第16話 遊戯室《コメント》
会社には遊戯室がある。
開発部署の人達はわりあいと勤務が自由なので、煮詰まったりすると遊戯室に顔を見せる。
他にはさぼりに来る人も少なからずいる。
置いてあるのは卓球台だ。
ピンポン玉を叩いてストレス発散という事らしい。
健康的で良い事だ。
「一緒にやりましょう」
僕は、営業部署の人に声を掛けた。
男性で30代だ。
名前と顔は知っているがあまり話した事のない相手。
「おう、俺の稲妻かかあサーブを受けられるかな」
「よしこい」
「この唐変木の無駄飯食らい」
ストレートサーブが打ち込まれた。
「ふんっ」
僕は打ち返した。
「この飲兵衛野郎が」
言われている口撃が、ぴくりとも掠らない。
「とりゃ」
「この浮気者」
やっぱり、かすらない。
「そりゃ」
それから何度もラリーして、僕の打ち返した玉に、相手は空振った。
「ふぃ、運動不足だから、息が続かん」
「僕もそんなに運動はしてませんよ」
「20代前半なら、ブイブイ言わせているだろう」
「そんなこともないですよ。もっぱらパソコンにかじりついてます」
「それが若いって言うんだ。長時間パソコンやると目がしょぼしょぼするんだぞ」
「そういえば、ここって開発室の連中が良く来ますよね。産業スパイの噂とか聞きませんか?」
「聞くぞ。犯人は見つかってないらしいがな。だが隠しカメラとマイクが仕掛けられていたらしい」
「へぇ、内部犯ですね」
「まあそうだな。電波を飛ばすタイプだったらしいから、近くで映像を見ていたとなると、同じビル内だな」
隠しカメラとマイクか。
そんなので機密書類を見たり、重要事項を聞く事が出来るかな。
出来ないような気がする。
手口が素人臭い。
でもスパイがいる事はたしかだ。
「もう一勝負、いくか?」
「お相手します」
ラリーを繰り返し相手はグロッキー状態になった。
休憩がてら、久美子に情報をメールして、通話を開始した。
『大体の犯人が分かったわ』
『僕でも分かる。
『何か手を考えましょ。プログラム的には【テストデータ】を用意して、流れを追うの。【ブレークポイント】を設置して解決ね』
『今のは解説を聞かなくても分かる。噂を流して犯人をおびき出して、現場を押さえるんだな』
『ええ』
久美子から指示書が送られてきた。
なるほどオーソドックスだけど有効的な手だ。
問題はおぜん立てをどうするかだな。
囮捜査したいから、
それで作戦を考えた。
学生に社内の仕事ぶりを見せたいから、映像を撮りたいとするか。
開発室のメンバーにも就職用のビデオ撮りだと言っておこう。
人事の
作戦的にはそれで良いだろう。
それをメールで久美子に送ってから、再度通話した。
『ばっちりよ。研究室にカメラを仕掛けておく口実も出来たし』
『就職活動に使うビデオ撮影のアイデアは良かったな』
遊戯室に人が入って来た。
開発室のメンバーの研究員だ。
白衣を着ているから丸わかりだ。
ちょっと仲良くなっておこう。
嘘のビデオ撮りをやってもらわないといけない。
「やります?」
「はい、お願いします。行きますよ、さー」
卓球台に何度もピンポン玉を弾ませ、感触を確かめる研究員。
カットサーブを打ち込んで来た。
打ち返そうとして、僕はネットに引っ掛けた。
やるな。
僕は玉を取り、対角線上を睨んだ。
そして、反対側の角にサーブを出した。
視線で誘導したのだ。
虚を突かれる研究員。
「やりますね」
「明後日サーブだ」
「ならば回転サーブです」
研究員は、玉をラケットに付けて構えた。
そして、捻りながら打ち出した。
弾はライフル回転している。
えっと、どう打ち返せば良いんだ。
ええいままよ。
普通に打ち返したら、弾があさっての方向に飛んでいった。
「ずるい。あんなの打ち返せない」
僕は文句をつけた。
「横のドライブで打ち返すと回転を相殺できるよ」
縦に切るように打つといいのか。
なるほどな。
「少し話さないか?」
「何です?」
「就職活動用のビデオを隠れて撮るつもりなんだよ。わざとらしくならないために他の人には伝えないつもりだ。協力してくれない」
「ドッキリみたいで良いですね。おもしろそう。やりますよ」
協力者をゲットした。
さて、もう少し話しをするとするか。
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