第12話「街の入り口で」
シャドウウルフを退治して食べた、その帰り道のことだった。
いつも元気なクラリスさんが、珍しくフラフラしながら歩いてた。
頬を染めて、目つきもどこかポーッとしてる。
「ホントに大丈夫ですか? クラリスさん」
「ええ、すみません。心配していただいて……」
「顔が赤いみたいですけど、熱でもあるんじゃないですか?」
「ええ、熱はあります……。でもちょっと違う意味の熱なのでお気になさらず」
「……熱があるのに気にしない?」
意味がわからず首を傾げていると。
「ごめんなさい。わけがわからないですよね。でもホントに大丈夫なので……。いつもなら避けられるのに向こうから来たので不意打ちが過ぎたと言いますか……。胸がきゅんときて心臓が止まりかけたと言いますか……。法悦感と背徳感が合わさって天に召されかけたと言いますか……」
うん、説明を聞いてもさっぱりわからない。
わからないんだけど、クラリスさんほどの人が言うなら大丈夫なのだろう。
まあそもそも、聖女でS級冒険者なんていう生きる伝説をボクごときが心配すること自体がおかしいので……。
「大丈夫ならいいですけど、やっぱりどうしても……ってなったら言ってくださいね? その時は支えになりますから」
「ああ……その言葉もキュンキュン来ます……っ。優しさが染み込んで下腹部の辺りにおかしな紋様が刻まれそうです……っ」
おかしな紋様っていったいなんだろうという疑問は残ったが、何を言っても万事この調子なので、ボクは途中で諦めた。
「ところでシャドウウルフの味はどうでした? あのあとさらに一匹狩って、計二匹でしたけど」
今回は幸運なことに、レア種のシャドウウルフを二匹狩ることが出来た。
レベルも上がって十から十一になり、無事スキル『
もちろんボクばかりがラッキーハッピーなんて喜んでもいられないから、クラリスさんにも喜んでもらおうと思って腕によりをかけて作ったんだけど……。
「それはもう美味しかったですよっ。カツレツはカラカラに揚がった衣とジューシーな狼肉の組み合わせが最高で、塩で食べてもソースで食べてもホントにほっぺたが落ちそうなほど美味しかったです。絶対お酒に合うんで、今度はエールも持って来ようと思いましたっ。その後の狼鍋も良かったですっ。魚醤ベースの出汁にセリと長ネギとキノコが入って、そこへ狼肉がドンッ。肉質も良かったですねっ。ゼラチン質が多くてプルプルしてて、ホロホロにほぐれた筋ごと口の中でとろける感じで……ああ、今思い出してもよだれが出そう……っ」
料理の味を思い出したのだろう、クラリスさんが身をよじらせながら感想を口にする。
「さすがに独特の臭みはありましたけど、それもまた味わいというか……ってあらあら? どうしたんでしょう、街の入口が騒がしいようですが……?」
目の上に手をかざし、街の入口を見つめるクラリスさん。
同じ方角を見やると、誰かが揉めているようだ。
いったい何があったんだろうと思って『生命感知』してみると……。
「アレスにハーマンさんにニニギさんにレベッカ──『金水蓮』だ」
見知った名前が表示されたことに、ボクは驚き声を上げた。
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