第13話 見つけた糸口

 

 美海はチョコを手に持って、中学からの同級生の片山に声を掛けた。


「お、今年も来たか。また野球部の奴らに自慢できる。ありがとな」

「ううん!いつも失敗作でごめんなさいだけど……仲良くしてくれてありがとう!」


 美海は、『片山君』とリボンに書かれた小さい包みを手渡した。

 

「しっかし、毎年クラスに義理チョコとか、やる事鬼かよ。しかもどこが失敗作かわかんねえし」

「失敗したのぉ!だからお返しはいらないの!」

「うぇーい」


 ぱたぱたぱた!と駆け去ってはまた他のクラスメイトに近寄っていく美海に微笑んだ後、片山は手の中にある包装紙を開ける。


「うお?!野球のボールチョコ?!これ、縫い目まであるのかよ、すっげえ……食うのもったいないけど朝練もあったし、いただきます」


 野球の硬球を型どったチョコの出来栄えに驚きつつも、片山はじっくりと手を合わせてから口に放り込む。


「……うんまっ!」


 思わず美海の姿を探した片山は、少し離れたところで別の男子、青木に話しかけるその背中を見つけた。




『ええ?!お、俺にもくれるの?!でも、ご、ごめん……チョコ苦手で……あ!でも欲しい!欲しい!大丈夫!』


 一瞬だけ顔を曇らせるも、慌てて手を差し出す青木。側にいた男子、田中と顔を見合わせた美海は、笑った。


『知ってる!田中君から聞いたの!青木君、クッキー好きなんだよね?はい!』

『はあ?!ど、どういう事?』

『あはは!青木、ナイスリアクション!』


 へーい!と笑顔でハイタッチをする田中と美海の横で、青木は目を白黒させて呆然としている。


『仲良くしてくれてありがとう!後でね!』


 そう言って美海は、近くにいた女子達に寄っていく。



 

(ぶは!おっもしれえ。……お前から義理チョコ貰うの、すげえ羨ましがられてんの知ってるか?めっちゃうまいし、手作りだし、お前からだし。さすが天使ちゃん、今年もパねっす。ああ、食い終わっちまう……遠峰の奴め!)


 野球のボールの様にコーティングされたホワイトチョコをゆっくりと味わいながら、美海の恋心を昔から知っている片山はこっそりと溜息をついたのだった。



 その頃。


 休み時間が終わりそうなタイミングで、ほぼ同時に手を止めた芳乃と菜々子。




” 美海が女の子とホームを歩くの見たよ?あと何か男子が騒いで美海達と別の方に走ってた ”


(…何だ?そりゃ。いや……こっから何かわかるかも)


 芳乃は飛び込んできた情報に食いついた。


『騒いでたのは何でだ?美海に関係あるんか?』



《朝、●●ヶ丘駅で女の子介抱してる制服のお姉さんなら見ましたよ》


(キタコレぇ!待ってましたぁ!)


 菜々子は飛び込んで来たリプ返信に食いつく。

 

『聞きたい!もっとkwsk詳しく!!』



” わからない。でも追いかけてった男子の中に美海と同じ制服いたよ? ”


《お姉さんと同じ制服でラケット持ったイケメンさんと何人かで、誰かを追っかけてました》



「「……は?」」


 芳乃と菜々子は同時に声を上げた。

 顔を見合わせる二人。


「なあ!手がかりあった……」

「こっちも今……」


 が、そこで。


 予鈴が鳴り響く。


「「ああああああああああっ!」」


 時間切れに頭を抱え込んだ芳乃と菜々子の絶叫が、クラスに響き渡ったのだった。


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