第11話 現場百遍《再コンパイル》
会社に着くと外は報道陣でごった返していた。
「亡くなった方とは親しいですか」
会社に入ろうとしたら、マイクを向けられた。
「年に何回か飲みに行ったぐらいです」
「知っている事があれば教えて下さい」
「ありません」
報道陣を振り切って会社に入る。
ロビーで
「おやっ、休みを取っているのに、出勤とは不思議ですな?」
僕の行動を把握しているらしい。
「やっておかないと駄目な業務を思い出したもので」
「情報交換といきたいがどうだ?」
「良いですよ。去年の2月17日に休みを取っていたのは被害者を除けば4人。全員が怪しそうで怪しくない。データはメールで送ります」
「こっちの情報は密室の事だ。害者に小屋へ入れてもらったのなら、出る方法が分からない。棒と引き戸の隙間が数ミリ単位だ。上からきちっと嵌めないと入らない。同じ太さの棒で実験したが。棒が中途半端に嵌って、引き戸を壊して開けた場合。やはり棒はすっぽとは嵌らない。現状から察するに、棒はきちっと嵌っていたと考えられる。換気扇からの細工の跡も見つからない。細工すると細かい傷が出来るもんなんだよ」
「密室が確定しているのは知っています。別の情報がないですか?」
「夫婦仲は最悪だった。だが奥さんにはアリバイがある。夜、子供の為に食べ物を買いにコンビニに行ったのが、防犯カメラに写っている。死亡推定時刻からしてありえない。あんたのアリバイがないのは言っておく」
僕のアリバイはないらしい。
アパートで寝てたからな。
「じゃあ。これで失礼して」
「勝手に動くと困る。4人と会う心算だろう」
「ええ、これから会うつもりです。嫌だな、ちょっとしたアンケートですよ」
正直に言わないと後が怖いからな。
「ふん、どうだか。去年の2月17日が関係しているというネタを追っている刑事はいない。関係ないというのが捜査方針だ。調べても無駄足だと思うぞ」
「動かないと最悪の事態が来そうで怖いんです。言っておきますが無罪ですよ」
本当に密室なのか。
エレベータを降りて、小会議室に入る。
内線で会うべき人を呼び出す。
今は手が放せないようだ。
ちょうど良いので考える。
現場の写真を見た。
入る時に扉の板は、大きいハンマーで壊した。
農作業にハンマーというと首をかしげるかも知れないが、支柱を建てる時などに杭を打ち込んで地面に穴を開けるのだ、
それから支柱を地面に刺す。
引き戸の下の方は壊れていない、棒がすっぽり嵌っている写真も確認した。
こういう密室だと氷やドライアイスなんかで細工するというのが定石だが。
上からすっぽり入れないといけないから、この手の細工でどうにか出来るような気がしない。
密室の謎を解かないと、推理が進まない気もする。
もどかしい。
現場百遍だ。
まずは引き戸。
右手には幅が4センチぐらいのU字溝みたいなのがある。
ここに棒がすっぽりと嵌っている。
単純だが細工がしづらい。
換気扇も見てみた。
しっかりと固定されているように思う。
ここから出るのだったら、かなり無理がある。
幼児でやっとどうかという所だ。
釣り竿は入るが、直径4センチの長さ90センチの棒は重い。
細工は難しそうだ。
出来なくはないだろうが、痕跡は残りそうな気がする。
本棚のアルバムの背表紙を見る。
釣りの記録と書いてある。
たぶん釣った魚の写真が収められているのに違いない。
大工道具を見る。
ノコギリ、トンカチ、電動工具の数々、高圧洗浄機、掃除機も置いてあった。
ツールボックスもある。
中は小型工具と釘などだろう。
そう言えば写真立ての写真は魚を手に一人で写っている奴だ。
子供や奥さんの写真がない。
夫婦仲が冷え切ってたという証かな。
キッチン周りもよく片付けられている。
いや、おかしい。
工具を置いてある場所が乱雑だ。
几帳面ならもっとちゃんと片付けているはず。
日付が月日と日だけのものが混在している。
几帳面とは言えない書き方だ。
本棚の本も、背表紙の高さがまちまちで置いてある。
ジャンルもごちゃごちゃだ。
几帳面な人の本棚とは思えない。
とすると、キッチン周りは誰かが片付けた。
やるとすると犯人だな。
ベッドの周りもよく片付けてある。
ベッドメイキングもしてある。
犯人は几帳面?
何となくそんな気がした。
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