第4話 供述《ダンプ》

「最初から話してもらおう」


 取り調べ室で刑事さんに重たい口調てそう言われた。


「ええと課長から言われて、会社から電車に乗って千葉の蜂人はちとの自宅に行きました」

「それで?」

「奥さん会って隠れ家にいると聞いたので、電車に乗って小屋まで来ました」

「それでどうした?」

「鉄網の入口の扉に鍵が掛かっていて、呼んだのだけど開かなくて。それからスマホで蜂人はちとの所に掛けました。小屋から着信音がしたので中にいると思って」

「それから」

「警察に電話を掛けたら、駐在さんがきたので。鉄網の入口を開けました」

「おい、矛盾しているぞ。鍵は開かなかったんじゃなかったのか」

「コツを友人に聞いたのです」


 ダイヤル錠の傷の話をした。


「ふん、それで」

「小屋の鍵が開かないので、駐在さんに木戸を壊してもらいました。中に入ったら、蜂人はちとが亡くなっていたという訳です」

「よし、最初からだ」

「ええ、また最初から」


 スマホから着信音がした。


「どこからだ?」

「会社からです。出ても良いですか」

「手短にな」


『もしもし、お疲れ様です』

『お疲れ様じゃないよ。どうなっているの。蜂人はちとの奥さんから電話があって、殺されたと』

『それは本当です。いま警察にいます。今日は帰れないかも知れません』

『仕方ないな。直帰にしておくよ』

『刑事さんが怖いので切ります』


「よし、最初からだ。話せ」

「お腹が空きました。かつ丼を頼みます」

「おい、出前メニューを持ってこい」


 かつ丼は自腹だった。

 おごってくれたりしないのな。


 昼飯を食べてから、また同じ話を何度も繰り返す。


「これで全部か?」

「全部です」


 しつこいな。


「また最初からだ」

「弁護士を呼んでくれ!」


 僕は我慢が出来なくなった。


「怪しいな。今夜は警察に泊まってもらおうか」


 いい加減にしてくれよ。

 僕は何もしていない。

 無断欠勤の確認に来ただけだ。

 何度も話を繰り返すと、おかしくなってしまいそうだ。

 やってもいない犯罪をペラペラと喋りそうな気がする。

 誰か助けてくれ。


 スマホが着信音を奏でる。

 久美子からだった。


 地獄に仏とはこの事か。

 久美子ならこの状況を打破してくれるに違いない。

 そんな気がする。

 プログラム的にこう思うのよと言って。


 こんな事ならダイヤル錠を開けなければ良かった。

 そうすればこんなに疑われなかったのに。

 とにかく久美子には責任を取ってもらう。

 それが相応という物だ。


「出ても」

「誰からだ?」

「友人からです」

「早く出ろ」


『責任をとってくれ』

『赤ちゃんでも出来たような必死さね』

『冗談じゃない。ダイヤル錠の件でたぶん睨まれている』

『刑事さんに代わって』


「刑事さんにだって」


「もしもし」


「えっ、そんな事をおっしゃっても」


「仕方ありませんな」


 刑事さんが通話を切った。


「今日は帰って良いぞ」

「本当に?」

「ただ所在は明らかにしておいてくれ。スマホは持ち歩くように」

「はい」


 名刺を貰った。

 刑事さんの名前は団符だんぷというらしい。

 久美子が団符だんぷさんに何を言ったのか分からないが、とにかく助かった。


『もしもし、さっきは助かった』


 警察署を出て久美子に電話する。


『いいのよ。ちょっと面白くなったから』

『面白いって何が』

『小屋の木戸だけど、プログラム的には【>=】の問題ね』

『どういう意味?』

『それ以上は行かないって事。分からないの?』

『分からないな』


『部屋に入って何か気がつかなかった? 匂いとか』

『木の良い香りがしたな』

『これで分かったわ。どんぴしゃ。私の推理通りよ』

『警察に知らせなくて良いの?』

『警察もすぐに気づくわよ』


 なら良いか。


『僕の無実を晴らしたい』

『任せなさい』

『凄い自信だね』

『アプリは複数の機能が同時に動いているように見えるでしょ』

『うんうん』

『プログラム的には一つの事しかやってないのよ。沢山の情報を一度に表示して、いかにも一度にたくさんの事をしているように見せるけど。見せかけなの。筋道というか流れは一つ』

『僕にはその流れを見つけられないや』

『それなら私に会いに来て。夕飯を一緒に食べましょう。そこで作戦会議ね』


 空模様は雪になっていた。

 とにかく、久美子に会うまでに容疑者を見つけておかないと。

 久美子も容疑者の一人だって言ったら驚くかな。

 きっとすねるに違いない。

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