第7話 密室《大なりイコール》

「線香を上げに来ただけだ」

「そうか。これから奥さんに聞けば分かるぞ」

「参ったな。情報交換だ」

「まあ良いでしょう」


「去年の2月17日が怪しいと睨んでる。何か特別な事があったんじゃないかと」

「なるほど。こっちの情報は、木戸なんだが、引き戸だったのは知っているよな。その鍵は俗にいうつっかえ棒という奴でな。これがまたちょっと難儀している」

「難儀?」

「木戸に細工の跡がないのだ。ただ隙間から針金は入る。針金だとつっかえ棒が動かせないので、そこが難儀してる」

「どうしても駄目なんですか」

「すっぽりと棒が嵌っていて動かない。ピアノ線の形を変えて実験してみたが上手くいかん」

「ええと木戸に手を入れられる隙間を作ったんじゃないのか」

「くり抜いたりしたら跡が残る。板の風化具合で別の板を持って来たら流石に分かる。そこまで無能じゃない。換気扇の方から何か細工したのではないかと思ってるが、どうもなぁ」


 簡単に破られる密室トリックだと思ったんだけどな。


※挿絵 リンク。


https://kakuyomu.jp/users/455834/news/16817330653550077002


 外から見た略図を書くとこんな感じの木戸だ。

 横板に縦板がくっ付けてある。


 縦板同士の隙間は1ミリもない。

 すっぱり手が入る穴を開けなければ、流石に棒は元には戻せない。

 久美子は【>=】の問題だと言ったが、僕にはさっぱり分からない。


 つっかえ棒の写真を見てみる。

 直径が4センチぐらいの棒で、かなり重そうだ。

 ピアノ線では支えられそうにない。

 僕は棒に鉄板が貼られているのに気づいた。


「つっかえ棒に鉄板が貼られてますよね」

「すっぽり嵌るから、害者も取り外すのに難儀したらしい。強力マグネットの取っ手を付けて外す仕組みのようだ」


 マグネットを換気扇の穴から入れるのは難儀しそうだ。

 室内に鉄製品はごろごろしている。

 ちょっと操作を誤ればピタッとくっ付いてとなるはずだ。


 密室の謎かぁ。

 僕には解けそうにないな。


 団符だんぷ刑事の顔は冴えない。


「なんかがっかりしたような顔をしてますね」

「密室を破るいいアイデアでも出るかと思って期待してたんだがな。それで2月17日の情報はどうなんだ?」

「その日の手帳では出張となっている。会社のスケジュールでは代休なのに」

「ふん、なるほど。スケジュールと日報のデータを寄越せ。あるんだろ」


「それを渡すと公平な情報交換とはならない」

「仕方ない。こっちは会社に資料を請求するか」


 警察に協力を要請されたら断れないよな。

 なんとなくずるい。


 せっかく見つけたヒントなのに。

 

「容疑者は何人なんですか」

「それは喋れないな。犯人に繋がる有力な証言でもあれば別だが」

「仕方ないですね」

「いいか。これ以上首を突っ込むなよ」


 そう言ってから、団符だんぷ刑事は蜂人はちとの家の中に消えた。


『通話、中断してごめん。それでなんの話だったかな』

『もういいわ。それで刑事さんは何って?』

『木戸に細工した跡が無いんだって』

『入れて貰えたのなら、出るのは簡単よ。棒を木戸にもたれかけさせて、扉を閉めるの。そうすれば棒が落ちるわ』


 なるほど。


※挿絵 リンク。


https://kakuyomu.jp/users/455834/news/16817330653550118371



 こうやってから、閉めれば、こうなる。


※挿絵 リンク。


https://kakuyomu.jp/users/455834/news/16817330653550156272



 もう開かないわけだ。

 警察もその事実は知っているはず。

 なんで密室だなんて言ったのかな。


 僕の知らない情報があるに違いない。

 久美子の笑い声が聞こえた。


『何かおかしなことを言った?』

『プログラム的にはね。値が増減するものに関しては【==】は危険なの』


 またもやっとする事を言う。

 嫌いだけど解説を聞かないと。


『ぴったり行くなんて考えたらいけないの。実験してみれば分かるけど、もたれかけさせても上手く棒は嵌らないわ』

『えっ』

『鍵に使うぐらいピッタリなんだったら、そうなるわね』

『からかったのか?』

『ありえない事実を言ったまでよ』


 からかったのだな。

 くそう、そうなると話は違う。

 たぶん棒はぴったりと嵌っていたんだ。

 それで警察は密室と判断した。


『木戸の件は何となく分かった。何かあるか?』

『手帳にある去年の2月14日の飲み会が怪しいわね。だって若い人達はその日は恋人と過ごすでしょう』

『考えなかった。前に言ってた前処理ってこの事か』

『痴情のもつれだとすると2月14日は外せないわ』

『分かった調べて見る』


 僕は同僚の話を聞くべくSNSにメッセージを流した。

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