第15話 寄せ木細工《キャスト》

 最後は経理パートの亜振あふり 沙羅さら

 真面目な感じの女性だ。


「忙しいところ申し訳ない」

「いいの。仕事は上がりだから」

「パートだったね。なんでパートなのかな?」

「木工を使ったアクセサリーを作っていて、作家を目指しているの」


 そう言って、鳥の寄せ木細工のキーホルダーを見せてもらった。

 上手く作れている。

 確かに売り物になりそうだ。


 見事だったので、写真に撮って、久美子にもメールしておいた。

 案外気に入るかも知れない。

 仕事を頼んだ時の代金として使えるかな。


 亜振あふりさんなら安く売ってくれそうだ。

 スマホが着信音を奏でる。


『もしもし、亜振あふりさんのキーホルダー一つ買って来て』

『分かった』


「話し中、ごめん。君のキーホルダーを気に入った人がいてね。売り物があれば売って欲しい」

「これなんかどうですか」


 亜振あふりがバッグから、リスの寄せ木細工のキーホルダーを出した。


「いくら?」

「じゃあ、千円で」

「安くしてもらって悪いね」

「いいの、あまり売れないので」


 さて場も和んだ所で、話を切り出した。


「去年の2月17日、休んでるよね。差し支えなければどうしてか教えてほしい」

「コンテストに出す為に一日作業してた」

「なるほど。休みに関して言うことはある」

「シフトで調整しているから、普段は問題ない」

「アンケートありがとう」


 これで4人の話が聞けた。

 うーん、誰が怪しいか分からない。

 データを久美子に送った。


 事件を考えていたら、団符だんぷ刑事が会議室に入って来た。


「何か分かったか?」

「睡眠薬が使われてますよね」

「どこでそれを?」

「考えたら分かります。ロープを両手に持って後ろに立つのは難しい」

「まあな。だがお前への疑いは強まったぞ」

「髪の毛とか採取しているでしょ。僕の髪の毛と指紋を提供しても良いですよ」

「ほんとうか。良いんだな」

「取引です。眠らせる時に犯人は部屋にいたと思いますか?」

「よし答えてやろう」


 団符だんぷ刑事が電話を掛ける。

 しばらくして鑑識さんが入って来て、指紋と毛髪を採取された。


「さあ、喋って下さい」

「いただろうな」

「なんで」

「近所の目撃情報がある。夜中にセンサーライトが点いたんで、客かなと思って外を見たそうだ。小屋の周りの金網の扉を開ける姿が見えたそうだ。しばらく見ていたら小屋に入ったが、小屋の中の灯りは見えなかったらしい。共犯の存在も視野に入れている」


 ええと、扉をどうにか開ける所をみていたのか。

 ハンマーとかで叩いたら、流石に分かるな。

 警察は共犯が中から開けたと考えているのか。

 となると共犯は女の可能性が高い。

 可能性がまた一つ増えた。


「犯人が帰った時にセンサーライトは?」

「もちろん点いたが、立ち去った後で、人影は見えなかった。複数犯か確証はない」


「近所の家とどれぐらい離れています?」

「100メートルはあるな。金網の入口は街灯で少し見える。小屋の方は真っ暗だ」

「男か女かも分からない?」

「後から来た奴は小柄だったようだ。女性二人の犯行も視野にいれている」


 うーん、

 ますます混乱してきた。

 女性二人だと痴情のもつれは動機から排除できそうだが。

 3角関係という事も考えられる。

 何かの拍子に女同士が結託した。

 可能性は低そうだ。


 だが女が絡んでいるのは間違いないようだ。

 蜂人はちとが眠るのを男が見ていたとは考えづらいし、蜂人はちとが灯りを点けずに小屋を開けたとは考えづらい。


「密室の謎は相変わらずですか?」

「まだ分からない」


 団符だんぷ刑事が去って行った。

 さっきの話の内容をメールで久美子に送る。


『どう思う?』

『私の解析だともう犯人は分かったわ。後は証拠ね』

『誰だか教えてくれないのだろうな』

『ええ、他人をやたらに犯人扱いするものじゃないわ。プロジェクト作業の時も証拠をつかむまで、バグの犯人は指摘しないものよ。ここくさいでは駄目なの』

『でこれからどうする?』

『他の要因を潰していきましょう。産業スパイ、横領、不倫ね』

『ただの噂だろ』

『調べてみないと何とも言えないわ』


『そうですか』

『キーホルダーはバイク便で送って』

『そんなに気に入ったのか?』

『ええ』


 安いから後10個ぐらい買ってもいいな。

 あとで注文してみよう。

 会社が契約しているバイク便で、キーホルダーを送った。

 月極めなので、料金は掛からない。

 懐に優しくて良い事だ。


 さてと、今は午後二時、頭を使い過ぎた。

 ちょっとリフレッシュしよう。

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