【掌編】夢の中に現れる『それ』【1,000字以内】

石矢天

夢の中に現れる『それ』


 それは白馬に乗ってやってきた。


「なんでだよ。そこは黒馬にしとけよ」


 私が思わずツッコミを入れてしまったのには理由わけがある。

 なにしろ、その白馬に乗っているのは首無し騎士デュラハンなのだ。


 闇の中から現れる、全身黒づくめの鎧。

 その上にあるはずの頭はなく、胸元に抱えられている。


 なのに!

 白い馬の方が目立ってしまって、一番大事な『首無し』に目がいかない!


 私が怖がらなかったからか。

 それともツッコミにショックを受けたからか。


 デュラハンはくるりの背を向けて、闇の中へと戻っていった。



 ――そこで私は目を覚ました。


「ああ……。夢か」とひとりごつ。悪夢というほどのものでもなかったが、気持ちの良い目覚めではない。


「やっぱり、原因はアレだよなあ」


 昨日の夜、友達に誘われて行った肝試しのせいだ。

 ネットで『デュラハンが出る』と噂されるトンネル。


 結局、デュラハンなんて出てこなくて「しょーもなっ」とか言い合いながら、家に帰ってきて寝たわけだが……まさか夢に出てくるとは。


 デュラハンは出てこなくても、深夜の真っ暗なトンネルは普通に怖かった。

 友達の前では強がっていたものの、心の奥では恐怖体験として刻まれてしまったのかもしれない。しかし、それならもっとデュラハンに登場して頂きたいものだ。


 いや、きっと私は疲れているのだろう。

 疲れていると変な夢を見る、と聞いたことがある。


 その日の晩。

 私はお酒を控え、ヒーリングミュージックを流し、目元を温めて身心をリラックスさせることに努めた。


 少し早めにベッドへと潜り込むと、静かに眠りへと落ちていく。


 しかし、というべきか。やはり、というべきか。

 私はトンネルの前にいた。

 闇の中から蹄の音が聞こえる。


 私はゴクリとつばを飲み込んだ。


 それは白馬に乗ってやってきた。

 白馬の上には全身黒づくめの鎧。

 その上にあるはずの頭は――白い虎だった。


 白馬にまたがり、大声で吠えて威嚇してくる、黒鎧のホワイトタイガー。

 もはやデュラハンですらない『それ』に、私は口をぽかんと開いたまま固まってしまった。


 白い虎の顔を見て、白い馬を眺める。

 虎を見て、馬を見る。

 とら……うま……。トラ……ウマ……。


「しょーもなっ」



 ――そこで私は目を覚ました。


 夢の中で始まった低レベルな大喜利。

 私は『それ』が次はどんな姿で現れるのか、ちょっとだけワクワクしている。




      【了】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【掌編】夢の中に現れる『それ』【1,000字以内】 石矢天 @Ten_Ishiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ