第7話
結婚式当日。遅れてやってきた光紀が花嫁の控室を覗くと、まだ式が始まっていないのに大盛り上がりだった。
「いよいよだね! 最高の晴れ姿だよ、花嫁さん! ごめんね。初めて会った時、嫌な態度取っちゃって。ちょっと、気持ちの整理がついてなかったっていうか、なんていうか。」
「明音さん、いいんです。私も分かってましたから。」
ここまで一緒に準備をしてきた明音も、ウエディングドレスに身を包んだ
かと思えば急に光紀の方へ顔を向け、
「光紀おはよ! 刑事とか忙しそうな仕事なのによく休みとれたね! まあ、この辺で事件なんて滅多に起きないけど。平和だよねーこの辺。」
と話しかけてくる。相変わらず感情が忙しいやつ、と口の中で転がして、詰め寄ってくる明音を避け陽の方へ向かう。もちろん本日の主役を揶揄うためだ。面倒な明音に構っている暇はない。
「おめでとーう。タキシード、似合ってんな。緊張しすぎてガチガチだけどそんなんで式に出れんのか?」
営業をやったことがない光紀でもよく営業が務まるな、と思うほど今日の陽は固まっていた。
「懐葉には悪いけど、俺は結婚式っていうより奈純と会うことに緊張してる。」
「それでいいのかよ、花嫁の前なのに……。」
「懐葉も楽しみって言ってたよ。」
陽の信じられない発言に何も言えなくなった光紀は話を逸らす。
「そういえば奈純は会場に着いてんの? 俺はまだ見てないし、その感じだと陽も会ってないだろ。」
「まだみたいだよ。受付の人に確認して、一応会場は確認したんだけどね。」
光紀の質問に答えたのはウエディングプランナーである明音だ。こんなに軽いノリだが仕事はしっかりこなしているらしい。
「奈純、来るのかな。」
誰のものかもわからぬ呟きは、この場の全員の心にあった。
「奈純、いいの? 結婚式。今出ればきっと開演時間に間に合うよ?」
軽い調子でどっちを選んだって良いという雰囲気を醸し出しながらも、目では早く行ってこいと語りかけてくる繊月。武器などの点検を終え、しっかりと身につけた十六夜はその横を通り過ぎて行き、
「何をしてるの繊月。早く任務に行くよ。」
とだけ言って繊月の数歩前を歩いて行った。
有無を言わせない十六夜の態度に、渋々ながらも繊月は従った。きっと行きたいという思いと、行きたくないという思いのせめぎ合いなのだろう。十六夜の兄分を自称している繊月は、分かったように話題を変えた。
「今日は山小屋に逃げこんだ横領の犯人をとっ捕まえる任務でしょ?汚れそうだよね。山なんて。天気も変わりやすいし、仕事環境としては最悪。」
車での移動中も、静かな十六夜の隣で喋り続ける繊月。あまりにもいつも通りの光景に、どこか張っていた十六夜の表情もやわらいだ。
「さっさと終わらせて、みんなをビックリさせに行こうかな!」
初めて二人が出会ったのは十六夜が中学生の頃。任務では一切表情が動かなかった十六夜は打ち解けていくにつれ、いつも一緒にいる友人の話を繊月にだけしてくれるようになった。
(その時もこんな笑顔だったな。俺に気を許してないわけじゃないだろうけど、やっぱ違うんだろうな。ちょっと妬いちゃうな、俺はこの十数年こんな笑顔にさせられなかった。)
「よっしゃ、行くかぁ。」
ちょっとした嫉妬を感じつつも、晴れ渡った空のような十六夜の笑顔を見た繊月は気分を入れ替え任務に向かった。
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