第10話 2月17日《ブレークポイント》
公園のベンチに座り、2月17日の全社員のスケジュールをチェックする。
社員数が200人足らずなのですぐに終わった。
2月17日に代休や有給休暇を取っていたのは
まずは経理の
33歳男性、独身。
趣味、カメラ。
履歴書のデータを見ると、真面目そうな感じの人物だ。
ちょっと神経質そうにも見える。
第一印象と人柄が違うというのは往々にしてあること。
実際に話してみないと分からない。
もちろん会った事はある。
業務上の会話をしたことも。
でも詳しくは知らない。
次は営業の
男性、25歳独身。
趣味、スポーツ全般。
僕と同期入社で同い年。
大学時代はラグビーをやっていた。
マッチョな奴で、明るくて誰にでも仲良く出来る良い奴だ。
次は人事課の
女性、24歳独身。
趣味、旅行。
僕と同じ総務部だ。
今回のデータのいくつかを提供してくれたのは彼女だ。
可愛い系の人で、男性社員に人気がある。
最後は経理パートの
女性、22歳独身。
趣味、物作り。
地味な見た目で、ちょっとオタク臭がする。
でも人当たりは悪くない。
仕事を頼んでも嫌な顔されたことがないぐらいだ。
そして、
広報課勤務。
男性、36歳既婚者、子供が二人いる。
趣味、釣り、DIY、家庭菜園。
この事件の被害者。
とこのようになっている。
ここまで整理したデータを久美子に送る。
『もしもし、データを見た感じはどう?』
『何とも言えないわね。たぶんという人は見つかったわ』
『えっ、もう』
『プログラム的には【条件式】ね』
『えっとどういう?』
『【i<5】と【i==3】は違う条件式だわ』
『そうだね』
『でも【i=3】だと結果は同じ』
うわっ、もやっとする。
今の話にどんな関係が。
久美子がプログラムの話をするのは、きっとパソコン音痴の僕をからかっているに違いない。
からかって憂さを晴らしているんだ。
久美子のもやもやが僕に移動してきているような気がする。
もやもやのゴミ捨て場じゃないんだ。
『条件式は分かった』
『本当に?』
『ええと、共通の趣味を探す』
でたらめに言ってみた。
でも人付き合いは趣味なんかが重なっていると長く続く。
『よく、分かったわね』
正解だったらしい。
釣りと旅行は重なりが薄いがあり得る。
釣りとスポーツは関係ないか。
でも、
そう思って小屋の写真をチェックしたら、アルバムが何冊かあった。
全員、重なっているんじゃないか。
かえって分からなくなった。
『そこから先が分からない。ヒントをくれ』
『プログラム的には【変数k】を追っているのに【変数s】だけを追っても仕方ないわ。二つの変数が関わりあっている事項に注目するの』
『どういうこと? 趣味が【変数s】だとすると休暇である【変数k】と重なりあっている事項』
『そういうことよ』
なんのこっちゃ。
分からない。
どう考えれば良いのか。
例えば旅行という趣味について考える。
旅行しない人などいない。
カメラが趣味の
そうなると全ての趣味が無意味だ。
DIYだって趣味ではなくてもやる人はいる。
ああ、そうか。
休暇である【変数k】か。
そうか、そう考えるのか。
なるほど。
僕なりに答えが分かった。
通話を切って2月14日について調べた。
全員、勤務して、だいたい定時に退社している。
クリスマスやバレンタインデーに残業は悲しいものな。
4人は今日も出社している。
会社でなら話を聞けるだろう。
何を聞くか考えておかないと。
去年の2月17日の休みは何してましたかと聞くのは良いけど理由がな。
犯人と疑ってますとは言えない。
なんて言って聞こう。
休暇の意識調査とでもしておこうか。
これならいいだろう。
まずは休みの理由。
そしてカモフラージュのために、【休みは取りづらいですか? どういう制度があったら嬉しいですか?】と質問しよう。
このぐらいで良いかな。
ベンチから立ち上がり、会社に向かって歩き始めた。
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