第14話 ゴシップ《スパゲッティコード》

 次は人事課の富鈴とみすず 美麗みれい


「お待たせ」

「無理を言っているのはこっちだから」


「で何が聞きたいの? またデータ?」

「去年の2月17日に休んだよな。なんの理由で?」

「なんだったっけ。覚えてないわ。旅行に行ったのかもね」


 旅好きなら、旅行の日は覚えているはずだ。

 彼女は少しためらったような気がする。

 言いたくないという事かな。


「休みに関して要望はある?」

「今はないわ」

「満足している?」

「ええ」


 意外な答えだ。

 でも何となく見えてくるものがある。

 【今は】と言ったから前または将来的には休みがもっと欲しかった。

 そう考えるのが自然だろう。

 プログラムの事は分からないが、人間の機微なら多少分かる。


「アンケートありがと」

「どういたしまして」


「何か噂とかない?」

「ゴシップとか気にするように思えないけど、まあ良いわ。社内の噂としては産業スパイ、横領、不倫があるわ」

「ありきたりだね」


「産業スパイには散々よ。データとにらめっこして、怪しい奴を探せって言われてもね。勤務表から産業スパイを見抜けるようなスキルはないわ」

「そんな仕事を振られたのか」

「ええ、他社に似たような製品が発売されると、この手の仕事が発生するの。いい迷惑だわ。コピー商品なんて今の時代簡単にできるのに」


「へぇ、横領は?」

「経理の方から流れてきた噂よ」

「監査が入るのかな?」

「それが変なのよ。数字が合わないらしいけど、上が止めているの。横領に上の人が関わっているとの噂だわ」


「不倫は?」

「その噂はしょっちゅうね。途切れた事の方が珍しい。工場勤務も入れたら必ず誰か不倫している」

「そんなもんかな」


「じゃあ行くね。データを渡したんだから、こんど焼肉を奢ってよ」

「分かったよ。月末にでも行こう」

「やった」


 【産業スパイ、横領、不倫の噂】とスマホに書き込んだ。


 うーん、ありがちな噂だ。

 他社の知り合いの話でもこの手の噂は良く出てくる。

 産業スパイを恐れて電子ロックにしたなんて話も良く聞く。


 部屋の出入りを管理すれば、確かにスパイはあぶり出せるかもな。

 電子ロックは何となく嫌だ。

 プログラムに管理されているような気になるからだ。


 横領もそれなりに聞く。

 金額と日付が白紙の領収書を切ってもらって、出張の時とかに、上手く清算したりする。

 小さいのだとこんな手口らしい。

 大きいのだとかだとニュースになるけどな。


 不倫はまあね。

 それなりに噂は聞く。

 実際にしてた人とは会ったことがないが、左遷されたりすると、そういう噂が出る事もある。


 久美子に情報をメールしてから電話した。


『プログラム的には【スパゲッティコード】ね』

『色んな要素が絡んでる?』

『そうね』


『みんな怪しく見えるんだけど』

『プログラム的には【||】で条件を設定している。でも条件式は一つずつ切り離したり【&&】にも出来る』


 分からない。

 もやっとする。


『何か新しいヒントをくれ』

『ロープで絞殺するにはかなり力が要るわ』

『女性には不可能ってこと?』

『男性にも難しいわ。後ろに回って締めたのだとすると、機会を見るのが相当ね。ロープを持って後ろに立つのは難しいわ』

『えっとそれで』


『となると被害者は寝てたと考えられる。たぶん睡眠薬を飲ませられたのね。警察は事実を伏せているはずよ。手口を自白させた時の証拠になるから』

『なるほど』

『プログラム的には【犯人==男性 || 犯人==女性 && 被害者==睡眠薬】って事かしら』

『男性か女性か調べるには?』

『警察は落ちている髪の毛とか、色々と調べているでしょうね』


 スマホに【現場に落ちている髪の毛】と【犯行に睡眠薬が使われる】と書いた。

 事件の流れを想像する。


 犯人が蜂人はちとを訪ねる→睡眠薬を飲ませる→眠るまで待つ→絞殺→密室の細工。

 矛盾はないようだ。

 通話を中断して久美子に送ってみた


 【プログラム的にはもう一つのフローが考えられる】と返信が返って来た。

 【犯人が蜂人はちとを訪ねる→睡眠薬を飲ませる→犯人が小屋から出る→眠った頃に戻って来る→閉まってる小屋に入る→絞殺→密室の細工】とある。

 違いは部屋で眠るまで待つかどうかだ。

 眠るには様子を見せるのは、よほど気を許した相手じゃないと。

 僕が考えた流れでは女性だな。

 しかも男女関係がある。


 久美子の流れだと、部屋に入るには扉を開けないといけない。

 密室に出来るのなら開けるのも出来るはずだから、ここは問題にはならない。


 どっちの流れだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る