ピースメーカー
柴田 恭太朗
白馬に乗った保安官
それは白馬に乗ってやってきた。
何が来たかって? もちろん彼だよ、レザージャケットの胸に星のバッジを光らせた正義の保安官、人呼んで館長のことだ。どうして館長なんて呼ばれたか? 小耳にはさんだところでは断絶が起こる前、保安官は図書館の館長をしていたそうだ。図書館って何って? ああ、お前は本を知らない世代だったね。昔は紙に文字を書いた本というものがあって、おっと、文字を知らないか。そのうち教えてあげるから。話を先に進めていいかい?
変わっていたのは保安官の名前だけじゃない。彼の白馬も変な名だった。何だと思う? トマトだよ。そう、あの赤くてツルンとしたみずみずしいトマト。そうかいお前も好きかい。保安官もトマトが大好きだった。それで愛馬の名前もトマト。もうひとつ理由があるんだけど、それは後のお楽しみ。
大切だからもう一度話しておこう。なぜ断絶が起こったか。
世界戦争で散布されたピースメーカーというバクテリアカクテルが諸悪の根源さ。大気が発火性を帯び、導電性金属を腐食するヤツだ。ピースメーカーのせいで、すぐに戦争は終わった。どんな火薬も電気も使えないし、刀だってダメさ。刃が打ち合って火花が飛んだら爆発しちまうだろ? 戦争が終わるだけなら良かったけど、ピースメーカーは自己増殖して消えない存在になっていたんだなぁ。人類が築いてきた文明はあっという間に崩壊さ。
そんな危機に乗じて悪い教祖が現れた。不安な時代のことだ、民衆は簡単に騙されてしまった。狂った教義を信じた人の手で本という本が焼かれてしまったんだよ。
地道な捜査の末、ようやく館長は教祖の行方を突き止めた。彼の職を奪った憎い
ついに隠れ家から逃げ出した教祖を追い詰めた館長とトマト。
館長は武器を一切使わない、その代わり猛き白馬の前足で熟れたトマトのように踏み潰すんだ。これこそ白馬トマトの得意技、名前の由来でもある。
悪人の最期は一瞬だった。教祖はあっさり潰れて死んだとさ。
めでたしめでたし。
今日のお話はこれでおしまい。そろそろ寝る時間だよ。本がない時代に生まれた子どものお前には、たっぷりとお話を聞かせてあげるから。館長とトマトの活躍が聞きたいかい? いいだろう明日は図書館でトマトと運命の出会いをした話をしようかね。
さあ、いい子だ。ゆっくりおやすみ。
ピースメーカー 柴田 恭太朗 @sofia_2020
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