に行けば「今日も可愛いよ!」等々、クラスメイトから揶揄われる。


 俺、『立花葵たちばなあおい』はそんな地獄のような時間を乗り切り、現在、同じクラスで小さい頃からの幼馴染である『草野彩音くさのあやね』と一緒に下校している。


「はぁ、今日も疲れた」


「あはは…クラスのみんなから揶揄われるね」


 彩音が苦笑いをしながら同情してくれる。


 草野彩音。ピンク色の髪をサイドで結び、髪色と同じ、クリっとした大きなピンク色の目が特徴的。胸がとても大きく、校内でも人気の美少女。


 男性の中では小さい方の俺だが、彩音の身長は160cmなので若干俺の方が上。


 彩音の良いところは、クラスメイトから「可愛い」と言われ揶揄われる俺のことを、「カッコいい」と褒めてくれるところだ。


 慰めてるだけだろうと思っているが…。


 そんな彩音は『エンジェルスター』という4人組アイドルグループに所属している。


 このことは、俺と彩音の友達、数人しか知らない。


 彩音は『エンジェルスター』が有名になったらみんなに公表すると言っているが、道のりは険しいらしい。


(まぁ、まだ結成して1年も経っておらず、曲はデビュー曲の1曲しか出していないからな)


 すると、突然、彩音が表情を暗くして…


「あのね、葵くん。一つお願いがあるんだ」


「どうした?」


 俺が聞き返すと、彩音はモジモジしながら…


「えーっと……ウチの社長が葵くんの歌唱力に目をつけて、『エンジェルスター』のみんなに歌の指導をしてほしいって言ってるんだ」


「………へ?なぜそんなことに?」


「それは、最近、私と一緒に歌を歌ったでしょ?その時、動画を撮ってたんだけど、その動画を社長に見せたら、他のメンバーにも指導してほしいって言い出して……」


「なるほど…」


 自慢じゃないが、俺は両親のおかげで歌が上手い。


 カラオケでは95点以上が当たり前。


 そのため、彩音に歌の指導をしてほしいとよく頼まれる。


 そして最近、彩音を指導する際に動画を撮った。


 どうやら、その動画には俺の歌声もバッチリ録画されてたらしい。


「俺が男って伝えたんだろ?」


「うん。でも、動画には葵くんの顔は映ってなかったから、声だけで女の子と思ったらしく……」


「oh……」


「結構めんどうなことに巻き込んでしまったことは申し訳ないと思ってるんだけど、葵くんの指導はわかりやすくて、私の歌唱力はグングン伸びたの。だから、他のみんなに1度でいいから指導してほしいなーなんて……どうかな?」


 彩音が上目遣いでお願いしてくる。


(彩音が所属するグループはアイドル業を頑張っているが、なかなか結果が出ない。彩音たちの力になれるかはわからないが、手助けになれるなら手助けをしたい!)


「もちろん、いいぞ!俺でよかったらいつでも頼ってくれ!」


 俺の返答にパーっと笑顔になる。


「ありがと!葵くん!」


 この笑顔を見れただけで、引き受けて良かったって思ってしまう。




 そう思っていたが…


「おい、彩音」


「なっ、何かな?」


 彩音が挙動不審な様子で応える。


「なぜ俺は彩音の服を着て、女性用のカツラをかぶってるんだ?」


 そう、俺が『エンジェルスター』のメンバーに歌の指導を行う日。


 彩音の家に呼ばれたと思ったら、何故か彩音の服に着替えさせられ、黒髪で長さがセミロングのカツラを装着された。


「だっ、大丈夫だよ!とても似合ってるよ!」


「それ、褒め言葉じゃないからな」


「うぅ〜」


 彩音が涙目になる。


「し、仕方ないんだよ。メンバーの子に男性のことが苦手な子がいて、指導する人が男の子って言い切れなくて。社長も葵くんのこと、女の子って思ってるようだし……」


 男性が苦手でアイドルなんてできるのか?という疑問は一旦置いておく。


「はぁ、引き受けてしまったからな。今更断ることもできないだろ。ただし、一回だけだからな」


「うんっ!ありがと!やっぱり葵くんは優しいねっ!」


(俺、彩音に甘いよなぁ)


 そんなことを思いながら、彩音と一緒に歩き出した。




 本日、俺がメンバーに指導を行う建物へと到着する。


 まず最初に社長へ挨拶をするとのことで、俺たちは社長がいる部屋へ足を運ぶ。


 彩音が部屋の扉をノックすると…


「入れ」


 との言葉が聞こえる。


 その言葉に従い、俺と彩音が部屋に入る。


 部屋には、30歳くらいの綺麗な女性がいた。


 その女性から椅子に座るよう促され、俺たちが椅子に座ると…


「私は芸能プロダクション『ソメイヨシノ』の代表取締役社長『三浦亜里沙みうらありさ』だ。今日は私たちのために、時間を割いてくれてありがとう」


 三浦社長が頭を下げる。


 長い黒髪をポニーテールにしており、背も高く、キリッとした目つきをしている。


「ご丁寧にありがとうございます。立花葵と言います」


 俺も簡単な自己紹介を行う。


「ほう。なかなかの美少女じゃないか」


「あはは……ありがとうございます」


(これっぽっちも嬉しくねぇ!)


「さて、今日は彩音を含め、4人のメンバーに歌の指導をお願いしたい」


「任せてください!」


「とても良い返事だ。みんなから好評で、立花さんの技量が素晴らしいものだったら、褒美を考えている。楽しみにしてほしい」


 そこまで言って社長は立ち上がり、部屋のドアを勢いよく開ける。


 すると…


「うわっ!」


「ふえっ!」


「うぉっ!」


 “バタっ!”


 3人の女の子が、ドアを勢いよく開けられた拍子に倒れながら部屋に入ってくる。


「よし、ちょうどメンバーも揃ったことだから、さっそくレッスンを始めようか」


(なるほど…この人たちが他のメンバーか。メンバーの写真を彩音から見せてもらったことはあったが……写真の何倍も可愛いな)


 俺はトーテムポールのように山積みとなっている女の子3人を見て、そう思った。

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