第19話 罠《デバッグモード》

 人事課の富鈴とみすずさんに会いに行った。


「産業スパイを捕まえたい。協力してくれるか」

「面白そうね」

「就職活動用のビデオを撮るという名目で隠しカメラを設置する。犯人がカメラを設置する現場を押さえるんだ」

「相手は誰?」

「経理の冠者かんじゃだ。冠者かんじゃの上司に上手く話しを通してくれ。素の仕事ぶりを撮りたいから、冠者かんじゃには秘密にしてくれと言ってくれ。出張の清算の仕事だ。開発室に相手を用意してある」

「分かったわ」


 僕は出金伝票と領収書を書き上げた。

 それと出張報告書だな。

 これを研究員に持たせる。

 領収書の判子が色々と必要だったが、そこは他人の判子でなんとかした。

 みんな不用心にデスクの上に判子を出している。

 認印押しておくからというと、分かったと承諾してくれるのがありがたい。


 さて次にやるのは研究員が特許ものの、発明をしたという噂だな。

 拡散希望と書いて、SNSと社内メールで流しておけばいいか。


 さて研究室に隠しカメラを設置しにいこう。


 富鈴とみすずさんと研究室にお邪魔する。


「例のお願いに来た」

「待ってました」

「これが相手に渡す伝票と領収書」

「うんうん」


「カメラは本棚のあそこが良いな」


 富鈴とみすずさんがテキパキとカメラを仕掛ける。

 準備は出来た。


「あの、人事の富鈴とみすずさんですよね。私は研究員の若手わかてと言います。こんど食事でもどうですか」


 こいつ、ナンパしやがった。


「いいわよ。この件が終わったら3人で飲みに行きましょう」


 がっくりきた様子の若手わかて研究員。


「絶対ですよ。蘭崇らんすうさん、専務のお相手は見つかりました?」


 それでも食事に行けば仲良くなれるかと思ったのだろう。

 持ち直したようだ。

 立ち直りの早い奴。


「まだだ」

「お相手を探しているの? 証拠とか見つかった?」


 富鈴とみすずさんが興味を示した。


「それがまだ取っ掛かりもない。若い女だろうという以外はさっぱりだ。それも推測だから確実ではない」


 なんとなく富鈴とみすずさんの顔が強張ったように見えた。

 きっと気のせいだな。


「きっと事務職だと思う」


 若手がそう断言した。


「根拠は?」

「目撃されたウィッグの色だよ。自分の髪の毛と違う色のウィッグを被るだろう」

「まあそうだな」

「いま、社内の噂を集めて推測しているところ。どうも黒髪らしいんだよね。該当する女子社員は事務職しかいない」

「賢いな」

「これでも研究員ですから」


「そうかな。そうとも限らないんじゃない。お洒落な人なら服に合わせるわよ。好きな人と会うんでしょ。綺麗に見られたいじゃない」

「女性視点だとそうなるの。分かったと思ったんだけどね」


 若手の推察が正しいのか、さて。

 情報を久美子に送った。


「あれっ、彼女にメールですか? まめですね。こういうまめさがもてるのかな」

「まあそんなところだ。ところで、裏金を定期的に運び込んでいる噂がある」

「へぇ、そんなお金があるなら研究費に回してほしいなぁ」

「私も初耳ね。でもあり得る噂だわ。政府関係の研究施設の機材納入は賄賂が飛び交うという話だから」


 賄賂ねぇ。

 逮捕者が出ないと良いけど。

 自殺者が出る可能性もあるな。


「ふーん、接待されたいなぁ」


 羨まし気な若手。


「ここに集まった3人は接待や賄賂と無縁だな」

「そうね。権限も持ってないし」


「綺麗なおねーちゃんのいる店とか一度でもいいから行ってみたい」

「発言がおっさん臭いぞ。自分の金でいけよ」

「銀座のクラブなんて、とてもじゃないけど手が出ません」


「男の人ってそういうところに行ってみたいの。じっさいは接待なんて気を使うだけで楽しくないって言ってたわ」

「そうなのかな。自分で稼いだお金で行かないと意味ないのかなぁ。特許取りたいよ」


 若手が特許クラスの発明をしたって噂になっているのは言わない方が良いだろう。

 なんでそんな噂流したんですかとなじられそうだ。


「じゃあ、富鈴とみすずさん、そろそろ冠者かんじゃの上司に仕事を頼んでくれ。気取られるなよ」

「分かっているわ。じゃあまた」


 富鈴とみすずさんが部屋から出て行った。

 僕は隣の部屋に隠れよう。

 隠し撮り事態は危険はないはずだ。

 冠者かんじゃは上手く罠に掛かってくれるだろうか。


 なんか引っ掛かる。

 重要な事を聞いた気がする。

 隣の部屋で一人考えるが分からない。

 会話を思い出して久美子に情報をメールした。

 久美子なら何か気づくだろう。

 さあ待つぞ。

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