第17話 不倫《ダミーデータ》
研究員と卓球で汗を流した。
そして、しばしの休憩をしている。
「産業スパイ以外の噂はない?」
僕は研究員に話し掛けた。
「専務が不倫しているらしいですよ」
「えっ、専務が。スキャンダルじゃないか」
「報復が怖いので誰も突きませんが」
「そうだろうな。証拠でもあれば良いが」
「ラブホテルに入っていったのを見た人がいるらしいけど、証拠の写真とかはありません」
ふーん、相手は誰だろう。
「相手は?」
「マスクとサングラスで判らなかったらしいですよ。髪もウイッグみたいだったと」
用心深いな。
「お相手は社内の女かな」
「たぶんね」
「このネタを追うのはやばそうだ」
「噂話ぐらいはいいけど、証拠を握って突きつけたら、たぶん首ですね」
こっちは囮捜査という訳にはいかないな。
女が
さて、どうしたものか。
とりあえず。
「ありがと、後で打ち合わせの人事課の者が行くから、その時はよろしく」
「はい」
研究員が立ち去ったので、今までの情報を久美子にメールで送る。
『専務のパソコンの使用履歴を調べたら良いわ。きっと何か分かるでしょう』
『それは不味いよ。サーバー管理者が裏切ったら僕は首だ』
『首が怖いの? フリーランスもなかなか良いものよ』
『僕は久美子みたいにはやれない』
『私が雇ってあげても良いわ』
『首になったらよろしく。でも無茶はしないぞ。で、ログ以外の作戦は?』
『たぶん同じラブホテルは利用しないでしょうね』
『まあね』
『となると女性社員全てのメールを調べないと』
無茶な事を言う。
『全ては無理だ。絞らないと』
『ウイルスの使用を許可してくれるのだったら出来るわよ。どうする?』
『却下だ。久美子の腕は信用しているけど、ばれたら怖い』
『じゃあ、プログラム的には【ノップ】ね』
『【ノップ】聞いた事がないな』
『何もしないという事よ』
『なんだ。そんなこと』
受付嬢達が入ってきた。
声を掛けるのはちょっと気後れする。
受付嬢となるとオーラが違うな。
スタイルもいいし、美人だ。
きゃいきゃい言いながら、受付嬢達がプレーしている。
輪に入りづらいなぁ。
どうやって話のきっかけを作ろう。
一緒にやらないかは駄目だ。
白い目で見られる。
そうだあれを聞こう。
僕はプレーしていない受付嬢に近寄った。
「ちょっと聞きたいんだ。ある女性のためにバレンタインデーにレストランを予約した。どうやって口説いたら来てくれると思う」
「当たって砕けろで、いいと思う」
「花束を持って誘うのよ」
「正直に一緒に食事でもどうで良いんじゃない」
「必勝法なんてないかな」
「そんなの好きです付き合って下さいって、言ったら。振られなかったら、レストランぐらい一緒に行ってくれるわよ」
他人の恋バナは大好物らしい。
食いついたぞ。
「何か不倫の噂とかない?」
「それ聞いちゃう。誰とは言わないけど、やってる娘はやってるわよ」
「専務の噂を聞いたんだけど」
「専務のお相手を知りたいの?」
「まあね」
「分からないけど社内の女であることは確実ね」
「そうそう、そうでないと変装なんかしないって」
「若い女性だと思うな。お父さんの歳が良いのよ」
「経験者は語るって」
受付嬢が茶化す。
「そんなものよ。安心感を求めているんじゃないかしら」
年齢でフィルターを掛けられるのなら、ある程度絞られる。
親子の歳ねぇ。
「ありがと」
ここまでの情報を久美子にメールで送る。
僕は意を決して電話した。
『バレンタインデーにレストランを予約した。一緒に行ってくれる』
『プログラム的には【プロジェクトクローズ】ね。それまでに事件が解決したら、打ち上げしましょう』
望んでいた答えではないけど、一緒に行ってくれるらしい。
やった。
やっぱり脈があるのかな。
『それで専務の件はどう思った?』
『若い子というのは当たっているかも』
専務はいま40代後半。
お相手は20代前半だと思われる。
若い子は多いから、ちょっと調べづらいな。
でもヒントがあるのは良い事だ。
「オッケー貰えたみたいね。頑張りなよ」
受付嬢の肩を叩かれた。
僕はスマホ片手に、手を上げて応えた。
珍しいことに、遊戯室に警備員のおっちゃんが入ってきた。
勤務のシフトの関係かな。
さぼりではないだろう。
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