第12話 絶対に巻き返してやる!

「待って!二人の分はカバンに入ってるの!」


 美海はカバンから両手のひらサイズのラッピングを二つ取り出した。


 ラッピングには「芳乃」「菜々子」と書かれたリボンがつけられている。


「はい!私の親友さん達!」

「『達』?ここに親友は美海一人しかいないけど。苦しゅうないぞよ。あたしも、ほい」

「ぐっはあ!よっしー!今、私呼吸と心臓止まったよ!どうしてくれるぅ!」


 胸を押さえて、よろりふらり、と遠ざかる菜々子におかしそうに笑う芳乃。


「いや、めっちゃ元気ありまくってるだろうがよ。ほら、親友の菜々子ちゃん」

「わーい!じゃあ私からも!みうみうによっしーお母さん、はいどーぞ!」


 毎年恒例の、愛情と友情たっぷりのチョコ交換である。


「……菜々子は今この瞬間からあたしのペットに格下げな?ほら、いーこいーこぉ!」

「ぎゃー!髪の毛もしゃもしゃすんなよ!」

「ぷふう!」


 ぐわっしぐわっし!と菜々子の頭を撫でる芳乃に笑ってしまう美海。


「あんがとな。じゃ、お昼休みまで頑張ってこい。手渡しするんだろ?全員に」

「うん!行ってくるね!」

「おー。こっちはまかせろー」

「いってらー」


 穏やかな表情でサムズアップした芳乃に、にへら、と笑って手を振った菜々子。


 美海が、たたた!と教室の後ろにある自分のロッカーに駆け寄り、ガサゴソと大きな紙袋を取り出した後に同中の男子に近寄っていく。


 大荷物になる為に、昨日のうちに半分ほど持ってきていた義理チョコ入りの袋だ。



 とん。


 とすっ。


 後ろ姿を見送った芳乃と菜々子は椅子に腰を下ろした。


 近くに腰を下ろした互いに気が付かないままに、真剣な顔でスマホをチェックする二人。


(めぼしい情報は……まだない。誰かが持ってったのか、気を遣って届けている最中なのか……それとも別の理由か。情報、情報……くっそ!くっそお!考えろ!考えろ芳乃!斬り込め、見逃すな!いちいち一人一人に確認する時間が惜しい。美海!絶対に何とかしてやっからな!)


(誰かが、誰か見ているはず。ラッシュ時間帯の駅で、時間が限定されていて。しかもみうみうは知る人ぞ知る沿線の有名人。誰も知らない、見てない訳はないんだ。……目ぼしいリプない、でもみんな拡散してくれてる。誰か……誰か!親友のピンチなんだよ!親友が人助けをして、結果がこれだなんて認めない!絶対に巻き返してやる!)


 二人は美海からもらったチョコを頬張りながら、情報をろ過していく。

 




 美海は、決めていた事を二人の後押しで全力を出して。芳乃と菜々子は押した分、全力でサポートをする。

 

 それぞれが今できる事を。

 全力で。


 助け合って。

 手を取り合って。


 そう。


 親友三人はいつも一緒に、笑って泣きたい。


 三人、一緒に。

 いつだって。

 


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