第3話

 一部始終を間近で見ていた光紀は、あたりの空気がどんどん冷えていくのを感じた。ついでに背中の汗も感じた。滅多に怒ることがない明音が鬼のような形相で陽に掴みかかろうとしているのを、どうすることも出来ずに眺めていた。


 陽の婚約の報告に驚いたのは、なにも明音だけではない。光紀だって、陽や奈純の相談に律儀にアドバイスするくらいには二人の恋を応援していた。ずっと連絡を取り合い、定期的に飲み会をしていた陽から、恋人の話なんて一度も出なかった。むしろ奈純が未だにどこにいるのか分からない、と愚痴っていた気がする。


 それでも陽が選んだのは、明音も光紀も聞いたことのない仕事関係で出会った子らしい。明音の怒りももっともに感じてしまうくらい、光紀にとっても衝撃的な報告だった。


 何とか明音の怒りを収めたと思ったら陽が、

「ウエディングプランナーを貞吉に頼みたいと思ってるんだけど、引き受けてくれる?」

と、また明音が怒るような提案をした。もう良い加減にしてほしい。光紀にはもう、明音をいさめる気力も陽をとがめる気力も湧いてこなかった。





 「で、どうだったんだよ。貞吉ウエディングプランナーさん。」

 結局、明音は押しに負けて陽の結婚式のウエディングプランナーを引き受けた。なんだかんだ陽も大事な友人で、祝福したいという気持ちもあったんだろう、と光紀は考えている。


 肘をつき、ストローを噛みながらアイスコーヒーを飲んでいた明音は、光紀を睨んだ。

 「何? どうだったっていうのは。聞きたいことがあるならはっきり言ってよ。」


 分かりやすすぎる明音に苦笑しながら光紀は尋ね直した。

 「陽とお嫁さんの雰囲気とか、お嫁さんがどんな人だったかとか、色々。」

「いい子だったよ。私たちの事も、奈純の事も全部知ってるんだって。それでも陽と結婚したいって。……だから、どうしたら良いか分かんなくなっちゃった。」


 光紀は、それで決して近くはない自分の職場の近くまで貴重な昼休憩を使って来たのか、と納得した。とりあえず言いたそうな事を全て吐き出させて、その日は解散となった。


 後日、明音から、奈純にも結婚式の招待状を送ることになった。居場所がわからないから、奈純が住んでいた学生寮に送った。と、光紀へ連絡が来た。高校の三年間しか住んでいない学生寮の職員の人たちに奈純の居場所なんか分かるのか、とも思ったが、気休めにはちょうどいい場所だろうと否定はしなかった。

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