第9話「グリーンジェリーの天ぷら」
翌日も、その翌日もまた『エイムズファミリア』の活動は続いた。
味噌ベースの味付けが特徴の『ヘラヘラ鳥の煮込み』、塩加減が決め手の『レッドファンガスの姿焼き』。
中でもクラリスさんのお気に入りは、グリーンジェリーを手ごろな大きさに切って丸めて天ぷら粉で揚げ焼きにした『グリーンジェリーの天ぷら』だった。
「はっきゅううう~ん♡」
いつもの声はいっそう甘やかで、瞳の中の星もキラッキラに瞬いている。
「これはすごいですよロッカさんっ。初体験の食感ですっ。サクサクした天ぷらの食感とねっっっっとりとしたグリーンジェリーの食感っ。グリーンジェリー自体の味はどことなくお茶っぽいというか独特の渋みがあるのがクセになりますねっ。岩塩との組み合わせもまた最高でっ。ホントにいくらでも食べられますっ」
グリーンジェリー自体は体長二メートルぐらいのスライム系統の魔物で、コア以外のすべての部分が可食部となる。
重さでいったら成人男性ひとり分ぐらいは余裕であるはずだけど、クラリスさんはぺろりと平らげてしまった。
「お見事な食べっぷりです」
凄まじい食べっぷりに心の底から拍手を送ると、クラリスさんは恥ずかしそうに頬を染めた。
「なんともお恥ずかしい……あら? ロッカさん、また冒険者の腕輪が?」
「わ、ホントだ。光ってる。またレベルアップだ。ええとええと、レベルが六から七に。え、一般スキルゲットっ? またっ? ホントにっ?」
今回手に入ったスキルは『
説明書きを見ると、受けたダメージを微弱ながらも回復してくれるものらしいんだけど……。
「これって何か……何か変かも?」
「ええ……そうですね」
ボクの疑問に、クラリスさんも同意した。
「取得率が高すぎます。それに、こんな系統のスキルは見たことがないですね。受けた傷を自動的に癒すというのは……普通の人間のものというよりは……」
「そうですよね。どこか魔物っぽいというか……まるでグリーンジェリーの持っているそれそのものというか……」
グリーンジェリーを倒す上で大事なのは、一気にとどめを刺すか傷口を火で焼くかしないと再生してしまういうことだ。
レベルが低い魔物なので再生スピード自体は早くないけど、厄介なのには違いない。
「……ちなみにですけど、ロッカさん。『
「……ひとつ目ベアです」
「……食べてました?」
「……はい」
「そのクマさんのスキルはもしかして……」
「……『筋力上昇』です」
「……」
「……」
ボクらは今しがた食べ終えたばかりのグリーンジェリーのコアを、無言で見つめた。
「クラリスさん。もしかして、なんですけど……」
「たぶんわたしも同じことを考えてます。『魔物喰いはレベルアップ時の一般スキル取得率を上げる』もしくは……」
「『魔物の持つスキルを高確率で自分のものに出来る』?」
ボクらは目を合わせると、どちらからともなくうなずいた。
辺境の戦闘部族の風習に、倒した相手の肉を食べるというものがあるらしい。
そうすると相手の強さが自分に移るんだって。
さすがに怪しい話だと思っていたんだけど……。
「だとしても、疑問は残りますよね? どうしてみんなは今まで気づかなかったんでしょう?」
「そもそも魔物を食べる習慣が悪とされていたからではないかと。以前ロッカさんがおっしゃっていたように、それ自体がある種、狩人の特権のようなものだったからではないかと」
「そっか。狩人は基本的には普通の獲物を狩ってみなさんに食べてもらうものだから、魔物は危険を排除するためにしか狩らないからものだから、食べる頻度としては低かった。そのせいで狩人自身にもわからなかったんだ」
「ですです。やりましたねロッカさん。これは世紀の大発見ですよっ」
クラリスさんは胸の前でぱむと両手を打ち合わせると、ニッコニコに微笑んだ。
「わたしは次のレベルまでの必要経験値が多すぎるので滅多なことではレベルアップしませんが、ロッカさんにはこれから無限の可能性があるんです。こんな素晴らしいことはありませんよ」
「クラリスさん……」
自分にはそんなに得も無い話なのに、本当に自分のことのように喜んでくれる。
そのことが嬉しくて、ボクは思わず泣きそうになってしまった。
クラリスさんと出会えてよかった。
パーティーをクビになって、逆によかった。
自分の身に起きた幸運と、今ここにいられる奇跡にボクが感謝していると……。
「さて、そうと決まれば明日からは忙しくなりますね」
「明日から……と言いますと?」
戸惑うボクに、クラリスさんはパチリとウインクひとつ。
「そんなの、決まってるじゃないですか! これからは、狙って魔物のスキルを手に入れにいくんです!」
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